日本とアメリカの研究者らは、地球上のロッキー山脈に相当するものを太陽系スケールにまで拡張しました。

 

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若い星、うみへび座TW星を取り囲む環を捉えたALMA望遠鏡画像
地球近くにある若い星うみへび座TW星のALMA画像が、この系で惑星が形成されつつあることを示す典型的な環とその隙間を鮮明に映しています。
Credit:S. Andrews (ハーバード・スミソニアン天体物理学センター)、B. Saxton (NRAO/AUI/NSF)、ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

 

先日Nature Astronomyに発表された研究において、研究者らは太陽系の「Great Divide(大分水嶺)」をつくる原因を明らかにしました。このよく知られた二分性は、太陽が誕生した直後に形成された可能性があります。

 

この現象はロッキー山脈が北米を東西に分けることと似ています。太陽系の大分水嶺の一方には地球や火星のような「地球型惑星」があり、これらは木星や土星のような「木星型惑星」とは根本的に異なる物質で形成されています。

 

「問題は、このような組成上の二分性をどのように作り出すか、ということです。太陽系の歴史の初期において、太陽系内側の物質と太陽系外側の物質が混ざることは無かったということをどうやって確かめることができるでしょうか」と東京工業大学地球生命研究所(ELSI)の研究者で、この研究の筆頭著者であるRamon Brasser特任准教授は言います。

 

Brasser特任准教授と、共著者であるコロラド大学ボルダー校地質科学部のStephen Mojzsis教授は自分達はその答えがわかると考えています。そして、それは地球上でどのように生命が生まれたのかについて新たな光明を投じる可能性があります。

 

重要な手がかりは太陽の円盤状ガス

 

初期太陽系は原始太陽系円盤内のリング状構造により少なくとも二つの領域に分割されたと両研究者は考えています。このリングは惑星や小惑星の進化、さらには地球上の生命の進化史において大きな意味を持っているかもしれません。

 

「組成的な違いが生まれるのは、ガスと塵から成る円盤のもともとの構造が原因だというのが最も可能性の高い説明です」とMojzsis教授は言います。

 

Mojzsis教授とBrasser特任准教授が新たに名付けた「Great Divide」は、今日では大したものには見えないだろうとMojzsis教授は指摘します。Great Divideは、木星の近くに位置する比較的物質に乏しい領域で、小惑星帯のすぐ外側にあたる領域です。

 

しかし、その存在は現在でも太陽系の中に確認できます。その大分水嶺から太陽に向かうと、惑星をつくる構成物質(小惑星や隕石)のほとんどは比較的少量の水と有機分子しか含まない傾向にあります。反対に木星方向へ向かい、海王星を超えると、状況は異なります。太陽系の外縁部にあるほとんど全ての物質は炭素と水の氷を豊富に含んでいます。

 

この二分性が初めて発見されたときは、驚きでした。」とMojzsis教授は続けます。

 

多くの科学者は、その原因が木星にあると考えました。木星は途轍もなく巨大なため、重力の壁として機能し、太陽系外側からの氷の破片や塵が太陽系内部に向かって侵入してくるのを防いでいたと考えていたのです。

 

しかし、Brasser特任准教授とMojzsis教授はその説明に納得していませんでした。彼らは一連のコンピューターシミュレーションから、太陽系の進化における木星の役割を探りました。その結果、木星が大きいとは言え、その形成初期では太陽へ向かう氷の物質の流れを完全にブロック出来るほど大きくなかったことが分かりました。

 

「この結果は、私たちの研究が行き詰ったことを意味していましたから、やり場のない気持ちになりました。もし、その組成上の二分性を造り出し、維持しているのが木星でないのなら、一体他にどんな原因があるのでしょうか」とBrasser特任准教授は言います。

 

わかりやすい答え

 

チリにあるアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)を用いた観測を行なっている科学者は、数年前から、遠方にある恒星の周辺が何かおかしいことに気づいていました。彼らは、若い恒星系がガスと塵の円盤に囲まれていて、赤外波長で観測すると、虎の目のように見えることを発見しました。

 

数十億年前に太陽系にも同様のリングが存在したとすれば、理論的にはそれがGreat Divideを引き起こした可能性があるとBrasser特任准教授とMojzsis教授は考えました。

 

このような環は、塵を含む高圧のガスと低圧のガスの帯を交互に造ります。そして、これらの帯が、太陽系最初期の材料物質をいくつかの部分に振り分けたことによって、ある場所では木星と土星が生まれ、またある場所では天王星や海王星が生まれたのかもしれません。

 

ロッキー山脈では、分水嶺が天水の流れ下る方向を決めます。これは太陽系でも同様で、圧力の高低が物質を分けたのです」 とMojzsis教授は言います。

 

しかし、教授によれば、空間的な壁はきっと不完全なものだったはずだと補足しています。太陽系外側の物質の中にはその壁を乗り越えたものがあるかもしれません。そうやって壁を乗り越えた物質は私たちの地球の進化にとって重要だった可能性があります。

 

Mojzsis教授は続けます。「地球に向かったであろうそれらの物質は、太陽系外側からの揮発性に富む物質であり、炭素を多く含む物質です。それらが、私たちに水を与え、そして有機物を与えてくれたのです。」

 

その後の地球は皆さんもご存知の通りです。

 

 

 

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太陽系における巨大惑星の形成
考えられる太陽の原始惑星系円盤の環状構造と巨大惑星の形成を示す概要図
Credit:Lucy Kwok (ELSI)


 

掲載誌 
Nature Astronomy 
論文タイトル The partitioning of the inner and outer solar system by a structured protoplanetary disk
著者 
R. Brasser1 and S. J. Mojzsis2.3 
所属 
  1. Earth Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology, Ookayama, Meguro-ku, Tokyo 152-8550, Japan
  2. Department of Geological Sciences, University of Colorado, Boulder, Colorado 80309-0399, USA
  3. Institute for Geological and Geochemical Research, Research Centre for Astronomy and Earth Sciences, Hungarian Academy of Sciences, 45 Budarsi Street, H-1112 Budapest, Hungary
DOI 
10.1038/s41550-019-0978-6
出版日 

 January 13, 2020