炭素質隕石は、初期の地球にとって不可欠な有機化合物の供給源であり、一部の科学者は、これらの有機物が地球上の生命の起源に不可欠であったと考えています。ELSIの研究者を含む研究チームは、今回初めて、炭素質隕石から個々の有機分子を非接触型原子間力顕微鏡で可視化し、太陽系最古の有機化合物の構造を原子レベルの分解能で理解するための新しい方法を開発し、その成果をMeteoritics & Planetary Science誌に発表しました。

 

 

 

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図1. マーチソン隕石の未処理の試料の撮影像。左は分子が吸着している表面の走査型トンネル顕微鏡による概要画像。右は、0.5 nmのスケールバーで撮像した個々の分子。(d)〜(h)は、AFMデータ(左)とハイパスフィルタをかけたAFMデータ(右)を示しています。Credit: Meteorit. Planet. Sci. 2022

 

 

 

隕石は、太陽系の起源に関する手がかりを得ることができる重要なサンプルです。炭素質コンドライトは、入手可能な最も原始的な太陽系材料の1つです。1969年にオーストラリアのビクトリア州マーチンソンの近くに落下したマーチンソン隕石は、最もよく研究されている炭素質コンドライトです。

 

スイスのIBM基礎研究所が率いる研究チームは、東京工業大学地球生命研究所(ELSI)のHenderson James Cleaves特任教授をはじめ、NASA、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステラ大学、フランスのノルマンディー大学、エクス・マルセイユ大学、フランス大学研究所の研究者らと共同研究を行い、マーチソン炭素質隕石から個々の有機分子の画像を直接AFMで取得することに初めて成功しました。これにより、太陽系最古の有機化合物の構造を原子レベルの分解能で理解する新たな道が拓かれました。

 

研究チームが使用したのはCOを先端に結合させた探針を用いた非接触型原子間力顕微鏡(AFM)です。未処理のマーチンソン隕石では、AFMでは識別できない小さな分子が含まれ、高い解像度の撮影像を得ることができませんでしたが、有機溶媒を使用して、粉砕および抽出ステップをいくつか経ることで、サイズの大きな有機化合物が豊富な画分を分離することで、AFMで分解できる分子の割合が増加しました。

 

 

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図2. COを先端に結合させた探針を用いた非接触型原子間力顕微鏡によるマーチソン隕石中の個々の分子のAFM像。左:マーチソン隕石の未処理試料の個々の分子(プロピルナフタレン)。右:マーチソン隕石から抽出した個々の分子(ピレン)。Credit: Meteorit. Planet. Sci. 2022 / IBM Research

 

研究チームが直接可視化できた分子は、複雑な多環芳香族炭化水素と脂肪族鎖でした。これまでの研究から、これらの分子はマーチンソン隕石に存在することがすでに示唆されていましたが、今回の研究によってその存在が直接確認されました。

 

本研究により、研究チームは隕石から個々の有機分子を画像化し識別するためにAFMを用いることができるということを証明し、また新しい試料の抽出・準備方法を開発しました。

 

 

掲載誌  Meteoritics & Planetary Science 
論文タイトル  Visualisation and identification of single meteoritic organic molecules by atomic force microscopy 
著者  Katharina Kaiser 1, Fabian Schulz1, Julien F. Maillard2, Felix Hermann1, Iago Pozo3, Diego Peña3, H. James Cleaves II4,5, Aaron S. Burton6, Gregoire Danger7,8,9, Carlos Afonso2, Scott Sandford10, Leo Gross1*
所属  1. IBM Research—Zurich, Rüschlikon, 8003 Switzerland
2. Normandie Univ, COBRA, UMR 6014 et FR 3038 Univ Rouen, INSA Rouen, CNRS IRCOF, 1 Rue Tesnière, Mont-Saint-Aignan Cedex, 76821 France
3. Departamento de Química Orgánica, Centro Singular de Investigación en Quımíca Biolóxica e Materiais Moleculares (CiQUS), Universidade de Santiago de Compostela, Santiago de Compostela, 15782 Spain
4. Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology, 2-12-1-IE-1 Ookayama, Meguro-ku, Tokyo 152‑8550 Japan
5. Blue Marble Space Institute for Science, 1001 4th Ave, Suite 3201, Seattle, Washington, 98154, USA
6. Astromaterials Research and Exploration Science Division, NASA Johnson Space Center, MS XI-3, Houston, Texas, 77058 USA
7. Laboratoire de Physique des Interactions Ioniques et Moléculaires (PIIM), CNRS, Aix-Marseille Université, Marseille, France
8. CNRS, CNES, LAM, Aix-Marseille Université, Marseille, France
9. Institut Universitaire de France, Paris, France
10. Space Science Division, NASA Ames Research Center, MS 245-6, Moffett Field, California 94035 USA 
DOI  10.1111/maps.13784 
出版日  202221