岩石惑星の大規模な磁場は、惑星の深部の核の構造、ダイナミクス、および熱履歴を覗き見るためのユニークな窓となるかもしれません。ELSIの研究者らからなる研究グループは、質量と鉄の含有量が異なる岩石惑星の核の構造と進化について調べた新しい研究をJGR: Planets誌に発表しました。研究チームは、核の成長と生成された磁場の寿命が、鉄の総量と、それが核とマントルの間でどのように分配されているかに大きく影響されることを発見しました。

 

地球の中心部に存在する核は、極度に高温高圧であるという点で、間違いなく地球上で最も過酷な環境です。しかし、この地獄のような環境にある核は、有害な太陽放射から地球の大気を守り、長期間にわたって居住可能な地表環境を維持するのに役立つ磁場を生み出しています。核は、固体金属から成る内核と、その内核を取り囲む液体金属の外核で構成され、地球をはじめとする惑星の磁気活動は、核の液体部分の活発な対流から生まれます。惑星の深部で生成され、大気の上層部にまで現れる磁場は、惑星の最深部を覗き見るためのユニークな窓となります。

 

ELSIのアフィリエイトサイエンティストのIrene Bonati研究員(元ELSI博士課程学生)Marine Lasbleis研究員(Laboratoire de Planetologie of Geodynamique /フランス)は、Lena Noack教授(ベルリン自由大学/ドイツ)とともに、計算モデルを使用して、集積後の太陽系外惑星の核の構造を研究し、磁気活動が現れる可能性と現れた場合の寿命を評価しました。研究グループは、さまざまな質量、鉄含有量、核組成を持つ惑星に対し、パラメータスタディを実施しました。

 

研究グループは、マグマオーシャン期(巨大な衝突に伴う全球的なマントル融解イベント)の終わりと一致するマントルの温度構造を検討することにより、集積後の岩石惑星は初期に固体の内核を有することが一般的であることを発見しました(図1)。興味深いことに、内核の割合は、惑星の質量に大きく依存するのではなく、核とマントルの境界(CMB)の温度、および核の組成に依存していました。前者のパラメータは、鉄の量(核の質量分率)とマントルと核の間での鉄の分配(マントルの鉄含有量#FeM=Fe/(Fe+Mg))の両方の影響を受けます。一方、後者は、鉄以外の軽元素の割合(酸素、ケイ素、硫黄、炭素、水素)に影響を受け,軽元素が混ざると鉄の溶融温度は低下します。その結果、鉄の量が多く#FeM値が高い惑星、および軽元素が少なく鉄に富む核では、固体の核がより大きくなる傾向があります。

 

 

 

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図1(左)固体の内核、液体の外核、および粘性の高い下部マントルの一部を示す惑星内部の概略図。内核が固まると、潜熱や重力エネルギーの解放により,外核に熱を放出します。また外核は、長期的に冷却していくマントルに熱を放出します。これらすべてのエネルギーが外核の対流を促し、磁気活動の原動力になっています。Credit:Irene Bonati
(右)集積後の内部構造。#FeM 値が0、コアの軽元素量が0、惑星全体での鉄の割合X Feを変化させた1地球質量( MEarth)の惑星の構造を黒い四角の中に示しています(左上20 wt.% Fe、右上40 wt.% Fe、右下60 wt.% Fe、左下80 wt.% Fe)。より大きな惑星質量(2 MEarth)、高いマントル鉄含有量(#FeM = 0.1)、およびコアの軽元素含有量が5%の惑星の構造も同様に示しています。Credit:Irene Bonati

 

 

核の進化と生成された磁場の寿命を考慮するときにも、同様のパラメータが重要になります。図2に示すように、惑星全体での鉄含有量が非常に高いかマントルが鉄を多く含む(#FeM が高い)、またはその両方の特徴を持つ惑星は、磁場の寿命が短くなる傾向があります。これは、核が完全に凝固したか、あるいはCMBでの熱流が低下し核の液体部分での対流が抑制されたためです。磁場の寿命は核内の軽元素の存在によってある程度長くなりますが、これらの軽元素の割合や性質については今後さらに研究する必要があります。

 

 

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図2:質量とバルク鉄含有量が異なる惑星の磁場の寿命。黒い四角の内側のパネルは、#FeM = 0で純鉄のコア(軽元素なし)をもつ惑星の場合。#FeM = 0.1および軽元素5%を含む惑星の寿命も示されています。Credit:Irene Bonati

 

 

この研究は、核の構造と磁気活動がさまざまなパラメータによってどのような影響を受けるかという理解に一歩近づくだけでなく、太陽系の岩石惑星の進化に関して心躍る手がかりを提供することもできます。たとえば、火星はマントルの鉄含有量が多いと考えられていますが、このことは火星が現在活発な磁場を持っていない理由を説明するかもしれません。太陽系外惑星については、太陽系外の観測によって惑星の質量と半径を得るだけでは内部構造と熱履歴を把握するには不十分であるため、事態はさらに複雑になります(図3)。内部で生成された磁場と大気との相互作用を研究することで、将来的には、大気観測から内部特性を明らかにできるかもしれません。もちろん、惑星の核については、他にも多くの疑問が残されています。たとえば、すべての岩石質の惑星で、内部の核は中心から凍結し始めるのか、液体の核は完全に混合されているのか、部分的に溶融したマントルがある場合、核はどのように進化するのか、などです。これらの謎のいくつかは、今後数年のうちに明らかになるかもしれません。

 

 

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図3:質量、バルク鉄含量、及びマントル鉄含有量( #FeM)が異なる惑星について得られた磁場の寿命。核は純鉄でできています。2つのパネルにおいて、マントルの鉄含有量が異なると、同じ惑星質量でも惑星半径は異なることに注意してください。Credit:Irene Bonati

 

 

 

掲載誌  Journal of Geophysical Research: Planets 
論文タイトル  Structure and thermal evolution of exoplanetary cores 
著者  Irene Bonati1*, Marine Lasbleis1,2, Lena Noack
所属  1. Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology, Tokyo, Japan
2. Laboratoire de Planetologie of Geodynamique, CNRS, Université de Nantes, Université d'Angers, Angers, France
3. Department of Earth Sciences, Freie Universität Berlin, Berlin, Germany
DOI  10.1029/2020JE006724 
出版日 

2021415