惑星の〝極“(北極と南極)の地理的位置が変動することは知られていますが、地球の場合、プレートテクトニクスによって大陸も移動するため、真の”極“移動を解析することが困難です。そのため、地球の自転軸に対して地球地殻が移動することがあるのか、地質学者たちの長年の議論の対象でした。東京工業大学地球生命研究所(ELSI)のJoseph Kirschvink教授らは、古地磁気学研究によって、白亜紀後半に、地球の”極“の地理的位置が移動していたことを示す有力な証拠を発見し、Nature Commnications誌に成果を発表しました。
天体や惑星の自転軸と地表が交わる点を極(北極、南極)といいますが、地球の極が過去に違う位置にあったかどうかについて、研究者たちは長い間議論してきました。地球の大陸はプレートテクトニクスによって移動していることが知られていますが、これは表面が動いているだけで、地球の極自体が変動しているわけではありません。数十年にもわたって議論されているのは、地球の極が変動する「真の極移動」が過去に起きたかどうかについてです。特に、白亜紀後期である約8,400万年前に、大規模な真の極移動が起きたかどうかについては白熱した議論が交わされています。
ELSIの主任研究員Joseph Kirschvink教授(カルフォルニア工科大学教授も兼任)と中国科学院地質・地球物理学研究所(北京)のRoss Mitchell教授が率いる研究チームは、この問題に、岩石などに残留した過去の地磁気を分析する「古地磁気学」を用いて挑みました。
地磁気は、地球の深部にあるコアの外核が生み出しています。外核は鉄を中心とした液体の金属で構成されており、この液体が地球の自転にともなって対流することで地球の磁場が生み出されています。長い時間スケールで見れば、この活動はマントルや地殻の移動の影響を受けません。よって、岩石に残された地磁気の記憶を読み解けば、見かけの極移動ではなく、真の極移動を見ることができるのです。
研究チームは、イタリアの北アペニン山脈のフルロ付近に露出しているScaglia Rossa石灰岩(図1)と、中央アペニン山脈にあるApiro Dam湖の西にある道路の切通し(図2)で高解像度の試料採集を実施しました。試料は、空冷と水冷の両方の機能を備えた、携帯用のガソリン駆動のダイヤモンドチップコアリングドリルを使用して現場で掘削されました。
Scaglia Rossa石灰岩は、約8,500万年前(後期白亜紀)に、古代の地中海の浅い海底に堆積したものです。この地域の岩石は、間接的に恐竜を絶滅させた小惑星の衝突の発見につながったことで有名です。Apiro Dam湖の切通しは、8,000万年前に起こった大規模な地磁気の逆転の境界を横切っています。
このような場所から採取された配向性の高い試料は、それらが形成された古代当時の地磁気をよく残しています。さらに、これらの堆積岩に含まれる磁性鉱物は、体内に微小な磁石を形成する走磁性バクテリアの化石であることがわかっています。走磁性バクテリアによって生成された磁鉄鉱の微小な結晶は、小さなコンパスの針のように並んでおり、岩が固まると堆積物に閉じ込められます。そのため、この化石となった磁性が、スピン軸の傾きを追跡するための手がかりとなるのです。
研究チームは、超伝導量子干渉素子(SQUID)を搭載した高感度の磁力計を使用して、非破壊岩石磁気実験を行いました。アペニン山脈のScaglia Rossa石灰岩に記録された緯度の変化(図3)から、8,600万年前から8,000万年前の間に、イタリアが赤道に向かって一時的に移動したことが示されました。また、この結果は、太平洋の海底の岩石から収集された磁気データから観測された結果と一致しています。
さらに、研究チームは、地球が8,400万年前に約12度傾いていたことを示す証拠を発見しました。地球は横に傾いた後、逆方向に回転して元に戻り、約500万年の間に合計で約25度の孤を描いていたのです。この発見は、地球上の生命の進化にも影響を与えた可能性があり、今後の更なる調査が必要です。
掲載誌 | Nature Communications |
論文タイトル | A Late Cretaceous true polar wander oscillation |
著者 | Ross N. Mitchell1,2*, Christopher J. Thissen3, David A. D. Evans3, Sarah P. Slotznick4, Rodolfo Coccioni5, Toshitsugu Yamazaki6, Joseph L. Kirschvink2,7 |
所属 | 1. State Key Laboratory of Lithospheric Evolution, Institute of Geology and Geophysics, Chinese Academy of Sciences, Beijing, China. 2. Division of Geological and Planetary Sciences, California Institute of Technology, Pasadena, CA, USA. 3. Department of Geology and Geophysics, Yale University, New Haven, CT, USA. 4. Department of Earth Sciences, Dartmouth College, Hanover, NH, USA. 5. Honorary Professor, Università di Urbino, Urbino, Italy. 6. Atmosphere and Ocean Research Institute, The University of Tokyo, Chiba, Japan. 7. Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology, Tokyo, Japan. |
DOI | 10.1038/s41467-021-23803-8 |
出版日 | 2021年6月15日 |