ELSIが主催したライブ配信イベント「未来の宇宙飛行士について語ろう」では、視聴者の皆様から多くの質問が寄せられました。できる限り多くのご質問にイベントのパネリストとモデレーターが回答いたしました。
このページにQ&Aとして掲載いたします。なお、掲載にあたって頂いたご質問に編集を加えている場合がございます。
回答者
赤城弘樹 (国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)有人宇宙技術部門 ヒューストン駐在員事務所 所長代理)
小正瑞季 (一般社団法人SPACE FOODSPHERE 代表理事,リアルテックホールディングス株式会社 グロースマネージャー)
藤島皓介(東京工業大学地球生命研究所 准教授 )
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Q. JAXAはアルテミス計画にどのような形で関わっていくのでしょうか?
米国が提案している月面探査プログラム全体をまとめて「アルテミス計画」とよんでいます。2025年以降に月面に人類を送り、その後、Gateway(月周回有人拠点)計画などを通じて、月に物資を運び、月面拠点を建設、月での人類の持続的な活動をめざします。「アルテミス計画」は、Gatewayでの拠点活動要素と、Gatewayや月面への輸送要素から構成されます。Gatewayに関しては、欧州、カナダ、日本がそれぞれ米国との間で2020年12月末までに了解覚書(MOU)を締結し、MOUに基づく要素の開発(基本設計)を開始しています。JAXAはGateway国際居住棟(I-Hab)で使われる生命維持機能(ECLSS)や冷却循環ポンプ、バッテリなどの機器開発を担当するとともに、輸送要素として打上げ機と物資補給(HTV-Xの発展)での貢献について検討を進めています。
詳細について、以下の公開資料をご紹介します。
文部科学省 第42回 宇宙開発利用部会 国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会「資料42-5 アルテミス計画に関する各国の開発状況(JAXA国際宇宙探査センター)」https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/0210630-mxt_uchukai01-000016486_5.pdf
(赤城弘樹)
Q. 国際ミッションの中で日本人宇宙飛行士に期待される役割は変化していくでしょうか?
「国際宇宙ステーション計画」を通じて築いた日本の技術や歴代日本人宇宙飛行士への信頼は高く、日本に期待されている役割は大きいものでした。「アルテミス計画」でも国際協力における日本への期待や役割は変わることなく、培った技術と信頼の積み重ねが活きる場となり、日本人宇宙飛行士が宇宙で活躍する機会が増えていくものと考えます。
(赤城弘樹)
Q. 天文学者と宇宙飛行士は、似ているように見えて仕事内容はかなり異なります。この2つの仕事を両立することは可能でしょうか?
以前は、選抜された宇宙飛行士候補者やミッションに任命された宇宙飛行士は、訓練の従事割合がほぼ100%となり、研究者であっても国内外含め他の宇宙飛行士と同じ計画で訓練することも多く、研究活動に専念する時間を確保することは難しい状況にありました。近年では、商業有人宇宙船の就航により訓練内容が変化し、フライト期間やミッションも多様化しつつあり、宇宙飛行士も新しい働き方を始めています。研究や他の業務を行いながら宇宙飛行士業務を行う方が増えてくることも考えられます。
(赤城弘樹)
Q. 将来、火星への有人探査が実現されたときに宇宙飛行士に求められる役割は変わりますか?
Gateway(月周回有人拠点)は、月面だけでなく火星に向けた中継基地として利用されることを視野に入れて、国際パートナーと共に開発を進めており、宇宙飛行士の活動を含め有人火星探査に向けた技術開発や運用経験の蓄積が想定されています。月と比較して地球からの距離が遠く輸送技術がチャレンジングであること、また火星表面は月面とは異なる環境であることなどから、有人火星探査では、ロボティクスなどの無人技術と有人滞在・探査技術の融合や役割分担の検討・変化が一層必要になってくると考えられます。
(赤城弘樹)
Q. 有人探査には、生命起源の探求のような科学的なもの以外にどのような意義があると考えますか?
有人宇宙探査については、科学技術のほか、外交・安全保障、産業競争力、科学技術や人材育成など様々な観点からの意義があります。また「アルテミス計画」で行われる持続的な月面探査拠点の構築のように、無人のみでは技術的にもコスト的にも実現が難しい質の高い計画が立案可能であること、実験や探査活動などにおいて、AIやロボット技術などでは成し得ない柔軟な対応が可能であることなど様々な意義があり、人類が活動領域を拡大することにより広範な成果が得られることが想定されます。
(赤城弘樹)
Q. 月面での生活が可能になるのは2024年あたりが目標とされていますが、それ以降に月よりも遠い場所まで生活可能範囲を広げていくのでしょうか?
2025年以降に月面に人類を送り、その後、Gateway(月周回有人拠点)計画などを通じて、月に物資を運び、月面拠点を建設、月での人類の持続的な活動をめざします。また、Gatewayは、月面だけでなく、火星に向けた中継基地として利用されることを視野に入れて国際パートナーと共に開発が進められており、月からさらには火星へと人類の活動領域を拡大していく検討が進められています。
(赤城弘樹)
Q. 宇宙ならではの食として、宇宙線などの地上には届かない高エネルギー源を利用した植物の栽培や調理などは可能なのでしょうか?
地上の放射線育種と比較した優位性の説明が難しいですが、宇宙線を利用して品種開発を行う取り組みは海外で行われています。また、重力の違いにより宇宙での食の作り方・あり方は地球とは変わってくると思います。月面から地球を見ながらの食など、宇宙という特殊な環境の食体験が今後多く出てくるでしょう。
(小正 瑞季)
Q. 宇宙と地球をつないでオンライン飲み会でお酒を楽しむ時代は来るでしょうか?
2040年頃には月で採取された水や作物を原料として生産したビールで現地で乾杯したいと考えており、地球と月の間を遠隔でつないだ飲み会も実現したいです。ただし現状は国際宇宙ステーションでは安全面などからアルコールの摂取は禁止されており、システムや運用上の工夫、ルールの見直しなど、今後乗り越えるべき課題はあります。
(小正 瑞季)
Q. 無重力での食事は、地球上と異なり立体的な形状に多様性が生まれると考えているのですが、無重力で多様な形状を作ることは可能なのでしょうか?
地球低軌道などの微小重力環境下では多様な形状の食べ物を作ることが可能だと考えています。
(小正 瑞季)
Q. 宇宙での地産地消について、現在作れない食べ物にはどのようなものがありますか?
宇宙での食料生産に関連して、これまで国際宇宙ステーションにおいて様々な高等植物、微細藻類、培養肉などに関する実験が行われてきました。但し、国際宇宙ステーションの実験装置の大きさは限定的であり、背丈の高い作物や大きな地下部が必要な作物の実験は困難な状況です。そのほか、国際宇宙ステーションの環境制約の観点で栽培できない作物もあります。
(小正 瑞季)
Q. 無重力状態で何十世代、何百世代にわたって繁殖を行った場合、人間の機能にどのような変化が現れると考えられますか?
正直わかりません。そもそも無重力状態での世代を超えた繁殖が現実となるかどうかが焦点となります。微小重力環境は骨量や筋力低下といった様々な健康障害をもたらすため長期滞在が前提となる未来では、地球に帰還することを見越した場合、回転体などを用いた擬似重力環境を構築する可能性が高いと考えます。
(藤島皓介)
Q. 地球に適した人間、また、宇宙に適した人間は、それぞれどんな機能を持った人間だと思いますか?
宇宙がどこを指すかによっても変わってきますが、例えば、月や火星などを想定した場合、宇宙放射線が強い環境、1/6Gや1/3G環境、空間やリソースが限られた環境などいくつかの環境条件を想定すると、その環境に適した人間がどういうものか想像しやすくなるのではないでしょうか。宇宙放射線への耐性が強い特性、心理的ストレスに強い特性など、いくつかあるのではないかと想像します。
(小正 瑞季)
Q. 食事を通じて精神が穏やかになったりある人が本来持つ能力が十分発揮されるようになることがありますが、食事や宇宙での食料生産を通じて宇宙飛行士の精神衛生を保つシステムは現在ありますか?それとも現在進行中なのでしょうか?
食は宇宙での生活に潤いを与える主役となると考えています。食体験は個人の精神や人間関係、生活や人生の質に大きな影響を与えることから、宇宙での安全にも資すると考えていますが、世界的にも取り組みが不十分なため、SPACE FOODSPHEREとしてはそのためのシステムの開発を進めています。
(小正 瑞季)
Q. 無重力環境と地上では、五感の情報量はどのように変わるのでしょうか?出発前と帰還後で宇宙飛行士の各感覚領域のサイズなどは変化しますか?
地上と無重力環境における身体の変化について、以下のJAXA公式ホームページをご参照ください。
(JAXA有人宇宙技術部門ホームページ - 宇宙でからだはどうなる?)
https://humans-in-space.jaxa.jp/life/health-in-space/body-impact/
(ファンファンJAXAホームページ - 人間の平衡器官は、宇宙ではどうなるのですか)
https://fanfun.jaxa.jp/faq/detail/9572.html
(赤城弘樹)
Q. 微小重力感覚を身近な日用品を用いて体験するとしたら、どのような方法が考えられるでしょうか?
日用品ではないですが、浮力を調整した状態でのスキューバダイビングは感覚的に近いと考えられます。実際に宇宙飛行士は巨大なプールで宇宙空間での活動を模擬した水中訓練を行っています。
(藤島皓介)
Q. 宇宙に行くためにアバターを選択するか自分の身体で行くかということについて、どちらが先に実用化が考えられるでしょうか?
地球からの遠隔操作によって月や火星で作業を行うにはタイムラグが生じるため用途が限定されると考えていますが、現地の基地内から遠隔操作しアバターロボットで船外活動のミッションを遂行していくことの意義は大きいでしょう。宇宙での作業や体験については、自律ロボットやアバターロボットが出来ることにも限界があるため、任せられる部分はロボットに任せて、人にしかできない作業や体験を人間が行うというのが基本になるのではないでしょうか。
(小正 瑞季)