本研究は、分厚い窒素大気がハビタブルゾーンの境界に与える影響を調べた最初の研究です。また、F~M型星を公転する惑星では、「湿潤温室状態」は起こらず、これまで考えられてきたよりも「暴走温室状態」に入りやすいことも示しました。
系外惑星科学は、この25~30年で飛躍的に発展しました。太陽以外の中心星を公転する惑星で、おそらく生命が居住可能であろう惑星の大気について説明することも、もうすぐ可能になるでしょう。こうしたことを行うために、ハビタブルプラネットの可能性を探る主要なツールであるハビタブルゾーンについて、その位置や幅を正確に見積もることは重要です。
過去の研究では、ハビタブルゾーンの計算を行う場合、地球と同様の大気窒素量を想定していました。しかし、地球大気の窒素圧力は時間とともに変化しており、岩石惑星によって窒素圧力には幅広い多様性があることが示唆されています。
地球生命研究所のRamses Ramirez研究員は、5気圧程度の窒素圧力を持つ惑星のハビタブルゾーンの境界を新たに計算し、1気圧の窒素大気を仮定した場合に比べて、太陽系のハビタブルゾーンの幅は20%まで広がることを示しました(図1)。窒素の量が多くなると、ハビタブルゾーンの内側境界は中心星に近づきます。これにより、惑星が乾燥化する暴走温室状態になり、公転軌道がより中心星に近くなります。これは、主に二つの理由によるものであす。ひとつは、増加する恒星エネルギーは宇宙空間における窒素大気圧を上昇させ惑星を冷却すること、もうひとつは、雲の存在によって高温でも惑星が冷却されるかもしれないということです。
F ~M型星(太陽を含む)を周回する地球のような惑星では、それほど激しくない暴走状態が発生する可能性が考えられていました。この「湿潤温室状態」は、340 K(1気圧の窒素大気を想定)より高温の場合に発生します。その後、成層圏での光分解反応が加速され、地球が保持していた表層水と同量の水が約45億年かけて宇宙空間に散逸します。
しかし、より現実的なモデルを利用した場合、Ramirez研究員の計算によると、F~M型星を公転する惑星には湿潤温室状態は起きないことが導かれました。なぜなら暴走温室状態に陥ってしまうからです。Ramirez研究員は、また、湿潤温室状態はA型星を公転する惑星にのみ起こり得ることを発見しました。A型星は青色の波長でより多くのエネルギーを放出し、そのことが宇宙空間に影響を与え、湿潤温室状態を起こすことができるのです。
これらの結果によって、金星の大気進化についても推測することができます。これまでのところ、金星が海洋を持つことができたかどうかは分かりませんでした。もしそれが可能だったとしても、金星が海洋を失ったメカニズムがわかりません。
「もし金星が水を獲得していたとすれば、「暴走温室状態」に入ることによってその水を急速に失ったと考えられます」とRamirez研究員は言います。研究者の中には、金星は「湿潤温室状態」に陥ったのだと考える人もいますが、ここで得られた結果はその可能性に疑問を投げかけています。
また、この研究では、ハビタブルゾーンの内側境界を中心星により近づける他の理由にも言及しています。「成層圏の温度が高い惑星は、より多くのエネルギーを宇宙空間に放出するため、中心星により接近することができます」とRamirez研究員は言います。
さらに、雲の量が増加したり、成層圏の温度や窒素の圧力が高くなると、惑星が暴走温室効果を引き起こす際の平均表面温度を低下させます(300K、あるいはそれ以下の温度)。このようなことが起きるのは、恒星からの流速が極端に変わると気候フィードバックの安定化が突然終わってしまい、より低温の平均表面温度でも暴走温室効果を起こしてしまうからです。
掲載誌 | Monthly Notices of the Royal Astronomical Society |
論文タイトル | The effect of high nitrogen pressures on the habitable zone and an appraisal of greenhouse states |
著者 | Ramses M. Ramirez1,2 |
所属 | Earth-Life Science Institute, Tokyo, Japan1 Space Science Institute, Boulder, CO, USA2 |
DOI | 10.1093/mnras/staa603 |
出版日 | 2020年3月4日 |