岩石でできた惑星の表面に水が液体として存在できるかどうかは、恒星や連星系からその惑星までの距離で決まるが、その、水が存在できる距離範囲のことを「ハビタブルゾーン(生命居住可能領域)」と呼ぶ。生命にとって液体の水が必須であることを前提とすると、このハビタブルゾーンの概念は、宇宙望遠鏡や地上望遠鏡で生命が存在する系外惑星を探す際の指針となる。生命の兆候は、系外惑星の大気観測を通して、表面に大量の液体の水が存在する惑星において発見される可能性が高い。少量の水しか持たない乾いた惑星(例えば、太陽系では火星)においては、生命の兆候を大気観測から発見することは実質的に不可能である。また、このハビタブルゾーンの概念は、太陽系でいうところの氷衛星、エウロパやエンケラドスのような天体を対象としていない。このような天体の地下には、生命が持続可能な海が存在しているかもしれないが、全球的に厚く覆われた氷の層のため、生命の兆候を観測することは極めて難しい。したがって、現在のハビタブルゾーンの定義は生命を保持するすべての惑星を網羅しているわけではない。
「古典的ハビタブルゾーン」と呼ばれるもっとも代表的なモデルでは、カギとなる温室効果気体として二酸化炭素と水蒸気が想定されている。さらに、地球で働いている炭素循環機構がそのまま系外惑星でも普遍的に働いていることが暗に仮定されている。地球では、大気・表層・地球内部で二酸化炭素が循環することにより、地球大気中の二酸化炭素量がうまく調節されている。古典的ハビタブルゾーンは有用な考え方ではあるが、ハビタブル(生命居住可能)な系外惑星の多様性を捉えることはできない。このことをうけて、より新しいハビタブルゾーンの定式化がすすめられている。これにより古典的ハビタブルゾーンの限界が明らかになり、生命を保持しそうにない惑星を対象から取り除くために必要な、より有用な指標が構築されつつある。
地球生命研究所のRamses Ramirez博士は、惑星のハビタビリティー(生命居住可能性)の理解における近年の進展を総説としてまとめ、より包括的なハビタブルゾーンのモデルを提唱している。このモデルは、現在進行中およびこれからの宇宙望遠鏡を使った生命探査の指標になりうるものである。また、この総説は、様々な分野からの知見をわかりやすくまとめてあり、研究者や学生の入門書としても役に立つだろう。
古典的ハビタブルゾーン(青色の範囲)と、CO2-CH4大気(緑色)、CO2-H2大気(赤色)を想定した際の、ハビタブルゾーン外側境界の広がり具合。2,600Kから10,000Kの温度を持つ恒星まわりのハビタブルゾーンが示されている。現在の地球が受け取る実効的な太陽(5,800K)エネルギーを1として横軸に示されている。
掲載誌 | Geosciences |
論文タイトル | A more comprehensive habitable zone for finding life on other planets |
著者 | Ramses M. Ramirez |
所属 | Earth-Life Science Institute (ELSI), Tokyo Institute of Technology |
DOI | 10.3390/geosciences8080280 |
出版日 |
2018年7月28日 |
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