木星の第2衛星エウロパは、氷に包まれた地表の下に大量の液体の水(地下海)をもつ可能性があることから、地球外生命の存在が期待されている星です。地球生命研究所 (ELSI) の丹秀也大学院生と関根康人教授は、実験室内にエウロパの地下海と同じ状態を再現し、現在観測されている地下海の主要成分を保つためには、海底で熱水活動が起こっている必要があることを示しました。熱水活動は生命活動に欠かせないため、この成果はエウロパで生命が見つかる可能性を大きく後押しするものです。
木星の第2衛星であるエウロパは、氷でできた地殻の下に広大な地下海をもっています。多くの研究や観測から生命が存在しているのではないかと期待されていますが、肝心な海の化学組成や、生命活動の鍵を握る熱水活動の有無、またその熱水活動を引き起こす岩石の種類などはわかっていません。これらの情報があれば、エウロパ内にどのような生命・生態系が存在するかをある程度制約して考察することができます。
研究グループは、エウロパ内の硫酸の循環に着目しました。エウロパは、火山活動を続けている木星第1衛星のイオから、常に大量の硫酸を供給されています。この硫酸が地下海に蓄積すれば、硫酸たっぷりの海になってしまうはずです。ところが、エウロパの表面に存在するのはナトリウムと塩素の化合物ばかりで、硫酸の化合物はありません。大量の硫酸がどこに行ってしまったのかは専門家の間で議論の的でした。
研究グループは、エウロパの海底の高圧・高温条件を模擬できる新規の熱水反応装置を開発し、地下海に供給された硫酸がどのような化学反応を起こすかを調べました。その結果、エウロパの海底に熱水活動があれば、この硫酸を化学反応によって除去することで、硫酸の無い海を保つことができることを示しました。
このような化学反応は熱水活動が玄武岩によって供給されることで実現できる可能性があります。もし、エウロパの海底の岩石が火成岩である玄武岩であれば、効果的に海水中の硫酸を除去することができ、玄武岩が供給する熱水反応によって生命のエネルギー源となる水素などの還元剤が生成されます。玄武岩の熱水活動によって、エウロパでは生命活動が支えられているのかもしれません。
掲載誌 | Icarus |
論文タイトル | The role of hydrothermal sulfate reduction in the sulfur cycles within Europa: Laboratory experiments on sulfate reduction at 100 MPa |
著者 | Shuya Tana,b*, Yasuhito Sekinea,c, Takazo Shibuyad, Chihiro Miyamoatob, Yoshio Takahashib |
所属 | a. Earth-Life Science Institute (ELSI), Tokyo Institute of Technology, Tokyo, Japan b. Department of Earth and Planetary Science, The University of Tokyo, Tokyo, Japan c. Institute of Nature and Environmental Technology, Kanazawa University, Kanazawa, Japan d. Super-cutting-edge Grand and Advanced Research (SUGAR) Program, Institute for Extra-cutting-edge Science and Technology Avant-garde Research (X-star), Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology (JAMSTEC), Yokosuka, Japan |
DOI | 10.1016/j.icarus.2020.114222 |
出版日 | 2020年11月23日 |