東京工業大学 地球生命研究所 ELSI)の小林厚子研究員、広島大学大学院先進理⼯系科学研究科の小池みずほ助教(研究当時国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 、以下JAXA日本学術振興会特別研究員(PD)やJAXAの臼井寛裕教授(ELSIアフィリエイトサイエンティスト)が参加した共同研究チームは、40億年前の火星隕石の炭酸塩鉱物から有機窒素化合物の検出に成功しました。

大型放射光施設SPring-8を用いた最新の化学分析を行い、隕石中の有機窒素化合物が40億年前の火星由来である可能性が高いと結論付けました。

40億年前の火星は、現在ほど酸化的ではなく、還元的な窒素が存在していた可能性を示しました。

 

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図1. 火星隕石ALH 84001の小片(左)と、炭酸塩鉱物の光学顕微鏡像(右)。白色〜薄緑色の輝石集積岩上に、オレンジ色の炭酸塩の粒が偏在している。Koike et al. (2020) より改変。


共同研究チームは、40億年前の火星隕石の炭酸塩鉱物から火星由来の有機窒素化合物の検出に成功しました。これは、かつての火星像を描く画期的な研究成果として、2020年4月24日付(英国時間)の国際学術誌「Nature Communications」に掲載されました。

私たちが現在手にしている「火星隕石」は、火星の岩石の一部が、隕石衝突などで火星重力圏から飛び出し、地球上に到達したものです。1984年に南極で発見された火星隕石Allan Hills (ALH) 84001は、火星のマグマから形成された岩石ですが、40億年前に火星の表層水または地下水から沈殿した炭酸塩鉱物をわずかに含んでいました(図1)。この炭酸塩は火星の古環境の手がかりとして注目され、これまでに多数の分析研究が行われてきましたが、破壊分析を用いた従来法では、隕石への地球物質の混入が避けられず、分析は困難を極めました。

そこで本研究では、高解像度&非破壊分析法を新たに開発しました。研究チームは、実験過程での汚染を防ぐため、ELSIに設置されたクリーン室(クラス100)で、低揮発性メタルテープを用いた試料準備プロトコルを独自に開発し(図2左)、大型放射光施設SPring-8のビームライン(BL27SU)を利用して窒素の局所X線吸収端近傍構造(µ-XANES)分析を行いました。

その結果、ALH 84001炭酸塩からは有機窒素化合物に特徴的なX線吸収ピークが見られたのです(図2右)。一方で、硝酸塩など酸化的な無機窒素は検出されず、40億年前の火星環境が現在ほど酸化的ではなかったことが示唆されました。

 

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図2. 採取したALH84001炭酸塩鉱物粒(左)と、そこから得られた窒素XANESスペクトル(右)。上3つが炭酸塩のスペクトル(Crb-1-3)、下は参照試薬など。水色の網掛け部分が、有機窒素化合物に特有の吸収エネルギー位置。Koike et al. (2020) より改変。

 

 

掲載誌  Nature Communications 
論文タイトル
In-situ preservation of nitrogen-bearing organics in Noachian Martian carbonates 
著者  Mizuho Koike1*, Ryoichi Nakada2, Iori Kajitani1,3, Tomohiro Usui1,4, Yusuke Tamenori5, Haruna Sugahara1, and Atsuko Kobayashi4,6 (*責任著者) 
所属  1)  Department of Solar System Sciences, Institute of Space and Astronautical Science, Japan Aerospace Exploration Agency. 3-1-1 Yoshinodai, Chuo-ku, Sagamihara, Kanagawa 252-5210, Japan.
2)  Kochi Institute for Core Sample Research, Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology (JAMSTEC). 200 Monobe, Nankoku, Kochi 783-8502, Japan.
3)  Department of Earth and Planetary Science, The University of Tokyo. 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033, Japan.
4)  Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology. 2-12-1 Ookayama, Meguro, Tokyo 152-8550, Japan.
5)  Spectroscopy and Imaging Division, Japan Synchrotron Radiation Research Institute. 1-1-1 Koto, Sayo-cho, Sayo-gun, Hyogo 679-5198, Japan
6)  Division of Geological and Planetary Sciences, California Institute of Technology, Pasadena, CA 91125, U.S.A.
DOI  10.1038/s41467-020-15931-4 
出版日  2020424