太陽系の外に生命を宿す惑星を見つける。そんなことが、数十年以内に可能になるかもしれないと、科学者たちは考えています。とはいえ、それには新しい観測技術や理論研究が必要なのです。東京工業大学 地球生命研究所(Earth-Life Science Institute: ELSI)の研究者も参加している国際研究グループは、「我々はこの宇宙で唯一の生命体なのか」という疑問に答えるための、ロードマップとなる論文を発表しました。今後、科学者たちが望遠鏡による観測で宇宙における「生命のサイン」(生命の存在を示す特徴、バイオシグニチャーと呼ばれる)を探す際の指針となります。この成果は5つの論文にまとめられ、2018年6月、Astrobiology誌に掲載されました。


参考図:系外惑星に生命のサインを探るための研究のイメージ図
(Mary Ann Liebert, Inc. (New Rochelle, NY.) 出版Astrobiologyより許可を得て翻訳、転載。)

 

【系外惑星における生命探査に向けた国際的・学際的な取り組み】
銀河系には非常に多くの恒星があり、その恒星のまわりを回る惑星が存在します。太陽以外の恒星を周回する惑星を「系外惑星」と呼びます。系外惑星の発見はかなり速いペースで進んでいます。最初に発見されたのは20世紀末ですが、すでに3,500個以上もの系外惑星が見つかっています。これらの系外惑星に生命を探すには、様々な分野にまたがる科学者の知識を統合することが欠かせません。NASAのNexus for Exoplanet System Science(NExSS)は3年前に設立された国際ネットワークです。様々な分野の研究者が集まり、系外惑星において生命のサインをどのように特徴づけ、探索を進めるかについて、理解を深めています。いまのところ、系外惑星に人間が直接行ってみることはできません。科学者たちは望遠鏡を使って生命のサインを探すしかないのです。そのためには、望遠鏡の技術を極限まで高めることが必要になるでしょう。

NExSSは、系外惑星における生命のサインの探索方法をめぐるこれまでの研究と現在の研究、そして未来に行われるであろう研究の要点をまとめた包括的な一連の論文を発表しました。これらの重要なレビュー論文は、宇宙生物学(アストロバイオロジー)、惑星科学、地球科学、太陽物理学、宇宙物理学、化学、生物学の各分野における第一線の研究者たちの2年間にわたる研究結果をまとめたものです。彼らは、まずオンラインミーティングを始め、その後2016年にワシントン州シアトルでワークショップを開催しました。これらの活動の中で、科学者たちは、太陽系外における生命を特定する最適な方法を話し合い、新たな計画を議論しました。ELSIや他の日本国内の研究機関のメンバーも、現地でまたはリモート参加で議論に加わりました。この議論が今回のAstrobiology誌掲載論文のベースとなりました。

【生命のサインとその確からしさの評価】
論文は、太陽系外生命の探索に関わるいくつかの問題を特定し、その解決策を提案しています。科学者たちが探そうとしているサインには、大きく分けて二つのタイプがあります。ひとつは、生命体が作り出す大気中の気体分子です。例えば、我々が呼吸する際に取り入れる酸素ですが、これは植物や光合成細菌が作りだしたものです。もうひとつは、生命体そのものから反射される光です。葉の色や、海に発生する赤潮やアオコ、さらにはイエローストーン公園の温泉を発色させる色素の光がこれにあたります。これらの痕跡は、衛星軌道から地球を見た場合にも見られるのです。天文学者は太陽系外惑星でもこのようなシグナルが検出できるよう、新たな天体望遠鏡のデザインを検討しています。

自然が科学者を騙すこともあります。生命体のない惑星に生命体がある、または生命体があるのにない、と錯覚してしまう場合です。たとえば、地球上に豊富に存在する酸素は生物の光合成によるものですが、別の惑星で生命体なしに作り出される場合はないのか、あるいは、酸素以外の生命のサインとして何があるのかを、科学者たちは検討しています。惑星の多様性をあらかじめ想定しておくことで、本当に生命体が存在する惑星を見極めたり、探すべき生命のサインの種類を広げようとしているのです。

研究グループは、太陽系外生命が存在する可能性や生命のサインの確からしさを定量化することにも着手しています。これは非常に重要でありながら困難な挑戦になります。天文学者は系外惑星に関し、ごく限られたデータしか持っていないからです。系外惑星から直接試料を採取して分析することはできません。データとして得られるのは、惑星から届く光だけです。天文学者たちは、その光に含まれた大気や惑星表面に関する特徴を解析し、系外惑星に関する情報を最大限に引き出そうとしています。これには、その惑星の大気組成や気候、海や大陸の有無に関する推論も含まれます。これらの情報を統合し、惑星のモデルを展開すると、得られたデータが生命体の存在によってきちんと説明できるのか議論できるようになります。その上で科学者たちは、その惑星で生物が存在するかどうかを推定し、その推定が信頼できるか決定しようとしています。この新たな研究は、様々な分野の知識や観点に基づいて惑星を総合的に考察する必要性を強調しています。

【観測の将来展望】
最後に、そのような観測のためには、新たな望遠鏡や装置が必要になります。地上望遠鏡と宇宙望遠鏡の両方、そして、現在稼働中のものに加え、10年後あるいは20年後に新しく建設される予定の望遠鏡も重要になってきます。これらの新しい技術で、遠く離れた惑星の大きさや軌道についてだけでなく、大気や表面の特徴について詳しく分析することも可能になってくると期待されています。その結果、その惑星に生命が宿っている可能性があるのかないのかが明らかになるかもしれません。生命のサインの検出を最重要のゴールとして掲げる宇宙望遠鏡の計画は、2030年代の打ち上げに向けて議論されています。

「太陽系外に生命を探る方法については20世紀半ばから色々と議論されてきましたが、系外惑星を詳細に観測して特徴づける手法や技術は近年飛躍的に進歩してきました。このような技術の多くは、木星のような巨大ガス惑星で実証されています。」
ELSIの研究者であり、掲載論文の筆頭著者でもある藤井友香特任准教授は語っています。その観測範囲は、地球と同程度の大きさで温暖な気候を持つであろう系外惑星にまで広げられつつあります。今後10年20年で得られるデータにより、生命を育む可能性のある惑星の調査がさらに進む見込みです。
「何光年も離れた系外惑星に生命を見つけようとすることは、とても野心的な挑戦です。特徴的なサインをただひとつ検出しただけでは結論付けることはできないでしょう。可能な観測を組み合わせて様々な観点から惑星の特徴を調べる。そして、非生物的な過程では説明できないけれど、惑星に生態系があるとすれば説明できる可能性がある。そういった分析を示していく必要があります。」

技術開発のペースや現在の系外惑星の分布に関する知識から判断すれば、2030年までに生命に適した環境を持つ可能性のある惑星の大気に関して情報を検出できるかもしれない。論文はそういう希望的な見解で結ばれています。
NExSSはNASAアストロバイオロジープログラムによって助成されています。

【ウェブリンク】
https://nexss.info/
https://nexss.info/community/workshops/exoplanet-biosignatures-workshop

【論文情報】
<Introductory Chapter>
Nancy Y. Kiang1,2,3 et al., Exoplanet Biosignatures: At the Dawn of a New Era of Planetary Observations, Astrobiology Volume 18, Number 6, 2018, DOI: 10.1089/ast.2018.1862
1 NASA Goddard Institute for Space Studies (GISS), New York, New York, USA.
2 Nexus for Exoplanet System Science, ROCKE-3D Team, NASA GISS, USA.
3 NASA Astrobiology Institute, Virtual Planetary Laboratory, University of Washington, Seattle, Washington, USA

<Chapter 1>
Edward W. Schwieterman1,2,3,4,5 et al., Exoplanet Biosignatures: A Review of Remotely Detectable Signs of Life, Astrobiology Volume 18, Number 6, 2018, DOI: 10.1089/ast.2017.1729

1 Department of Earth Sciences, University of California, Riverside, California, USA
2 NASA Postdoctoral Program, Universities Space Research Association, Columbia, Maryland, USA
3 NASA Astrobiology Institute, Virtual Planetary Laboratory Team, Seattle, Washington, USA
4 NASA Astrobiology Institute, Alternative Earths Team, Riverside, California, USA
5 Blue Marble Space Institute of Science, Seattle, Washington, USA

<Chapter 2>
Victoria S. Meadows1,2 et al., Exoplanet Biosignatures: Understanding Oxygen as a Biosignature in the Context of Its Environment, Astrobiology Volume 18, Number 6, 2018, DOI: 10.1089/ast.2017.1727
1 Department of Astronomy, University of Washington, Seattle, Washington, USA
2 NASA Astrobiology Institute, Virtual Planetary Laboratory Team, Seattle, Washington, USA

<Chapter 3>
David C. Catling1,2 et al., Exoplanet Biosignatures: A Framework for Their Assessment, Astrobiology Volume 18, Number 6, 2018, DOI: 10.1089/ast.2017.1737
1 Astrobiology Program, Department of Earth and Space Sciences, University of Washington, Seattle, Washington. USA
2 Virtual Planetary Laboratory, University of Washington, Seattle, Washington. USA

<Chapter 4>
Sara I. Walker1,2,3,4* et al., Exoplanet Biosignatures: Future Directions, Astrobiology Volume 18, Number 6, 2018, DOI: 10.1089/ast.2017.1738
1 School of Earth and Space Exploration, Arizona State University, Tempe, Arizona, USA
2 Beyond Center for Fundamental Concepts in Science, Arizona State University, Tempe, Arizona, USA
3 ASU-Santa Fe Institute Center for Biosocial Complex Systems, Arizona State University, Tempe, Arizona, USA
4 Blue Marble Space Institute of Science, Seattle, Washington, USA

<Chapter 5>
Yuka Fujii1,2 et al., Exoplanet Biosignatures: Observational Prospects, Astrobiology Volume 18, Number 6, DOI: 10.1089/ast.2017.1733
1. NASA Goddard Institute for Space Studies, New York, New York, USA
2. Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology, Ookayama, Meguro, Tokyo, Japan

お問い合わせ

【問い合わせ先】
東京工業大学 地球生命研究所 特任准教授
藤井 友香Email: yuka.fujii@elsi.jp

【ELSIに関すること】
東京工業大学 地球生命研究所 広報室
E-mail: pr@elsi.jp
TEL: 03-5734-3163 FAX: 03-5734-3416

【取材申し込み先】
東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門
E-mail: media@jim.titech.ac.jp
TEL: 03-5734-2975 FAX: 03-5734-3661