本研究では、Mg2GeO4高圧相の陽イオン副格子における、I-42d型の低温相とTh3P4型の高温相間での秩序無秩序転移を第一原理計算によって予言しました。この全く新しい予言は、数多くの原子配置から比熱のピーク温度を計算することにより成されました。Mg2GeO4はスーパーアースマントル深部の構成物質であるMg2SiO4の低圧アナログ物質であるので、本研究で予言された秩序無秩序転移はスーパーアースマントル深部でも起こると期待され、スーパーアースの内部構造やそのダイナミクスに重要な役割を果たすと予想されます。

 

 

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図1. I-42d型Mg2GeO4 の結晶構造。黄色、灰色、赤色の球はそれぞれMg, Ge, O原子を表している。全てのMg, Geサイトが同等になると、この構造はTh3P4型に変化する。Image credit: K. Umemoto and R. M. Wentzcovitch, 2021, PhysRevMaterials.

 

 

 

近年、地球型系外惑星であるスーパーアースの候補が数多く発見されています。巨大スーパーアース内部の温度圧力は地球のそれよりもはるかに高いですが、そのような超高温高圧条件を実験的に再現することは現在も困難です。そこで、超高温高圧条件下での第一原理計算が、惑星内部構造を数値モデル化する上で大変重要になっています。地球の下部マントルの主要構成物質であるMgSiO3は、地球マントル最深部でポストペロブスカイト (PPV) 構造をとることが知られています。これまでの第一原理計算研究によると、さらなる高圧では、このPPV相は、MgSiO3 PPVà I-42d Mg2SiO4 + P21/c MgSi2O5 à I-42d Mg2SiO4 + Fe2P SiO2 à CsCl MgO + Fe2P SiO2という3段階のポストPPV分解反応を起こします。しかしこれらの予言は静的条件で行われたものであり、温度効果は明示的に取り入れられていませんでした。スーパーアースの深部では温度が非常に高くなっているので、圧力によるものだけでなく、温度によって引き起こされる相転移も研究されるべきでした。

 

 

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図2. (a)静的自由エネルギーと零点エネルギーから計算された低圧比熱(CP)。(b) CPのピーク温度から得られた、I-42d型の低温相とTh3P4型の高温相間での秩序無秩序転移の相境界。Image credit: K. Umemoto and R. M. Wentzcovitch, 2021, PhysRevMaterials.

 

 

 

本研究では、I-42dMg2GeO4について、温度で誘起される秩序無秩序転移を、第一原理計算によって予言しました。I-42dMg2GeO4は、Mg2SiO4の低圧アナログ物質です。I-42dMg2GeO4では、Mg原子とGe原子は8個の酸素原子によって囲まれており、その局所的構造は非常に似通っています。これにより、高温ではエントロピーの効果で全ての陽イオンが完全にランダムに分布し、それによって秩序無秩序転移が引き起こされるのです。全ての陽イオンサイトが同等になると、結晶構造はI-42d型からTh3P4型に変化します。

 

 

 

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図3. MgGeO3 PPVのポストPPV分解反応の相図。青線がMg2GeO4における秩序無秩序転移相境界を表している。Image credit: K. Umemoto and R. M. Wentzcovitch, 2021, PhysRevMaterials.

 

 

秩序無秩序転移温度 (Tc) は、統計力学的手法によって求められました。無秩序相であるTh3P4相を扱うために、56原子からなるスーパーセルについて125個の原子配置を生成しました。それらについてボルツマン因子を第一原理計算によって計算して、そこから分配関数を計算しました。この分配関数からただちに低圧比熱が計算され、そのピーク温度がTcを与えます。このTcは圧力とともに上昇するので、秩序無秩序転移の相境界は正のクラペイロン勾配を持ちます。予言された秩序無秩序転移を取り入れることにより、高温でMgGeO3 PPV à Th3P4 Mg2GeO4 + pyrite GeO2という新たなポストPPV転移反応が起こることが示されました。Mg2GeO4Mg2SiO4のアナログ物質であるので、Mg2SiO4でも秩序無秩序転移が起こることが期待されます。このMg2SiO4はスーパーアース深部マントルの構成物質の一つであるので、本研究で予言された秩序無秩序転移は、スーパーアースの内部構造とダイナミクスに大きな影響を与えるでしょう。

 

 

掲載誌  Physical Review Materials 
論文タイトル  Ab initio prediction of an order-disorder transition in Mg2GeO4: Implication for the nature of super-Earth's mantles 
著者  Koichiro Umemoto1,2 and Renata M. Wentzcovitch3,4 
所属  1. Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology, Tokyo 152-8550, Japan
2. Theoretical Quantum Physics Laboratory, Cluster for Pioneering Research, RIKEN, Wako-shi, Saitama 351-0198, Japan
3. Department of Applied Physics and Applied Mathematics, Columbia University, New York, New York 10027, USA
4. Department of Earth and Environmental Sciences, Lamont Doherty Earth Observatory, Columbia University, New York, New York 10964, USA 
DOI  10.1103/PhysRevMaterials.5.093604
出版日  202198