神戸大学 大学院理学研究科 惑星学専攻の大学院生・兵頭龍樹さん、大槻圭史教授、東京工業大学 地球生命研究所の玄田英典特任准教授、パリ地球物理研究所/パリ・ディドゥロ大学のシャノーズ教授の研究グループは、ケンタウルス族と呼ばれる小天体がもつリングの起源を明らかにしました。本研究の結果は他にもリングをもつケンタウルス族天体が存在することを示唆しており、今後のさらなる観測による発見が期待されます。この研究成果は、8月29日に、Astrophysical Journal Lettersにオンライン掲載されました。また、アメリカ天文学会発行学術雑誌のResearch Highlightsのページで紹介されました。

 

要点

太陽系の天体のうち、従来リングが確認されていたのは土星や木星など4つの巨大惑星だけであった。それに対し、木星と海王星の間の軌道をもつケンタウルス族天体[用語1]と呼ばれる小天体の一つであるカリクロ(Chariklo)[用語2]がリングをもつことが2014年に初めて明らかにされた。また別のケンタウルス族天体であるキロン(Chiron)[用語3]にもリングがあるらしいことが複数の観測データよりわかった。しかし、これら小天体のリングの成因は不明であった。

本研究では、ケンタウルス族天体が巨大惑星の近くを通過する際に惑星からの潮汐力により破壊する過程を、コンピュータ・シミュレーションを用いて調べた。その結果、部分的に破壊されたケンタウルス族天体の破片の一部が、ケンタウルス族天体の周りにリングを形成しうることが明らかになった。

本研究の結果は、これまでリングが確認されている2天体以外にも、リングをもつケンタウルス族天体が存在することを強く示唆している。また本研究の結果によると、同様の過程によりリングだけでなく衛星も形成されうる。従って今後の観測により、リングや衛星をもつケンタウルス族天体がさらに発見されることが期待される。

研究の背景

ケンタウルス族天体は木星と海王星の間の軌道をもつ小天体である。直径が1キロメートル以上のケンタウルス族天体はこれまでに約44,000個あると見積もられており、これらは巨大惑星と軌道交差を繰り返している。

従来、太陽系内でリングをもつ天体は、土星や木星など4つの巨大惑星だけだと考えられていた。しかし、2014年に、ケンタウルス族天体の一つであるカリクロ(Chariklo)の周りにリングのあることが、地上の複数の望遠鏡を用いた掩蔽観測(恒星からの光が観測者との間にある天体により隠される現象を観測するもの)により明らかになった(図1)。その後、別のケンタウルス族天体であるキロン(Chiron)にもリングがあるらしいことが明らかになった。しかし、これら小天体のリングの起源は謎のままであった。

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図1.(上)カリクロとリングの想像図。欧州南天天文台提供
Credit: ESO/L. Calçada/M. Kornmesser/Nick Risinger (skysurvey.org).
(下)カリクロの表面付近から見たリングの想像図。欧州南天天文台提供
Credit: ESO/L. Calçada/Nick Risinger (skysurvey.org).


研究の内容

本研究では、まず、ケンタウルス族天体が巨大惑星からの潮汐力により破壊されるくらい、惑星から十分近いところを通過する確率を見積もった。その結果、約10%程度のケンタウルス族天体が、そのような近接遭遇を経験することがわかった。次に、ケンタウルス族天体が巨大惑星の近傍を通過する際に惑星からの潮汐力を受けて破壊する過程を、コンピュータ・シミュレーションを用いて調べた。シミュレーションの結果は、ケンタウルス族天体の初期の自転の状態、核の大きさ、惑星への再接近距離などによって様々であることがわかった(図2)。しかし、ケンタウルス族天体が、内側に岩石の核をもち外側を氷のマントルが覆う、というような層構造をもっている際には、多くの場合で部分的に破壊されたケンタウルス族天体の周りに破片の一部が円盤状に分布し、そこからリングが形成されうることが明らかになった。

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図2. 初期条件を変えた場合の計算結果例。各パネルにおいて、部分破壊を受けた後のケンタウルス族天体が中心にあり、その周りに破片が円盤状に分布している。この円盤からリングが形成されると考えられる(Hyodo et al. 2016, Astrophysical Journal Letters 828, L8 より)。


今後の展開

本研究より、層構造をもつケンタウルス族天体が巨大惑星の十分近くを通過すると、多くの場合で惑星からの潮汐力により部分破壊を受けて破片が周囲にばら撒かれ、リングや衛星を形成しうることを明らかにした。この結果は、これまでリングが確認されている2天体以外にも、リングをもつケンタウルス族天体が存在することを強く示唆している。従って今後の観測により、リングをもつケンタウルス族天体がさらに発見されると期待されるほか、衛星をもつケンタウルス族天体が発見される可能性もあると考えられる。

用語説明

[用語1] ケンタウルス族天体 : 木星と海王星の間の軌道をもつ小天体。巨大惑星との軌道交差を繰り返しており、巨大惑星のごく近傍を通過する軌道をもつものもある。
[用語2] カリクロ(Chariklo) : ケンタウルス族天体の一つ。直径約250キロメートル。地上からの掩蔽観測によりリングをもつことが明らかになり、2014年に報告された。
[用語3] キロン(Chiron) : ケンタウルス族天体の一つ。直径約220キロメートル。複数の観測データより、カリクロと同様、リングをもつと考えられている。

 

論文情報

掲載誌 : Astrophysical Journal Letters
論文タイトル : Formation of Centaurs' Rings through Their Partial Tidal Disruption during Planetary Encounters
著者 : Ryuki Hyodo, Sébastien Charnoz, Hidenori Genda, Keiji Ohtsuki
DOI : 10.3847/2041-8205/828/1/L8

お問い合わせ

神戸大学 大学院理学研究科 惑星学専攻
博士後期課程3年 兵頭龍樹
Email : ryukih_at_stu.kobe-u.ac.jp
Tel : +33-183-95-7498 (France)

東京工業大学 地球生命研究所
特任准教授 玄田英典
Email : genda_at_elsi.jp
Tel : 03-5734-2887

神戸大学 大学院理学研究科 惑星学専攻
教授 大槻圭史
Email : ohtsuki_at_tiger.kobe-u.ac.jp
Tel : 078-803-6476

研究に関する英語でのお問い合わせ

Institut de Physique du Globe de Paris
(パリ地球物理研究所)
Professor Sébastien Charnoz
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