研究コラム
著者:石村源生(ELSI 広報室)
学情報における「正確性」と「わかりやすさ」の間のジレンマをどう取り扱うか、という問題は、これまで科学に関する教育、報道、広報、コミュニケーションといった分野全般において、常に大きな課題となっていました。
科学情報を「わかりやすく」伝えようとすると「正確性」が損なわれがちであり、反対に科学情報を「正確に」伝えようとすると今度はそのかわりに「わかりやすさ」が損なわれがちになります。
これは果たして永遠のジレンマなのでしょうか?
ELSI広報室ではこのたび、このジレンマを解決するために、わかりやすさと正確さをいつかの異なるバランスで優先した情報を「全て同時に扱う」という、新しいコンテンツフォーマットを開発しました。
このフォーマットでは、「正確さよりもわかりやすさを優先する度合い」を"Accuracy-Readability Index (AR Index)"と名付け、同じ科学のトピックに対して、AR Indexの異なる複数の情報をパッケージにして届けることができます。つまり、正確さとわかりやすさのトレードオフの程度が異なる、多段階(複数のレイヤー)の情報を同時に受け手に提供するのです。
このフォーマットには以下の3つの利点があります。
1.自分が今どこのレイヤー( AR Index)の記事を読んでいるかを確認できる。レイヤー情報が、メタデータ、タグとして提供される。
2.受け手の幅広いニーズや制約条件に応えることのできる複数のレイヤーが用意されている。
3.受け手がその時受容しているレイヤーのコンテンツがニーズに合わない場合は、別のレイヤーに容易に移動できる動線(リンク)が示されている。
今回、ELSIの研究者らが執筆した下記の論文を題材として、このフォーマットに沿って多段階の正確さ―読みやすさで書き分けた5つの記事を、プロトタイプとして作成しました。
論文名: Crystallization of silicon dioxide and compositional evolution of the Earth's core
著者: Kei Hirose, Guillaume Morard, Ryosuke Sinmyo, Koichio Umemoto, John Hernlund, George Helffrich & Stéphane Labrosse
書誌情報: Nature 543, 99-102 (02 March 2017)
リンク:
・原著論文
開発されたフォーマットのプロタイプに基づいた記事は、以下のリンク先のサイト(英語)において閲覧することができます。
ELSIでは、フォーマット全体の利便性と適切性、コンテンツの作りやすさ、各段階のAR Indexの基準の明確化を進め、様々なコンテンツを本フォーマットにより社会に発信していくと同時に、このフォーマットを広く他の研究組織や学術界で共有することによって、科学技術コミュニケーションの観点から、より効果的な学術情報の流通、学術界と社会とのよりよい関係構築を目指していきたいと考えています。