現代社会では、今までになくコミュニケーションがしやすくなっています。私たちは、台風への準備、病気の蔓延の防止、差し迫った地震の警告などの情報を簡単に共有することができます。一方で「フェイク・ニュース」の急増から危惧されるように、一般の人々、政策立案者、教育者、芸能人を含む社会のすべてのメンバーが基礎科学に対する十分な理解と尊重の気持ちを持っていないと、高度情報化社会のせっかくの利便性を損なう可能性があります。科学者はもはや、危機の時に専門家としての意見を尊重されたり、平穏時に持続的に研究資金を受け取ることを当然と考えてはなりません。
これまで以上に、科学者は象牙の塔から出て、社会の他のメンバーとの関係を強化する必要があります。私たちの研究が成功し安定して継続するには、私たちは社会全体にわたる緊密で効果的なつながりを構築しなければなりません。現代の科学者は、社会が科学研究に投資する理由と、自分達がこの投資にどのように報いることができるかを学ばなければなりません。私たちは、専門知識を一般の人々や政策立案者にできるだけわかりやすく伝える方法を学ぶ必要があります。また、次世代の科学者を確実に養成するため、社会のニーズや経済の変化に敏感に対応する必要があります。
近年、科学者は社会にとって有益である研究に注力すべきである、また研究経費を得るため民間からの投資を増やす活動をすべきであるという圧力が高まっています。「将来の社会が直面する問題を解決する」ことを目指して日本政府が発表した、「ムーンショット型研究開発制度」はその表れでしょう。その背景には、現代社会の最も根本的な問題、特に地球と人類社会の持続可能性に関する問題を解決するためには、基礎的科学研究が絶対的に必要であるという事実があります。生命が惑星上にどのように生まれ進化したかを研究テーマとして掲げ、社会からの寛大な支援を受けて設置され運営されてきたELSIは、この重要な研究課題に取り組むことをその使命と考えています。
これらの理由から、ELSIの第9回国際シンポジウムは「社会の中の科学」(あるいは「社会のための科学」)をテーマに開催予定です。今回のシンポジウムの目的は、科学者が社会に貢献する(あるいは、すべき)多くのやり方について議論することです。そのため、ELSIの研究者ネットワークを駆使するほか、科学と社会の間の重要な架け橋の維持を専門とする他の専門家とのコラボレーションを企画しています。