Max Planck Institute for Mathematics in the Sciences(ドイツ、ライプツィヒ)を拠点とするサラ・バークマー(Sarah Berkemer)研究員と、東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)のショウン・マックグリン(Shawn McGlynn)准教授が行った最新の共同研究から、現生生物の共通祖先であるLUCAの特徴を比較ゲノミクス法を用いて解析することには限界があることが明らかになりました。しかし同時に、太古の生命の進化速度は、現代の進化速度よりもはるかに速いことが示されました。
現在の生物学では、すべての生物は(1)細菌(2)古細菌(3)真核生物のいずれかに分類されていますが、これらの生物はすべて、LUCA(注1)と呼ばれる原始的生物、あるいは生物群から出現したと考えられています。そこで、LUCAがどのような遺伝子を所有していたかを知ることで、最初の生命の誕生についてさらに理解することが可能だと考えられています。
今日では、微生物のDNAを簡単に解読し比較できるようになり、微生物同士がどれほど進化的に近縁かを判断できるようになりました。そして、地球上の全ての生物のDNA配列比較に基づき、各生物種が進化的にどのように関連しているかを示す「全生命の系統樹」を描くことが可能となりました。しかし、これには大きな問題があります。遺伝子の水平伝播とよばれる現象が確認されているからです。これは生物の間でDNAの小断片が「ジャンプ」する現象で、親から子への通常のDNA継承とは異なります。もし原始生命においても水平伝播が起きたとすると、現代に残されているDNA配列を使用して古代の進化を理解しようとすることは、非常に大きな「誤解」を生じる可能性があります。
本研究結果は、現代のDNAの配列比較からは、「最も原始的な細胞の生活様式に関する情報は非常に限られたものしか導き出せない」という、他の先行研究の結論を追認する形となりましたが、同時に数十億年前の生物の進化のスピードについての理解を大きく前進させるものでもあります。
研究チームは、何千もの微生物のDNA相同性データを比較し、得られた何千もの系統樹をさらに分析しました。最も古い遺伝子がいつ派生したのかを特定し、遺伝子がどのように生物間を移動しているかを解明することで、LUCAの性質を明らかにしようと試みました。詳細な分析の結果は、生命の初期進化の段階では、異なる遺伝子群は異なる進化速度で変化していたことを示しました。
本研究により、初期生命の進化のペースに関して初めて議論が出来るようになったことは重要な意味を持ちます。本研究は、原始生命が非常に速く、かつ現代でも検出可能なレベルで進化していたこと、また、初期の生物がどのようなものであったかは正確にはわからないまでも、生命は非常に早い段階から変異し進化していたことを示しています。マックグリン准教授は、地球の最初期の生命がどのようなものだったかを解明するために、現在利用可能なDNAデータを調べる新しい方法を今後も開発し続ける必要がある、と話しています。
(注1)LUCA (Last Universal Common Ancestor): 現生生物の共通祖先。最初の生命が誕生し、それが進化した後、今日の古細菌と細菌に分岐する直前の生物。現代の全ての生物は、このLUCAの子孫であるとされる。
掲載誌 | Molecular Biology and Evolution | ||
論文タイトル | A new analysis of archaea-bacteria domain separation: variable phylogenetic distance and the tempo of early evolution, Molecular Biology and Evolution | ||
著者 | Sarah J. Berkemer1,2,3 and Shawn E. McGlynn *4,5,6, | ||
所属 |
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DOI |
10.1093/molbev/msaa089 |
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出版日 |
2020年4月21日 |