Why do science in Japan?

Blog No.133
Author: Ramon Brasser

私は同僚から、なぜヨーロッパや北米ではなく日本に移住して科学に従事することにしたのか、と数回聞かれた。理由はいくつかある。私は2008年に初めて日本を訪れて以来、日本の滞在を楽しんでいる。清潔で静かで安全で、ヨーロッパと北米の生活水準に匹敵するか、それ以上である。人々は礼儀正しく、自分自身の利益より社会の大義を大切にしているようだ。第二に、ここには一緒に楽しく働ける同僚がいる。第三に、日本は私の研究分野における世界的リーダーの1つだ。そのため、幅広いコラボレーションの機会がある。もちろん、個人的な理由もある。さらにヨーロッパや北米で生活するのと同じ生活水準と研究環境が用意されている。

しかし、日本の科学者がヨーロッパや北米よりも優位性があると思うもう1つの理由がある。それは研究費である。科学者が長期的に成功を収めるためには、独創的な考え方を持ち、かつ通常は国の助成金提供機関を通じて外部研究費を得る必要がある。日本では、JSPSの科学研究費助成事業(科研費)が科学研究費の60%を占めている。海外では欧州研究会議(ERC)、中国国家自然科学基金委員会(NSFC)および米国国立科学財団(NSF)や、その他の小規模国家機関が同様の役割を担っている。長期的な成功とは素晴らしい結果を発表するだけではない。研究室、旅費、設備費、学生またはポストドクターの給与、会議の出席料などに必要な資金を賄うため、長期的な助成金が不可欠である。この点で、日本はヨーロッパや北米よりも格段に優れている。

数字で見てみよう。研究費を得た応募の割合は減少していることが一般に知られている。理由の詳細には触れないが、ほとんどの国で研究費調達状況が悪化しているということを言えば十分だろう。 EUでは、2007年から2013年にかけて実施されたERCFP7プログラムの採択確率は20%だった。その後継であるHorizons 2020は、典型的な採択確率はわずか14%にまで減少している。米国では、研究費助成機関(NSFNASA、エネルギー省、国防総省、国土安全保障省など)の全体の平均は13%と低く、今も減少傾向にある。10年前は20%を超えていたのだ。一方、中国のNSFC20%、JSPSの科研費は25%(1996年以降から安定)、カナダのNSERC35%以上である。NSFCYang Wei会長は、「採択率が高すぎることは選択の幅が低いことになる。また低すぎるのはギャンブルのようだ。20%は良い比率だ。」と述べた。確かに、他のすべてが同じならば、50%以上の採択の確率を持つ試みの回数は、採択率25%(私の場合)で2回、採択率20%で3回、採択率15%以下で4回以上となる。これは平均的な博士研究員契約よりも長く、潜在的に科学の長期キャリアから多くの若手科学者を締め出す可能性がある。米国では「3回の試行後に50%の受入れ確率」というのが、新しい研究者が論文を発表するよりも多くの時間を応募の時間に費やすポイント、つまり「絶対最小」ベンチマークとみなされている。これは 20%の採択率に相当する。健全な競争は最高の科学を作り、生産性を向上させるが、不健全な採択率は革新を阻害し、非効率を引き起こす。

残念なことに、日本での採択の可能性は代償を伴う。科研費の応募で得られる通常の金額は、要求額の60%から75%だ。すべての応募が100%資金調達されていれば、採択確率も15%近く低下するだろうが、日本には「勝者一人勝ち」の考えがないため、より低いレベルでより多くの応募に助成金を提供することを選択する。資金が何もないよりも、半分でも資金を調達するほうが良いことは明らかだ。この採択率の高さが、私の意見では、若い科学者に戦いのチャンスを与えることに貢献し、科学を行う点でヨーロッパや北米に勝る点である。日本の若手研究者を支援する若手助成金は、若手研究者がトップクラスの教授と同じリソースで競争することを妨げるため、その分野で大きな助けとなる。 ERCの独立移行助成金も若い科学者を対象にしているが、レベルが全く異なる。

Von Hippel&Von Hippelの調査によると、米国のPIは応募書類の作成に約116時間(約3週間分の作業)を費やしている。ERCへの応募書類を書いた私自身の経験から(私は6週間以上費やした)、この時間数は珍しいことではない。 ERCNASANSFへの応募書類は長い(16ページ以上)。採択確率が13%PIは、応募書類作成に18週間を費やす。4か月以上だ。応募はリサイクルされる(採択率を低下させる問題が指摘されている)ため、同じ応募が異なるプログラムに提出され、実際に費やされる時間は少なくなる。それにかかわらず、米国の研究費を獲得する科学者は、複数の応募を作成して同時に助成金を得る必要があるため、過度の時間を費やすことは明らかだ。 EUでは、一般的に複数の資金源を必要としないため、これは問題にならない。一方、日本では、応募書類は短く(10ページ、そのうちの6つは一度しか記入する必要のない背景材料)、PIとして1つの応募にしか科研費から助成金が出ない。一人のPIが複数の応募をすることは違法で不必要なことであり、同じ人が不均衡に資金を得ることができないような制度になっている。

より短い応募書類で採択のチャンスが増し、本当の科学に従事する時間が増え、優れた施設、安全で清潔で静かな環境と高い生活水準がある。日本で科学をしない理由はあるだろうか?

20160527_133_RBrasser

文献:
http://www.jsps.go.jp/english/e-grants/grants02.html
https://www.sbir.gov/competitiveness
http://science.nasa.gov/media/medialibrary/2015/11/03/AAAC_Proposal_Pressure_Stassun.pptx.pdf
http://issues.org/30-1/the-new-normal-in-funding-university-science/
http://ec.europa.eu/programmes/horizon2020/en/horizon-2020-statistics
http://www.sciencemag.org/news/2013/03/new-head-chinas-nsf-speaks-out
http://www.nytimes.com/2014/03/16/science/billionaires-with-big-ideas-are-privatizing-american-science.html?_r=0
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0118494