玄田英典特任准教授らの研究成果が、欧州科学雑誌「Icarus」の電子版に掲載され、2018年2月1日発行号に掲載されます。
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S001910351730249X
論文タイトル
Hydrocode modeling of the spallation process during hypervelocity impacts: Implications for the ejection of Martian meteorites
ポイント
●火星隕石は天体衝突によって火星から飛び出し、地球に飛来したと考えられている。
●衝撃物理学の知見では、火星からの放出速度(秒速5 km以上)と火星隕石が経験した衝撃圧力(30~50万気圧)を同時に説明できていなかった。
●詳細な天体衝突の数値解析により、深部の岩石が、浅部の低衝撃圧力しか受けていない岩石を心太(ところてん)式に押し出すというメカニズムで火星隕石が放出されることを発見。
●天体間の物質輸送が従来考えられていたよりも容易に起こることを示唆。
概要
「火星隕石」は火星上の岩石が火星重力圏を飛び出し、地球に飛来し発見された隕石です※。火星サイズの惑星から宇宙空間へ物質を射出することは容易ではありません。そこで火星上で起こった天体衝突によって火星の岩石が宇宙空間へ放出され、地球まで飛来したものであろう、と言われてきました。火星隕石は岩石学的な分析によって、 天体衝突時に30~50万気圧程度の衝撃圧を経験したことがわかっています。ところが衝撃物理学の観点からは、 天体衝突時に火星の重力から脱出する(秒速 5 km以上)ために50万気圧以上の強い衝撃波による加速が必要であることが指摘されており、 火星隕石の具体的な放出メカニズムは未解明でした。
千葉工業大学の黒澤耕介研究員、岡本尚也研究員、東京工業大学地球生命研究所(ELSI)の玄田英典特任准教授は異なる2種類の数値衝突計算コードを用い、火星物質が比較的低衝撃圧(30~50万気圧)で火星の脱出速度以上に加速(秒速 5 km)される条件を探りました。研究チームは天体衝突の直下点近傍の物質の流れを、 過去の研究よりも10倍以上高い空間解像度で解析しました。その結果、高衝撃圧を経験した深部の岩石が浅部(表面付近)の低衝撃圧しか受けない岩石を心太式に押し出すことで火星脱出速度以上の速度まで効率よく加速する「後期加速メカニズム」が働く(図1)ことを見出しました。この新発見によって火星隕石における岩石学的分析結果と衝撃物理学の間の矛盾が解消されました。
研究チームによる「後期加速メカニズム」の新発見は、高い衝撃圧を経験していない物質が従来考えられてきたよりも容易に惑星間を移動可能であることを示唆します(図2)。低衝撃圧力下の岩石中では、微生物が生き残る可能性があるため、地球外で発生した生命が地球に飛来した可能性(いわゆる「パンスペルミア仮説」)についても新たな展開をもたらすものであります。
今後は、千葉工業大学惑星探査研究センターに設置されている二段式水素ガス銃を用いた衝突実験を行い、 今回の数値解析で新たに発見された放出メカニズムを実証していく予定です。
図1. 数値計算結果
火星地殻に貫入していく衝突天体(赤いハッチ部分)の外周近傍の様子を時系列で示します。水平距離と地表面から測った高さは衝突天体の半径で規格化しています。衝突天体が火星地殻と接触してからの経過時刻を規格化時間t/tsとして図中に示しています。t/ts = 1は衝突天体が火星地殻にすべて埋まる時刻です。同じ軌跡をたどる追跡粒子を赤から紫の6つの点、それらと同じ深さにある地層を同じ色の線で示しています。火星地殻物質がさらされている圧力をカラーバーで示しています。深部の岩石(例:紫の点)が浅部の岩石(例:赤の点)をおよそ10万気圧で押し出している様子がわかります。
掲載誌: |
Icarus, 301 |
論文タイトル : |
Hydrocode modeling of the spallation process during hypervelocity impacts: Implications for the ejection of Martian meteorites |
著者: |
Kosuke Kurosawa1, Takaya Okamoto1, Hidenori Genda2 |
所属: |
1 Planetary Exploration Research Center (PERC), Chiba Institute of Technology |
DOI : | 10.1016/j.icarus.2017.09.015 |
出版日: |
September 15, 2017 |
研究者情報|玄田英典