科学者たちは長い間、生物の大量絶滅が多くの新しい種の誕生や進化を促してきたと信じてきました。ところが、東京工業大学 地球生命研究所 (ELSI)のアフィリエイトサイエンティストを含む研究チームによる、機械学習を用いた研究結果から、この通説が真実ではない可能性が示唆されました。

 

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機械学習を適用して、絶滅や種分化といった主要なイベントの長期的な進化と生態学的影響を可視化した図。10億年前のトニアン紀を黄色、現在に至る第四紀までの地質時代を緑色で表しています。赤から青への色の変化は、化石の記録の中で最も破壊的な出来事の一つである後期ペルム紀の大量絶滅を示しています。Credit: J. Hoyal Cuthill and N. Guttenberg.

 

 

これまでの研究から、地球には多くの種が突如、大量絶滅した時期と、逆に多くの新種が出現する時期が複数回あったことがわかっています。科学者たちは、これらの時期を結びつけ、大量絶滅直後に、種の急激な進化や爆発的な多様性の広がりである「放散」が起きたと考えてきました。つまり、大量の生物絶滅が起きて空白になった場所に新たな種類の動物が入りこみ、その生物が急激に進化したと予想していたのです。しかしながら、定量的な分析を行う研究は少なく、特に生物種が急激に多様性を増す「放散」現象に関してはあまり調べられていませんでした。

 

ELSIのアフィリエイトサイエンティストで進化生物学者のJennifer Hoyal Cuthill研究員と、同じくELSIのアフィリエイトサイエンティストで、物理学者であり機械学習の専門家であるNicholas Guttenberg研究員は、化石の記録をAIの機械学習で可視化することで、古生物学にとって重要な5億4,100万年前から現代まで続く顕生代に起きた現象を理解しようと試みました。

 

研究チームは、機械学習の新しいアプリケーションを用いて、約20万種の大規模な公開データベースの中から100万件以上のエントリーを調査し、顕生代の化石記録に基づいた種の時系列上での共在を調べました。その結果、機械学習の助けを借りて特定された進化のパターンは、従来の解釈とは重要な点が大きく異なっていました。驚くべきことに、絶滅後の放散の重要性が強調されてきたこれまでの仮説に対して、大量放散と大量絶滅の時間的なつながりはほとんどないことがわかり、両者の間に因果関係があるという従来の考えは否定されました。

 

この結果について、Guttenberg研究員は、「生態系は動的なものであり、新しいものが現れるために既存のものを淘汰する必要はないのです」と述べています。

 

本研究の画期的な点は、生命の歴史を理解するために必要な膨大な時間スケールと関連する大量の数の種のデータを機械学習の新しいアプリケーションで処理することで、人間が読める形式に可視化したことです。この成果について、Hoyal Cuthill研究員は、次のように説明します。

 

「これは、いってみれば、5億年を超える進化の歴史を手のひらに載せて眺めているようなものです。私たちはこのアプリケーションによって新たな知見を得ることができたのです」

 

また、本研究では、一度生態系を構成していた種が消滅するまでに、平均して1,900万年かかるという結果も示されました。この期間は、種の大量絶滅や大量放散が発生した場合には、はるかに短縮され回転率が高くなります。地球はこれまで5度の大量絶滅を経験しましたが、多くの研究者が現在は6度目の大量絶滅に直面していると考えています。研究チームは、生物種が平均1,900万年存続していた状態に戻るには、少なくとも800万年はかかると述べています。この研究は6度目の大量絶滅についても新たな視点をもたらします。

 

掲載誌  Nature 
論文タイトル  Impacts of speciation and extinction measured by an evolutionary decay clock 
著者  J. F. Hoyal Cuthill1,2,3*, N. Guttenberg2,4,5 and G. E. Budd6 
所属 1. Institute of Analytics and Data Science and School of Life Sciences, University of Essex, Wivenhoe Park, Colchester, CO4 3SQ, UK
2. Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology, Tokyo, 152-8550, Japan
3. Department of Earth Sciences, University of Cambridge, Downing Street, Cambridge, CB2 3EQ, UK
4. Cross Labs, Cross Compass Ltd., 2-9-11-9F Shinkawa, Chuo-ku, Tokyo 104-0033, Japan
5. GoodAI, Na Petynce, 213/23b, 169 00, Prague, Czech Republic
6. Department of Earth Sciences, Palaeobiology Programme, Uppsala University, Villavägen 16, SE752 36, Uppsala, Sweden 
DOI  10.1038/s41586-020-3003-4  
出版日  2020129