地球外核の化学組成がどのようなものであるかということは、地球科学において1952年以来、長らく未解決の問題です。本研究では、鉄と5種類の軽元素候補との液体合金について、第一原理計算を用いて密度と音速を計算しました。その結果を地震波測定と比較することにより、地球外核の化学組成を絞りました。
背景
地球の外核は、主に液体鉄ニッケル合金で出来ています。外核の密度と音速は、地震波測定から、PREM(Preliminary Reference Earth Modelの略)という形で数値的にモデル化されています。それによると、純粋な液体鉄に比べて、外核の密度は約10%小さく、音速は約5%速いことが知られています。このことから、外核は鉄とニッケルに加えて、かなりの量の軽元素が存在することが示唆されます。軽元素の候補はケイ素、酸素、硫黄、炭素、水素の5種類があります。しかし、どの軽元素がどれだけ外核に存在しているのかは、1952年にフランシス・バーチによって提起されて以降、まだわかっていません。外核の化学組成を決定するためには、実際に液体鉄合金の密度と音速を測定し、それをPREMと比較するのが有力な方法です。最近行われたいくつかの液体鉄合金についての高圧実験で達成された圧力は約100GPaですが、この圧力は外核の圧力(135—350 GPa)に比べてまだ低いのです。そこで、第一原理計算を用いて外核に相当する超高圧における液体鉄合金の密度と音速を調べることが、有用になってきます。
本研究成果
本研究では、第一原理分子動力学法を用いて、外核の温度圧力条件下における、鉄ニッケルと候補となる軽元素との液体鉄合金 (Fe,Ni)x(H, Si, O, S, C)1-xの密度と音速を計算しました。この計算結果とPREMを比較して、PREMと整合する外核の化学組成を決定しました(図1)。可能な化学組成はかなり広い範囲に渡る一方、その中で最もPREMと良く整合する外核の「最善の」化学組成、すなわちPREMの密度と音速からのずれが最小となる組成が求められました(表1)。「最善の」化学組成は、内核境界(inner-core boundary)の温度(TICB)に依存することが明らかになりました。このTICBは化学組成に関連する温度であり、まだはっきりとわかっていません。もしこのTICBがそれほど高くなければ(~4,800 K—5,400K)、水素が最も主要な軽元素になります。その場合、地球の形成過程において大量の水が地球に運ばれてきたことが示唆されます。一方、もしTICBが高ければ(~6,000 K)今度は酸素が最重要の軽元素であるということになります。
今後の展開
本研究では、液体鉄合金の密度と音速を計算し、それを地震波測定と比較することによって、地球外核の化学組成の可能な範囲を示し、水素の重要性も示しました。さらにこの化学組成の範囲を絞り込むには、密度と音速に加えて、他の束縛条件が役立つでしょう。複数の軽元素が同時に液体鉄に溶け込めるかどうかは重要です。もし同時に液体鉄に溶け込めない軽元素の組み合わせが存在するなら、そのような組み合わせは外核の化学組成の候補からは除外されます。例えば、液体鉄にケイ素と酸素が同時に溶け込みにくいことが既に実験的に報告されています。また、鉄合金の融点もきわめて重大な役割を果たします。外核は液体なので、融点が非常に高くなるような化学組成は除外されます。実験と理論計算の両面から鉄合金の融点について研究することは、外核の化学組成を本研究からさらに絞り込む上で、次の重要な課題になるでしょう。
掲載誌 |
Earth and Planetary Science Letters |
論文タイトル | Chemical compositions of the outer core examined by first principles calculations |
著者 | Koichiro Umemoto1 and Kei Hirose1,2 |
所属 | 1Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology, Tokyo 152-8550, Japan. 2Department of Earth and Planetary Science, The University of Tokyo, Bunkyo, Tokyo 113-0033, Japan |
DOI |
10.1016/j.epsl.2019.116009 |
出版日 |
2019年12月10日 |