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[*2021年4月20日:一部記載を修正いたしました。]

 

地球生命研究所 一般講演会 2021は「フィールドで科学する」と題して 127日にオンラインで開催されました。講演会中は最大で268人の方々に配信にアクセスいただき、YouTubeチャットからも多くのコメントや質問をお寄せいただきました。「地球生命研究所 一般講演会 2021で科学者に質問してELSIのノベルティをもらおう!」と題して事前にお寄せいただいたものと合わせて、講師の方々には時間が許す限り質問にお答えいただきましたが、時間はあっという間に過ぎ、講演会では残念ながらごく一部しか取り上げることができませんでした。

 

そこで、ホームページ上での回答集を作成いたしました。

お寄せいただいた数多くの質問すべてをカバーすることはできませんが、ELSI一般講演会 2021の講演者、望月智弘特任助教 (ELSI) と、国立研究開発法人 産業技術総合研究所の西原亜理沙特別研究員の回答をぜひご覧ください!

 

なお、以下の質問の多くは講演中・後に視聴者の方々から寄せられたものであることを予めご理解くださいますようお願い申し上げます。講演はELSIのYouTubeチャンネルで公開されています。当日ご参加いただいていない皆様には、以下からご視聴のうえでQ&A をご覧いただくことをお勧めいたします。

 

望月智弘先生の講演「超高温温泉のウイルスから探る生命とウイルスの進化史」はこちら

 

西原亜理沙先生の講演「秘湯で紐解く窒素固定微生物の歴史」はこちら

 

講演要旨など、ELSI一般講演会2021に関する詳細はこちら

 

 

【回答者ご紹介】

 

Tomohiro_Mochizuki_c

望月 智弘 

東京工業大学 地球生命研究所 特任助教。

京都大学農学部卒、同農学研究科修士課程卒業後、フランスのパリ第6大学 (UPMC)(現ソルボンヌ大学)とパスツール研究所にてPhD取得。2014年よりELSIに所属。約100℃の高温熱水中に生息する超好熱古細菌に感染するウイルスの探索をしながら、現代のウイルス叢 (virosphere) の理解を通じ、三十数億年前の生命の共通祖先(LUCA)時代のウイルス叢に迫ることを目指している。

 

Arisa_Nishihara_c

西原 亜理沙

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 特別研究員。

首都大学東京理工学研究科生命科学専攻にて2018年に博士号取得後、同大学の大学教育センター特任助教を経て、20191月より産業技術総合研究所で研究に従事。太古の窒素固定微生物とその進化を探るため、フィールドと研究室を往来しながら、高温環境(特に、陸生温泉)に生息する窒素固定微生物の多様性・生理学・生態学の研究に取り組んでいる。

 

 

【質問と回答】

*QMは望月先生への質問、QNは西原先生への質問です。同様にAMは望月先生からの、ANは西原先生の回答です。

 

****** 望月智弘先生のQ&A ******

 

QM:ウイルスなしに古細菌のゲノムがここまで進化する事はあり得たと思いますか?

 

AM:今の細胞で使われているDNA/RNAポリメラーゼに代表されるような、ゲノム/遺伝子の複製や発現に関わる遺伝子の中にはウイルス起源と考えられるものがいくつかあります。さらに遡ると、太古のRNAワールド(RNAゲノム細胞)時代に、最初にDNA分子を発明したのはウイルス、という説などもあります。古細菌に着目すると、最近ノーベル医学生理学賞の受賞対象となった「CRISPR」は、古細菌や細菌などの原核生物が持つ対ウイルスの免疫システムです。他にもいくつかありますが、現代の古細菌ゲノムは確実に過去のウイルスの影響を受けていると言えます。

 

QM: 超高温温泉に生息する古細菌やウィルスの細胞構造やゲノムを実際に解析する場合、それらが生存したままの状態で観察しているのですか、それとも死滅(不活性)した状態で観察するのですか?また、採集してから解析するまでの間に構造が破壊することはないのですか?解析までの時間や保存方法などを教えてください。

 

AM:ゲノムやタンパク質の解析ではウイルス粒子を分解するので、完全に不活化しています。電子顕微鏡観察などは分解させないので、活性が残る場合もあります。熱水サンプルを採取後は、輸送は常温ですが、その後は冷蔵保存しています。細胞と異なりウイルスの場合は、冷蔵でも数年ぐらいであればかなり活性が残っています。

 

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ELSIのShawn McGlynn 准教授とサンプル採集中の望月先生。伊豆諸島、式根島にて。(Credit: N. Escanlar, ELSI)

 

 

QM:海底付近で高温の水が噴出している部分では橄欖岩の水和によって、蛇紋岩へと変化する過程が進み、それによって水素ガスと磁鉄鉱が発生しますが、それらをエサに微生物、ウイルスが繁栄するというケースはあるのでしょうか。そうなった場合、蛇紋岩の表層を調べると、微生物やウイルスの痕跡が発見されたりするのでしょうか。

 

AM:蛇紋岩化が進めば水素が出ますので、水素を食べる微生物が繁茂します。生物が生きられる最高温度が120℃くらいなので、磁鉄鉱の温度が、それ以下であれば、微生物は見つかると思います。一方、ウイルスは、自身で代謝する(水素を食べる)ことはできませんが、水素を食べる微生物に寄生する形で、ウイルスも繁茂しているかもしれません。培養せずに環境中の遺伝子配列を全て読む「メタゲノム法」を用いれば、そのような微生物群の痕跡を調べることができます。

(水素資化菌に寄生する ウイルス はいるのでしょうか?)培養例は無いようですが、非培養依存のメタゲノム法の解析でhead-tail phage型のウイルス配列が見つかっているようです。
また、水素資化をする別の菌であるメタン菌では培養例もあります。

 

QM:先生が一番好きな、あるいは面白いと思う微生物は何ですか?それはどのような性質のものですか?

 

AM:やっぱり超好熱古細菌ですね。ボコボコした熱湯の中に生命がいるって、それだけで十分面白いですよね?しかもそれが生命の起源に近いって、ワクワク感が止まりません。
逆に、多細胞生物をはじめとした真核生物にはあまり興味がありません。複雑化すると何が起きても不思議じゃない感じがしてしまって。

 

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望月先生が学生時代から研究フィールドとしている伊豆半島(静岡)の高温温泉 (Credit: Tomohiro Mochizuki)

 

QM:はやぶさ2で持ち帰った物質は宇宙での生命の起源を探る貴重な資料ですが、望月先生の研究と将来リンクして人類の究極の問題の答えを探ることになるのではないかと期待しています。先生も期待されているのではありませんか?将来の展望はありますか?

 

AM:具体的な展望とまではいきませんが、今はあのような超貴重サンプルを扱うのは地質屋さんや化学屋さんだと思います。でもいずれは、あのような宇宙由来の物質を我々のような微生物屋さんが扱えるような日が来ると思います。培養は無理としてもメタゲノム法とかで何かしらの微生物っぽい配列が見つかれば全人類を巻き込んだ超ビッグニュースになりますよね。

 

QM:生物が生存できる最大温度はどれぐらいですか。また、どれくらい地下深くまで生存しているでしょうか。

 

AM:今、実験室で培養できる超好熱菌の最高温度は122℃です。おそらく自然界ではそれよりもう少し高い温度でも微生物は生きていると思いますが、自然界での最高温度は誰もわかっていません。深い地下も、数キロぐらいの深度までは微生物が生息していることがわかっていますが、このような大深部では栄養素の制約などもあり、極めてしぶとい菌しか生息できません。数十年から百年くらいかけてようやく一回分裂するような特殊な菌です。

 

QM:超高温温泉の水はどんな味ですか?もしかしたら、原始の地球の味かなと予想しています。

 

AM:場所にもよりますが、海沿いであればショッぱいし、酸性度が高いと酸っぱくなります。太古の海は今よりも鉄分が多かったとされるので、原始の海の味は鉄臭いと思います。

 

QM:海底の熱水噴出口の近くに生息するスケーリーフットについて聞いたことがあります。先生が研究されている温泉でも似たような生物(微生物より大きく、人の目で確認できる大きさ)が見つかる可能性はありますか?また、スケーリーフットは金属を作れるようですが、先生でしたらどんなものを作る生物がいたらいいなと思いますか?ちなみに僕は金か白金を生産してくれる生物を飼いたいです。

 

AM:深海熱水噴出孔の周りにはエビやらカニやら大型生物がウジャウジャしてて、見てて楽しいですよね。残念ながら(?)、陸の高温温泉ではあまり周りに大型生物が集まることはないようです。ただし、熱水が流れ出て50℃くらいに冷めかかったような所では、熱に強い藻類などが密生して一面緑色になったりします。

 

QM:新しいウイルスを発見したら、自分で名前を付けることができますか?そのプロセスはどのようなものですか?

 

AM:ウイルスの正式名称は国際委員会 (ICTV) で決めることになっていますが、基本的には最初に発見した人に命名権があります。また、ウイルスのフィールド(微生物か動物かヒトか植物か、など)によっても、「ギョーカイ内のルール」みたいなものがあって少し傾向が違います。
まずウイルスの分類で非常に重要な「科 (family)」の命名法は、多くはラテン語かギリシア語でその科の特徴をとらえた名前をつけることが多いです。有名な例外として、Microviridae科という細菌ウイルスの中の一部の小さいものは、Gokushovirinae亜科に分類されていますが、この名称は日本語の「極小」からきています。
種名の付け方はギョーカイごとにだいぶ違って、私がやっている古細菌ウイルスの分野では、「宿主菌の種小名、形状、ウイルスのV、番号」、の順につけます。もっと昔から研究されている細菌ウイルスなどでは、「見つかった実験室の部屋番号」のようなテキトーな方法で命名されたウイルスもあります(笑)。そしてヒトを含む動植物のウイルスの場合は、病理的特徴も含めた名称になることが多いです。

 

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伊豆諸島式根島のサンプル採取地点の岩石表面。温泉水に含まれる鉄分により表面が赤くなっている。微生物による光合成が始まる前、生命誕生時の海は鉄分が豊富に含まれていた。(Credit: Natsumi Noda)

 

 

QM:感染という機能にとって、ウイルスの形も大事なのでしょうか?

 

AM:ウイルス感染の最初のステップが、「宿主にくっつく」で、これにはウイルス粒子の形も大きく関わっています。

 

QM:PCR検査では温泉に存在しているウイルスを用いていると聞いたのですが、どのようなものですか?

 

AM:「温泉ウイルス」ではなく、温泉に生息している好熱菌(細菌や古細菌)から抽出した「DNA複製酵素」が使われています。PCR反応は、温度を上げたり下げたりするのですが、高温(たいてい95℃くらい)に晒しても失活しないように、好熱菌由来の酵素が使われています。

 

QM:先生は海外などからサンプルを取ってくるとおっしゃったのですが、 移動する際、温水の温度ど変化などで培養に影響は出ないのですか?

 

AM:輸送は、国内でクール便などが使える場合以外は、ほとんど常温で送っています。ほとんどの好熱菌やそのウイルスは、数日くらい常温に置いても大丈夫なようですが、一部、失活が早いものもあります。そのあたりも含め、「運」との戦いでもあります。

 

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世界中の好熱菌研究者がフィールドとしているイエローストーン国立公園(アメリカ)(Credit: Tomohiro Mochizuki)

 

QM:宿主は別として、ウイルス自体は系統的な分類(単系統)なのでしょうか?それとも、ウイルスはそれ自体多系統であり、その態様はある種の収斂進化の結果なのでしょうか?(動物の系統概念は、そもそも当てはめられないのかも知れませんが…)

 

AM:ウイルスの起源は多系統です。現代の全ウイルスの中で、その起源がすごく古い(例えば数十億年前)ものが多いのか、それとも比較的新しい(例えば数億年前)ものが多いのか、そのあたりもわかっていません。ただし、今後の研究で少しずつ明らかになってくることが期待されています。

 

QM:学生にも協力していただきたいとありましたが、具体的にはどのようなことをどのような方法でするのですか?

 

AM:ライブ配信の際にもこの質問が気になっていたのですが、学年・所属・住まい、などによって色々と変わってきます。

 

QM:人工的な生命をつくるよりも、人工的なウイルスを作るほうがずっと易しいのでしょうか?ウイルスがもし生命ならば、ウイルスが作れれば、「生命は作れる」と言えるのでしょうか?

 

AM:既知のウイルスをPCRなどによりそっくりそのまま合成(複製)して感染させる、というのは、ウイルスにもよりますが比較的簡単にできます。詳しい年代はわかりませんが、モノによっては1990年代くらいから使われていたと思いますし、「遺伝子ツール」などとして商品化も含めて広く使われているものもあります。一方で、完全に全く新しいウイルスをゼロから合成する、というのはまだ成功したという話は聞きませんし、かなり難しいと思います。

 

QM:ウイルスに感染するウイルスも存在するのでしょうか?

 

AM:アメーバに感染する巨大ウイルスである「ミミウイルス」などに感染するウイルスが10年前くらいから見つかっていて、virophageと呼ばれています。「ウイルスに感染するウイルス」なんて、面白いですよね。多くの研究者に、「ウイルスの定義ってそもそも何だっけ?」と考えさせたウイルスでした。

 

QM:ウイルスは生きた細胞でしか生きられないので、ウイルスは生命が退化した姿かもしれない、という説に対してどうお考えですか?

 

AM:先のミミウイルスに代表される超巨大ウイルスは、「既に絶滅した生物界の第4ドメインの成れの果て」という説もあります。しかし、系統解析などから、これらのウイルスは小さいウイルスが段々と肥大化した、という説が有力です。細胞が退化したのであれば、アメーバのみならず原核生物においても巨大ウイルスが存在するはずですが、そのようなウイルスは見つかっていません。

 

QM:高温でもウィルスのタンパク質が壊れない仕組みは、どのようなものでしょうか?

 

AM:高温に適化したタンパク質は、アミノ酸配列レベルでは特に大きな特徴があるわけではないようです。しいて挙げるとすれば、高次構造を維持するためのジスルフィド結合がやや多くなるくらいのようです。逆に、好熱菌のタンパク質は37℃などの温度帯では酵素活性を示さないので、「元々そのような温度に適するように設計されている」のだと思います。

 

 

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温泉水のpH検査。野外フィールドでの大まかなpHの確認には、古典的なpH試験紙が意外と役立つ。(Credit: Natsumi Noda)

 

QM:温度の限界に関して、物理的な限界と生物的な限界が違うとおっしゃっていましたが、その違いはどのような要因によるものと考えられていますか?

 

AM:二本鎖DNAが本来解離するような100℃以上でも、細胞内において分解せずにゲノムとして機能しているのが好例ですが、生命は必要とあれば物理化学的な限界を超える「裏技」を発明することがあります。多くの場合その裏技は、それに特化した酵素の発明だったりします。

 

QM:もともと、生物とウイルスは競争的な関係ではなかったと聞いた事があるのですが、これは生物が免疫細胞を持ち始めた時点から競争的存在となったのでしょうか?

 

AM:免疫細胞を持たない原核生物においても抗ウイルス機構は存在しています。一番有名なのは「制限酵素系」ですし、昨年ノーベル医学・生理学賞の受賞対象となったCRISPRも、原核生物における獲得免疫機構です。その意味で、太古から競争的関係も一部あったのは間違いありませんが、競争的ならぬ協力的関係のものが高等生物よりも多いということはありえるかもしれません。

 

QM:高温耐性ウィルスの酵素の活性中心の金属は、どのような種類のものを使っているのでしょうか?

 

AM:このあたりは私の専門ではありませんが、酵素の活性中心に使われる金属イオンは好熱菌も常温菌も大きく違うわけではない、と認識しています。

 

QM:あるウイルスの中身を他のウイルスの殻に詰めたら、機能に影響あるのでしょうか?高熱などの環境によって殻の組成や構造が反映されているのかなど、気になる点がたくさんです。

 

AM:「あるウイルスの中身(←ゲノムですね)を他のウイルスの殻に詰めたら」たいていの場合はうまく機能しないか、運よく最初の感染が成り立った場合は、「ウイルスの中身(ゲノム)」から次のウイルスの複製が始まるので、「中身側のウイルス」が増殖する、というのが一般論です。ただし、異なるウイルスの間で個々の遺伝子がシャフリングされることはあり、これも進化の原動力になります。一つの細胞が同時に二つのウイルスに感染した際などにこのような現象が起きると考えられています。

 

 

****** 西原亜理沙先生のQ&A ******

 

QN:温泉などの熱水環境も30億年の間で変化しているように思うのですが、現在の温泉での実験は当時の環境の再現に適しているのでしょうか?

 

AN:生命の起源を調べるのに、当時の環境と全く同じ環境を調べる必要は実はありません。理由は、生物のゲノムやその中の遺伝子に、これまで辿ってきた進化の歴史が記録されているからです。初期生命がいた環境に似た、いろいろな(高温)環境の微生物の機能や特徴を調べることで、どういう機能がどんな環境に向いているのか、ということが分かってきます。また、そのような機能をゲノム情報や生命史と紐付けて考えることで、当時の環境や初期生命を推定できるようになります。

 

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微生物群集を野外で採取して、密閉容器に封入しているところ。長野県中房温泉にて。(Credit: Arisa Nishihara)

 

 

QN:研究者になるまで、なってから、一番きついなと感じたことは何ですか?また、研究者に一番必要なことは何だと考えますか?

 

AN:徹夜実験が続いたときは体力的にきついと思いました。研究者に必要なことですが、筋トレをしておくとフィールドワークのときに役に立ちます。あとは、好奇心はあった方が、研究を楽しめて良い気がします。自分が興味を持って知りたいと思ったことの答えを誰よりも早く知ることができるのは、その研究をした研究者の特権だと思います。

 

QN:どうして科学者になろうと思ったのですか?

 

AN:予想外の発見をしたり、その発見について世界のいろいろな研究者と話をしたときに楽しかったからだと思います。

 

QN:先生が一番好きな、あるいは面白いと思う微生物は何ですか?それはどのような性質のものですか?また、反対に嫌な、あるいは怖いと思う微生物はありますか?

 

AN:一番好きな微生物は高温で生育する好熱性細菌です。育てるときに、常在菌の混入をあまり気にしなくて良いので(常在菌は70度以上の環境では増えられない)、比較的気楽に扱えます。嫌な微生物ですが、カビは保存している実験用の溶液や培地に生えることがあるので、嫌だと思うときがあります。

 

QN:日本にはいたるところに温泉がありますが、海外にもあります。サンプルの運搬などの問題があるとは思いますが、もしそういう問題がないとしたらサンプリングしてみたい海外の場所はありますか?その理由はなんですか?

 

AN:アメリカにあるイエローストーン国立公園は行ってみたいと思っています。温泉の微生物の研究が一番進んでいるところなので、聖地巡りをしたいです。

 

QN:微生物は極限環境で何年も生き残るのですか?暑すぎたり寒すぎたりすると、多くの生物が死ぬと聞いています。

 

AN:微生物にはそれぞれ、得意な環境があります。高温環境を好む好熱性細菌は高温でしか増殖することができません。極限環境には極限環境を得意とする微生物が住んでいるので、極限環境微生物にとっては極限環境が理由で死ぬことはありません。

 

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野外サンプルを用いた活性測定のため、微生物群集を野外で採取してすぐに密閉容器に封入し、現地で培養しているところ。長野県中房温泉にて。 (Credit: Arisa Nishihara)

 

QN:温泉からサンプルを採取して研究室に持ち込むとき、サンプルコンテナ内では同じ環境を維持するのですか?そうしないと、サンプルに影響しませんか?

 

AN:サンプルの持ち帰り方は、実験の目的に応じて、同じ環境を維持する場合と、維持しない場合があります。温度変化に弱い菌は高温のまま持って帰りますが、多くの菌は現場の環境(70度)よりも低い温度(常温など)で長く維持することができます。サンプルをDNA実験など、分子遺伝学的な実験に使用したい場合は、現場での菌の状態を保存したいので、現地でサンプルを凍結させ、ドライアイスと一緒に持ち帰ります。

 

QN:最初に発見された微生物は何ですか?

 

AN:微生物の観察記録が詳細に記述されたものは、レーウェンフック (Antonie van Leeuwenhoek) の1677年の論文が初めてです。レーウェンフック は、雨水や歯垢などの様々な環境に生息する原生生物とバクテリアを、自作した顕微鏡を用いて観察・記録しました

 

QN:窒素固定微生物の研究に興味を持ったきっかけは何ですか?

 

AN:真核藻類である珪藻の中にいる窒素固定微生物には、宿主がいないと生きられない細菌がいます。それは宿主(窒素固定微生物を取り巻く環境)に合わせて、窒素固定微生物が進化・適応してきた結果なのですが、その研究をきっかけに窒素固定の進化について興味を持ちました。

 

QN:窒素を体内でそのまま利用できないのにはどのような理由があるのでしょうか?

 

AN:窒素ガスは反応性が低いため、窒素ガスからタンパク質の材料であるアミノ酸を直接合成することはできません。

 

QN:アセチレンガスをエチレンに変える反応は生物体内ではどのように役立っているのでしょうか。

 

AN:アセチレンガスがエチレンに変換される反応では生物はエネルギーを得ていません。窒素固定酵素は特異性は低く、窒素ガスだけでなく、アセチレンガスにも水素を付加する反応ができます。アセチレンやエチレンは生物に取り込まれない上に、ガスクロマトグラフィーで簡単に検出できるので、窒素固定活性の測定に用いました。

 

QN:データ(*講演中に示された研究データ:広報室注)のばらつきは、集塊内に含まれる生物種のばらつきから生じていそう、という結論ですか?

 

AN:生物種というよりは、酸素の浸透度合いなどで生じた嫌気度のバラつきに由来すると考えています。

 

QN:窒素からどのようにしてエネルギーを得るのですか?

 

AN:窒素固定反応からはエネルギーは得られませんが、窒素ガスは細胞やタンパク質を作る材料として細胞内に取り込まれ、重要な役割を果たしています。

 

QN:今回の窒素固定菌について、培養温度を上げていくと、何度ぐらいで窒素固定の活性が失活しますか? 培養を繰り返しているうちに、高温耐性を獲得することがあるでしょうか?

 

AN:今回分離した窒素固定細菌についてはきちんと調べていないのでお答えできないのですが、培養を繰り返しているうちに高温耐性を獲得することは、他の微生物では報告されています。

 

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砂防ダムに形成された微生物集塊。長野県中房温泉にて。(Credit: Arisa Nishihara)

 

 

 

QN:窒素固定細菌は遺伝子の水平伝播によって獲得された可能性はあるでしょうか?

 

AN:窒素固定細菌の遺伝子は、水平伝搬によって獲得されたと考えられています。

 

QN:アセチレンからエチレンへの変化の際に発生したメタンは微生物集塊の窒素固定微生物とはまた別の微生物によるものですか?

 

AN:遺伝子解析の結果から、メタンは窒素固定細菌ではない別の微生物によるものであると考えています。

 

QN:微生物の持つ性質(窒素固定、嫌気性)とその出現時期から、当時の地球環境を推定することが出来るということでしょうか。大変興味深いと思いました。

 

AN:地球環境の変化に伴って、窒素固定に必要なタンパク質も変化しています。どのような機能(タンパク質)を獲得して窒素固定をするようになったのかを調べたり、そのタンパク質の遺伝情報を他の生物のものと比較することで、進化のタイミングや、進化したときの地球環境を推定することができると考えています。

 

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砂防ダムを流れる温泉水を採取する西原先生。長野県中房温泉にて。(Credit: Arisa Nishihara)

 

 

QN:窒素固定細菌が誕生してから、光合成細菌が誕生したというお話でしたが、窒素固定細菌の中には光合成微生物も存在しています。光合成と窒素固定には密接な関係があるのですか?

 

AN:光合成に必要な酵素と窒素固定酵素は実は非常に似ています。タンパクの構造や配列の類似性から、共通のタンパク質の祖先を持つと考えられています。

 

 

 

****** 最後に、お二人に質問です。******

 

Tomohiro_Mochizuki_c Arisa_Nishihara_c

QMN:仕事の場所が温泉というのは羨ましい限りです。スライドに出て来た「秘湯の会」は何か所か行くと無料宿泊もプレゼントされると思うのですが、これまで全国で何か所くらいの温泉に行かれたのでしょうか?

 

AM:温泉地の数ではないですが、採取した源泉の数では、数百に達しています。ただし無料宿泊をプレゼントされたことはありません。。。

 

AN:中房温泉は30回は行きましたが、他の温泉にはあまり行っていません。(無料宿泊券はいただきましたが、使用したことはありません)

 

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一般講演会当日の配信画面より。上段左から時計回りに:西原亜理沙特別研究員、司会の中村龍平教授 (ELSI)、望月智弘特任助教

 

 

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質問をお寄せくださった皆様、ありがとうございました!