2021年2月7日の第9回WPIサイエンスシンポジウムの開催にあたり、「研究者に聞いてみよう」と題して中高生や大学生を対象に研究者への質問を事前に募りました。その結果、シンポジウムでも取り上げた「生命の起源、進化、未来」や「研究者としてのキャリア」といったテーマについて様々な質問を頂きました。それらの質問に対するWPI各拠点に所属する研究者の回答を掲載いたしましたので、ぜひご覧ください!
※ 寄せられた数多くの質問のうちの一部にWPIの研究者が回答しました。
「生命の起源・進化・未来」に関する質問
Q: 生命誕生の条件は、どのように考えているのですか。
A: 「地球が化学合成場」となり初期生命が誕生したと思います。つまり、地質学的な反応により無数の化学反応が進行し、それらが繋がりあうことで環境応答性の高い化学反応ネットワークが生まれ、現在生物にみられる代謝システムに進化したのでしょう。そのため、非生命から生命への進化は、現在の生物が生きている環境(温度・pH・redox)と近い条件で進んだのだと思います。
- 中村龍平 教授, ELSI
Q: なぜ生物は、多くの種に分かれたのでしょうか。元は1つの種であったはずのものが、なぜ数え切れないほどの種に分かれたのかが疑問です。
A: 生物が増殖する際に遺伝子(ゲノム)を複製します。複製の際にコピーミスのようなエラー(変異)が入ることがあります。また、外から別の生物由来の遺伝子を取り込むことも稀にあり、これを「遺伝子の水平伝播」と呼びます。長い間にエラーや水平伝播による変異が蓄積すると、種分化のような大きな変化に繋がります。
- 望月智弘 特任助教、ELSI
Q: 昆虫についてです。大昔の琥珀から発見されるような昆虫は現在の昆虫の姿とあまり変わらないように感じます。なぜ姿形を大きく変えることがなかったのか知りたいです。
A: 昆虫は様々な形をしていて、それぞれが独自の生態学的地位(ニッチ)を占めています。長い年月に亘り形を大きく変えていないことは、ニッチにうまく適応している証拠だと思います。
- 望月智弘 特任助教、ELSI
Q: 地球上の生命は、どこでどのように誕生したのでしょうか?
A: 生命の誕生した場所に関しては、陸上の温泉や湖、あるいは海中の熱水噴出孔など様々な仮説が提唱されていますが、仮説毎に調達可能な分子、エネルギー源が異なるため、どの仮説が本当に確からしいのか、現在世界中のアストロバイオロジスト研究者がしのぎを削っています。
- 藤島皓介 准教授、ELSI
Q: 生命の起源に関しての質問です。研究者の皆さんそれぞれが想像している生命誕生のストーリーをお聴きしたいです。
A: 色々なストーリーがありますが、大きく分けると陸派と海派に分かれると思います。ぜひ機会があれば「対論! 生命誕生の謎」 (インターナショナル新書)を手に取って読んでいただければと。
- 藤島皓介 准教授、ELSI
Q: カンブリア時代に、脊椎動物の祖先が生まれたのになぜ、アノマルカリスのような巨大な無脊椎動物が生きものを席巻するようになったのですか?
A: (専門ではないので単なる予測ですが)無脊椎動物のような外骨格の生物の方が、早く多様化しやすいのかもしれません。多様化の結果、当時の弱肉強食の競争では無脊椎動物が食物連鎖の頂点にいたのかもしれません。
- 望月智弘 特任助教、ELSI
Q: 太陽が無くなるとき、太陽が膨張して地球の気温は、人間が生きられないほど高温になると聞いたことがあるのですが、人間は、環境に合わせて進化するか、環境に適応できず絶滅するか、また、環境に合った新しい生物が台頭するのでしょうか。
A: そもそも遺伝子は絶えず変化しますので、生き物は時間がたてば必ず進化するものとも言えます。もっと言うと、生き物が必ず進化する以上(太陽や人間が何をしなくても)まわりに生息する植物や動物も変化しますので環境も必ず変わっていきます。そして環境が変わるともちろん生き物の進化に影響しますし、「環境に合った新しい生物が台頭」することもあるでしょう。ということで進化も絶滅も生き物の宿命だと思います。その中で人間がどのようになるのかはとても気になりますね。太陽が膨張する前に太陽系を脱出するか、超高温でも生き残れる生命システムを人体に組み入れることができればあるいは生き残れるかも??
- 辻村太郎 特定講師、ASHBi
Q: 人間はサルから進化したといわれていますが、未来において、人間はどのように進化していきますか。
A: 機械やサイバー空間との融合が進むのではないかと思います。AIを含む様々な人工物は、生活に必須になりつつあります。こうした人工物は、初めはヒトの役に立つ、便利さを求めて作られたものですが、一度社会に受け入れられてしまうと、ヒトのほうでもこうした機械類に適応する生活様式が求められます。遺伝子レベルでの進化も、こうした適応に沿って能力が拡張していくのではないかと思います。現代は遺伝子改変の技術が進み、将来的には、ヒトでも使われる時代が来るかもしれません。ヒトの思うがままに、知性や身体能力などの拡張が行われ、機械との融合も進むかもしれません。
- 雨森 賢一 特定拠点准教授、ASHBi
Q: 人間がこれからさらに進化を遂げると思うか。(例えば、頭が大きくなる・手足が長くなる・もう、進化はしないと思うetc…)
A: 機械やサイバー空間との融合が進むのではないかと思います。AIを含む様々な人工物は、生活に必須になりつつあります。こうした人工物は、初めはヒトの役に立つ、便利さを求めて作られたものですが、一度社会に受け入れられてしまうと、ヒトのほうでもこうした機械類に適応する生活様式が求められます。遺伝子レベルでの進化も、こうした適応に沿って能力が拡張していくのではないかと思います。現代は遺伝子改変の技術が進み、将来的には、ヒトでも使われる時代が来るかもしれません。ヒトの思うがままに、知性や身体能力などの拡張が行われ、機械との融合も進むかもしれません。
- 雨森 賢一 特定拠点准教授、ASHBi
Q: 生命の起源についての正しい事実がないなかで、どのようにして仮説を立てているのですか。
A: 研究者によって注目しているプロセスは異なりますが、私が考える仮説を立てる上での鍵は、「持続的かつ発展的な化学反応経路」だと思っています。良い再現性をもって、そのような反応系がどういう環境で起こりうるのか、その時の条件はなんだったのか?ということを考えながら時にはシミュレーションを、時には実験をしながら試行錯誤していくしかないかなと思います。
- 藤島皓介 准教授、ELSI
Q: ウイルスは生物と呼べるのでしょうか。
A: これは何をもって生物と定義するかの問題で、数十年前から続いている論争であり、今後も結論は出ないことだと思います。「代謝系を持たないためにウイルスは生物ではない」とする考え方が大勢ではありますが、私のように日常的にウイルスを培養している研究者の多くは、ウイルスは極めて生物っぽい存在と捉えています。個人的には、「冥王星は惑星か」に似た論争な気がしていて、人それぞれ捉え方が違っていいと思います。
- 望月智弘 特任助教、ELSI
Q: 環境への適応は次の個体(子孫)に受け継がれるのでしょうか。
A: ほとんどの「適応」の結果はゲノム配列に影響しない上に、動植物では生殖細胞のゲノム配列が変化しない限り次世代に影響はないため、基本的には獲得形質は遺伝しません。ただし、ゲノムDNAを分子的に修飾するエピジェネティクスのようなものの中には一部、その影響が子孫に受け継がれることが明らかになりつつあります。
- 望月智弘 特任助教、ELSI
Q: 水と有機物とエネルギーがあれば生命は誕生しますか?
A: 温度、pH、紫外線量など条件が整えば、不可能ではありません。ただ、必ずしも誕生するかは、わかりません。生命の誕生が偶然か必然か、その答えはまだ誰も知りません。
- 松浦友亮 教授、ELSI
Q: ヒトや植物というような生物が環境の変化などにより形態や性質の異なるものに変化していくのか?
A: 生物がどのように進化するのか、という点はまだわかっていないことが多くあります。ただし基本的には、環境や生態学的地位に適したものが生き残り、長い年月を経ることで徐々に形態や性質も変わっていくことで、進化が起きています。
- 望月智弘 特任助教、ELSI
Q: 新型コロナウイルスの感染拡大が続いていますが、数十年後の地球は、新型コロナウイルスに耐性を持ち、新型コロナウイルスに感染しても生き残れるような人のみ生きる世の中になるのでしょうか。
A: 新型コロナウイルスに対する免疫を獲得すれば、感染は次第に収束していくことが予想されます。現在、効果的なワクチンが開発されてきていますので、ワクチンを接種するか実際に感染することにより、このウイルスに対する免疫を獲得できると考えられます。また、新型コロナウイルスに感染したすべての人が死ぬわけではありません。さらに、感染症は他にも様々な種類があります。だから、新型コロナウイルスに免疫がある人だけが生き残ることができるという状況にはならないと考えられます。数十年間の間にまた新しいウイルスによりパンデミックが起きるかもしれないので正しく情報を得て正しく怖がることが大事です。
- 山本 玲 特定拠点准教授、ASHBi
A: 2021年3月11日現在、日本における新型コロナウイルス感染者数は44.1万(人口の0.37%)、回復者数は42万人です。つまり大部分の日本人は感染しておらず、感染しても回復します。人類は過去にもっと危険な感染症にも遭遇していますが、民族が消滅するようなことはありませんでした。インカ帝国がスペインから持ち込まれた感染症(天然痘、チフス etc.)で滅んだと言われますが、そもそもスペインの軍事行為が侵略目的なので同じには語れないでしょう。将来、感染症に対する防疫や免疫学・治療法の進歩などで感染に弱い立場の人が今よりさらに救われるようになることが期待されます。
- 坂野上淳 特任教授、IFReC
Q: 人間のような、道具を使い、作り、地球を覆っていく、そんな高度な生物が地球、またほ、それ以外の星で進化することはあるのでしょうか。
A: 生命の仕組みも進化も非常に多様で、偶然性にも支配されると思います。たとえ、地球と全く同じ条件で同じ共通祖先から生命が進化したとしてもヒトと同じようなものは生まれないと考えるほうが合理的だと思います。
- 井田茂 教授、ELSI
Q: 生命の起源や進化を知ることが、私たちを含めた生命の未来を知ることにつながるとよく聞きますが、具体的な例はありますか?
A: 進化の過程では大きな革命が起こることが分かっています。例えば、生物の多様性が爆発的に大きくなった、地球全体が温度低下により凍結したなどのイベントが起こったと言われてます。長期的に見ると、同様のイベントか起こる可能性を示唆しています。
- 松浦友亮 教授、ELSI
Q: 生命の進化について、よく遺伝子解析によって得られる系統樹をいろいろなところで目にします。系統樹では分岐しかせず一度も合流することはありませんが、種が増えれば異種間で交配できる可能性も高まると思います。実際に進化の過程で”系統樹が合流”するような事例が存在していた可能性はあるのでしょうか。
A: 自然界では異種間の遺伝子の交雑は頻繁に起きており、これは「遺伝子の水平伝播」と呼ばれます。ただし系統樹は、個々の遺伝子の分岐・進化過程を計算的に図式化したもので、合流したように表記するしくみがありません。一方で、同じ比較対象の生物群が持っている異なる遺伝子の系統樹同士を比較することで、水平伝播の痕跡は簡単に見つけることができます。
- 望月智弘 特任助教、ELSI
Q: 地球で時間を巻き戻した時や、他の惑星で生命が誕生する時でも、現在の地球の生物と基本的には同じ仕組みの生物が誕生すると思われますか? それとも全く違う仕組みの生物(のようなもの)が誕生すると思われますか?
A: 生命の仕組みも進化も非常に多様で、偶然性にも支配されると思います。たとえ、地球と全く同じ条件で同じ共通祖先から生命が進化したとしてもヒトと同じようなものは生まれないと考えるほうが合理的だと思います。
- 井田茂 教授、ELSI
Q: 宇宙と生命はどうつながっているのか。
A: 宇宙と生命をつなげるものは惑星や衛星です。天体を調べることが生命を調べることにつながります。
- 井田茂 教授、ELSI
Q: 地球人よりも文明が発達している生物はいるか。
A: 文明とは何でしょうか? 生命の進化の方向性は多様です。地球でも40億年もしくはそれ以上の時間をかけて共通祖先(LUCA)から様々な方向に生命は進化してヒトやトウモロコシやアメーバや大腸菌といった進化を遂げました。宇宙における生命を考えるときには、ヒトを基準に考えてはいけないと思います。
- 井田茂 教授、ELSI
Q: 人類の進化のシュミレーションは何を根拠にどのように行われているのでしょうか?例えば背が高くなる、手足が長くなるなどはそうなる必要があるから、というだけでなく、何か他に理由があるのでしょうか?
A: これまでの人類の進化は、発見された化石人類・類人猿の化石などから、筋骨格系をコンピューター上で復元してシュミレーションしています。ではどのようにして進化するのかについては、実験による検証が困難なこともありますが、ラマルクやダーウィンの進化論が有名です。そして、20世紀以降、遺伝を担う実体分子である遺伝子が発見されました。この遺伝子に突然変異が生じて、それが周囲の環境に対して有利に働く場合、集団内で拡散して進化していくのかもしれません。近年では、高度なゲノム解析技術も駆使して、ヒトの進化を分子レベルで理解していくことが期待されています 。
- 村川泰裕 教授、ASHBi
Q: 人類が進化するならどんな風に進化すると思いますか?
A: 進化は、絶滅と種分化の繰り返しで進んできました。ヒトは絶滅するまでヒトのままですが、ヒトから別の種が生まれる(種分化という)可能性はあると思います。人類の文明がいつか滅んで、残された人々が別々の島に住み、互いに行き来もできず(隔離という)、何十万年にも渡って生存競争を繰り返す(自然選択という)ことができれば、ヒトではない何か別の新種が生まれているかも。あるいは月への移住に成功すれば、小さい筋肉・骨、大きい脳を持つ種が生まれるかも。どんなカタチになるかは、その環境によって決まります。進化には、何か特定の目的や道筋やゴールがあるわけではないのです。
- 井上詞貴 特定准教授、ASHBi
Q: crispr-cas9とは何なのですか?
A: ゲノム編集技術の一つです。ゲノム編集技術の中には、ゲノム中の特定の場所を狙って切断するハサミの役割をする人工ヌクレアーゼと呼ばれるタンパク質を使う方法があります。これまでにZFN、TALEN、CRISPR-Casと名づけられた人工ヌクレアーゼを用いたゲノム編集法が開発されてきましたが、CRISPR-Cas9では文字どおりCas9という人工ヌクレアーゼというタンパク質を用いてDNAを切断します。ただこれだけではゲノムの特定の位置を切断できません。CRISPR-Cas法では、特定の場所がわかる目印としてガイドRNAを組み合わせて使用することで、ゲノムの特定の部位で選択的に切断できるようデザインされています。少し難しいかもしれませんが、以下のサイトが参考になるかと思います。
https://bio-sta.jp/faq/
https://www.cosmobio.co.jp/support/technology/a/crispr-talen.asp
https://www.rnaj.org/newsletters/item/844-nishimasu-1
- 佐藤綾人 特任准教授/研究推進主事、ITbM
Q: 地球上にいる生物は主に核酸・タンパク質・リン脂質などで構成されていると思います。また、生物が生存するためには水が必要で、その星に生物がいる可能性があるかどうかの判断基準として水の有無を調べるという話を聞きます。
このような条件に当てはまらない生物がいる可能性はあるのでしょうか。
また、可能性が低いのであれば、それは何故なのでしょうか。
A: 液体としての水の存在は、生物の生存に必要と考えられます。水は、熱すぎない、冷たすぎない温度で液体の状態を保っています。固体では全く物質移動がありませんし、気体では化学反応を制御することが困難です。液体で居られる状態の温度を考えると、水以外を液体としてもつ生物の存在は考えにくいです。
- 松浦友亮 教授、ELSI
Q: 生物の源が宇宙から来たのだとすれば、どの程度の量のアミノ酸や核酸が宇宙から来れば今のような地球が生まれるのでしょうか。
A: 生命の基となる様々な有機物(building block)は宇宙空間で合成されて炭素質隕石等でもたらされたものと、地球上で合成されたもの2パターンが考えられるのですが、どちらからもアミノ酸も核酸の基も見つかっています。どちらの合成量がより優先していたのかという議論はまさに現在進行形の研究でまだ未解決問題になります。
- 藤島皓介 准教授、ELSI
Q: 「宇宙から生命の源が来たのではないか」や「ほかの星に生物がいるのではないか」という研究は聞きますが、地球から別の星や宇宙空間に向けて土や細菌やその他有機物を送り、その先で生命を発展させるという研究はないのでしょうか。
A: 「地球から別の星や宇宙空間に向けて土や細菌やその他有機物を送り」ということは、そこに別の生命がいた場合、そこの生態系を破壊することにつながる可能性があります。惑星検疫学、宇宙検疫学とよばれる研究分野がありますが、そこでは人類が惑星探査などをするときに、対象の天体を地球生命で汚染しないためには、どのようにすればいいかということも議論されています。
- 井田茂 教授、ELSI
Q: 私たち人間は、環境問題を深刻化させたり自然破壊などを進めてしまっているため、私はいつか、人と人以外の生命とは共存することが難しくなるのではないかと思っています。どれくらい先まで私たちは共存が可能だと思われますか。また、より長く共に過ごし続けるために私たちにできることは何がありますか。
A: まず、ポジティブに考えましょう。どうしたら「環境問題を克服できるか」と。私は、きっと克服できると信じています。このためには、まずこの問題を深く勉強することが大事です。そして「自分は何をできるか」を考えて、将来に向かって行動/勉強してください。
- 中嶋直敏 特任教授、I²CNER
Q: 人間は周りの環境などに対応するように自然に進化してきました。それならば、人間が人間の意図的に進化をすることは可能ですか?
A: 私たち人間は何百万年の進化を経て今に至ります。しかし、科学技術を駆使して、今よりも格段に高い認知能力や身体能力を持つ新しい人類(ポストヒューマン)を生み出すべきだと信じる人たちがいます。このような考え方はトランスヒューマニズムと呼ばれます。現在開発されている生殖技術や遺伝子操作技術などをさらに洗練させれば、人類の進化を人為的に達成することは可能になるかもしれません。しかし、技術的に<できること>と<やってよいこと>は必ずしも同じではありません。将来的にトランスヒューマニストのいう未来が到来するかもしれませんが、私たちが本当にそのような未来を望むのかについて、専門家だけでなく広く社会で議論し、答えを出していく必要があるでしょう。
- 澤井努 特定助教、ASHBi
Q: 葉緑体を持つ植物が誕生した理由を教えてください。
A: あくまで推測ですが、中心星から程よい距離(ハビタブルゾーンと呼ばれたりしますが)にある惑星の場合、地表付近で安定的にエネルギーを得る一番の手法は、恒星の光エネルギーの活用だと思います。葉緑体の起源となった単細胞微生物のシアノバクテリアは、水中で豊富な水分子を光エネルギーで分解して、エネルギー源となる電子を取り出しているので、考えてみるとそういう仕組みを持つ生命が誕生してもおかしくないなとは思いますが、それが果たして他の惑星の生命でも普遍的なのかどうかが興味深いところです。
- 藤島皓介 准教授、ELSI
Q: 人間はこれから進化すると思いますか?進化するならどのような所が変わると考えられますか?
A: 進化は、絶滅と種分化の繰り返しで進んできました。ヒトは絶滅するまでヒトのままですが、ヒトから別の種が生まれる(種分化という)可能性はあると思います。人類の文明がいつか滅んで、残された人々が別々の島に住み、互いに行き来もできず(隔離という)、何十万年にも渡って生存競争を繰り返す(自然選択という)ことができれば、ヒトではない何か別の新種が生まれているかも。あるいは月への移住に成功すれば、小さい筋肉・骨、大きい脳を持つ種が生まれるかも。どんなカタチになるかは、その環境によって決まります。進化には、何か特定の目的や道筋やゴールがあるわけではないのです。
- 井上詞貴 特定准教授、ASHBi
Q: 近年、変異型の新型コロナウイルスが猛威をふるっています。(ウイルスは生物ではないけれど)生物学的には、強い毒性によって宿主の命を奪えばウイルス自身の複製にも不利だと思いますが、変異型は元の型に淘汰されていません。これまでの生命の歴史の中で、このように生存に不利な形質であるはずなのに淘汰されず生き残った種というのはいるのでしょうか?
A: ウイルスに限らず生き残っている生命にはなにがしかの「選択された理由」があるはずです。一見不利に見える形質としてシマウマの白黒があります。単独ではサバンナで目立つ模様ですが、群れだと捕食者の視覚を混乱させるそうです。このように不利に見えても生活環境によっては生存に有利に働くことがあります。微生物、特に寄生虫で分かりやすい例を挙げると、キツネのエキノコックスやネコのトキソプラズマは成功例で見事に宿主と共存していますが、ヒトに人に感染すると宿主は苦しんで、運が悪いと寄生虫と共倒れになります。今ある形質が有利にも不利にも働き、たまたま合った環境で選択されたものが生き残っていきます。
- 坂野上淳 特任教授、IFReC
Q: 今後人類にはどのような進化が必要だと思いますか。
A: 機械やサイバー空間との融合が進むのではないかと思います。AIを含む様々な人工物は、生活に必須になりつつあります。こうした人工物は、初めはヒトの役に立つ、便利さを求めて作られたものですが、一度社会に受け入れられてしまうと、ヒトのほうでもこうした機械類に適応する生活様式が求められます。遺伝子レベルでの進化も、こうした適応に沿って能力が拡張していくのではないかと思います。現代は遺伝子改変の技術が進み、将来的には、ヒトでも使われる時代が来るかもしれません。ヒトの思うがままに、知性や身体能力などの拡張が行われ、機械との融合も進むかもしれません。
- 雨森賢一 特定拠点准教授、ASHBi
Q: 人間が進化していったら、最終的にどんな形になってると思いますか。
A: 進化は、絶滅と種分化の繰り返しで進んできました。ヒトは絶滅するまでヒトのままですが、ヒトから別の種が生まれる(種分化という)可能性はあると思います。人類の文明がいつか滅んで、残された人々が別々の島に住み、互いに行き来もできず(隔離という)、何十万年にも渡って生存競争を繰り返す(自然選択という)ことができれば、ヒトではない何か別の新種が生まれているかも。あるいは月への移住に成功すれば、小さい筋肉・骨、大きい脳を持つ種が生まれるかも。どんなカタチになるかは、その環境によって決まります。進化には、何か特定の目的や道筋やゴールがあるわけではないのです。
- 井上詞貴 特定准教授、ASHBi
Q: 今も新たな生物は生まれていますか。
A: どうなんでしょうね…まだよくわかっていません。というのも私達が環境から生物を見つける方は単離培養する以外だと、DNAを環境から抽出して配列決定(シーケンス)するメタゲノム解析という方法に依存しているため、今の生命とは少し違う遺伝情報物質を利用する生命がいたとしても見逃している可能性は高いです。
- 藤島皓介 准教授、ELSI
Q: 人間が葉緑体を持ったらどうなりますか。また持つことはできますか。
A: 植物は葉緑体を使って光合成を行い、また、ある種の動物も他の生物の葉緑体を取り込むことで、光合成に利用しています。これらは進化の過程において獲得した性質であり、葉緑体を持たない動物の細胞に葉緑体を持たせる(定着させ、機能させる)ことは容易ではありません。(葉緑体ゲノムも100個以上の遺伝子を含みますので、遺伝子導入によって葉緑体を持たせることも容易ではないでしょう。)仮に人間が葉緑体を持ち、光合成能を獲得したとします。それで人間に必要なエネルギーがどれだけ賄えるか計算すると、成人女性が緑色の皮膚を獲得して光合成を行った場合、最大でも必要なエネルギーの1%しか得られないことになり、光合成だけで生きていくにはテニスコート1枚分ほどの皮膚の表面積が必要になりそうです。
https://theconversation.com/explainer-why-cant-humans-photosynthesise-51635
- 吉岡久美子 特定研究員、ASHBi
Q: 生物はなぜ子孫を残そうとするのですか。
A: 私達は、逆に子孫を残そうとする(一度も絶滅せずに生存してきた)ことに長けている選択と淘汰を生き残った現存の生物しか観察できないので、そのように感じざるを得ませんが、その形質こそ生命を生命足らしめている特徴であるといえます。初期の生命の中にはおそらく、子孫を残せずにすぐ死んでいったかわいそうな生き物の形もたくさんあったんだろうと思います。
- 藤島皓介 准教授、ELSI
Q: 他の星で適応できる生物を作り出して、それをその星に送って生存させることは可能ですか。
A: 現代の合成生物学では、様々な生物を合成することが可能になっています。でもそれを勝手に他の天体に送っていいのかという問題があります。その天体に別の生命がいた場合、そこの生態系を破壊することにつながる可能性があります。惑星検疫学、宇宙検疫学とよばれる研究分野がありますが、そこでは人類が惑星探査などをするときに、対象の天体を地球生命で汚染しないためには、どのようにすればいいかということも議論されています。
- 井田茂 教授、ELSI
Q: 人間よりも高度な知能を持つ生物は宇宙に存在すると思いますか。
A: まずは知性とは何か、知能とは何か、意識とは何かという問題を考える必要があります。まずは意識の起源を考えることですが、脳科学、神経科学に加えて、現在ではAI, ゲノム編集、記憶編集、脳とネットや機械との接続による意識と身体の分離などのテクノロジーの進展により、意識の起源の研究が進んで行こうとしています。
- 井田茂 教授、ELSI
Q: 人間は今後どのように進化すると思いますか。
A: 進化は、絶滅と種分化の繰り返しで進んできました。ヒトは絶滅するまでヒトのままですが、ヒトから別の種が生まれる(種分化という)可能性はあると思います。人類の文明がいつか滅んで、残された人々が別々の島に住み、互いに行き来もできず(隔離という)、何十万年にも渡って生存競争を繰り返す(自然選択という)ことができれば、ヒトではない何か別の新種が生まれているかも。あるいは月への移住に成功すれば、小さい筋肉・骨、大きい脳を持つ種が生まれるかも。どんなカタチになるかは、その環境によって決まります。進化には、何か特定の目的や道筋やゴールがあるわけではないのです。
- 井上詞貴 特定准教授、ASHBi
Q: これから新たな生命は誕生すると思いますか。
A: 現存の生物はリソースを実に効率良く利用して増えることができるので、新しい生命が誕生する余地は、エネルギー源や構成因子といったリソースが余剰にあるか、現在の生命とかぶらない性質(直交性)を持つかどうか、にかかっている気がします。
- 藤島皓介 准教授、ELSI
Q: 新たな生物が生まれて人間が絶滅する可能性はありますか。
A: 新しい生き物は普通は地球の一部の場所で生まれます。たとえば人類はアフリカで誕生しましたが、日本その他の場所で同時に誕生したものではありません。そして、その後の生息場所も多くの場合何らかの制限を受けます。なので、例えばその「新しい生物」がティラノサウルスみたいなものでも、その場所から出られないものでしたら、人間としてはそこから脱出すれば生き残れますので、それだけでは絶滅しないと予想されます。一方、どのような地球上の環境にも対応できて、世界中に分布でき、かつ脅威的な生物が現れたら、人間が滅ぼされることも十分考えられるのではないでしょうか。
- 辻村太郎 特定講師、ASHBi
Q: なぜ生命は環境に適応して進化するのですか。
A: 逆に考えると、環境に適応していないものはその環境では滅んでしまうので、必然的に適応したもののみが残っています。
- 望月智弘 特任助教、ELSI
Q: どのように生物の形は変わっていくのですか。
A: 周囲の環境への適応や周りの生物との競争(弱肉強食)の結果、長い年月を経るうちに徐々に形や性質を変えたものが現れてきます。その中で適した性質を持ったものが生き残り、結果的に見た目も異なる進化が起きていきます。
- 望月智弘 特任助教、ELSI
Q: 地球上の歴史で、植物と動物の分かれ道にはどんなイベントがあったのか気になります。
A: 古細菌(アーキア)という核を持たない原核生物に、別の原核生物である細菌(バクテリア)が共生する形で、核を持った真核生物が誕生しました。共生した側の細菌は、真核生物の細胞内でエネルギーを生み出す細胞内小器官であるミトコンドリアになりました。当時はまだ単細胞生物(原生生物)でしたが、やがてそれらが多細胞化し、さらに複雑化することで原始的な動物へと進化しました。また原生生物の一部に、光合成能力を持ったさらに別の細菌であるラン藻(シアノバクテリア)が共生することで葉緑体が生まれました。やがてそれらが多細胞化することで植物になりました。このような様々な共生により進化したことを、細胞内共生と言います。
- 望月智弘 特任助教、ELSI
Q: 生命の研究は、過去と未来、どちらの研究が盛んなのでしょうか
A: 未来の研究は、多くありません。ほとんどが過去の研究になります。現在の生物がどのように生まれたのかは、過去を調べる研究になります。生命の未来の研究というのは夢がある研究に感じます。
- 松浦友亮 教授、ELSI
Q: どのくらいの種類の惑星からサンプルを持ち帰れば、生命誕生の条件はある程度理解できるのでしょうか?生命の起源を研究する上で、どんな環境で生命が誕生するのかといった疑問も生じるかと思います。MMXのように探査機が太陽系の天体からサンプルを持ってくるプロジェクトがありますが、今後どのくらいの惑星からサンプルを手に入れられれば、惑星での生命誕生に関してある程度理解できるのでしょうか?太陽系外にも地球環境に似た惑星があると聞いたことがあります。そこからサンプルを持ち帰ることも将来はあるのでしょうか?
A: 地球生命の知見では、生命が誕生するために必要な最低限の条件として、液体の水、生命の材料物質(つまり有機物)、エネルギー(太陽光や地熱など)が必要だと考えられています。ただし、これらはあくまでも地球生命の知見から得られたものです。まずは、これらの条件が本当に必要な条件なのかを確かめることが必要だと思います。実は、この3つの条件を備えた天体が、地球以外に複数個あります。火星と、木星や土星の周りを回っている複数個の氷衛星です。これらの天体からサンプルを持ち帰って、生命が存在するかどうかを確かめることによって、この3つの条件以外に必要な条件が他にあるのかどうかについて理解が進むことになるかと思います。
- 玄田英典 准教授、ELSI
Q: 生命は火星から来たという説を聞いたことがあるのですが、それだったらなぜ火星から生命体が出てこないのですか?
A: 火星で誕生した生命が、進化して今の火星上でも繁栄していたとしたら、火星で生命が簡単に見つかったかもしれませんね。逆に、大昔の火星で誕生した生命が、あまり進化せずに絶滅してしまったら、火星で生命が生きていた証拠を見つけるのは簡単ではありません。可能性としては、火星で生命が誕生しなかったか、もしくは誕生したとしても、現在の我々が発見できるレベルにまで繁栄していない(つまり絶滅してしまった)ことが考えられます。ちなみに、生命が火星から来たという説は、現時点ではあくまでも仮説です。
- 玄田英典 准教授、ELSI
Q: 地球上の生物(生命)は皆炭素から成り立っているが、ケイソウは外骨格にガラスを形成している。既に現在の科学技術でミュータント生物を作る事ができると聞いたが、その力でケイ素生物を作る事はできるのか。また、突然変異等でそのような生物が誕生する事はあり得るのだろうか。
A: 現在の技術で、ミュータント生物を創ることは可能です。しかし、狙いの性質を持つミュータント生物を創ることはまだまだ難しいです。従って、炭素からケイ素に変えるほどの大きな変化をデザインすることは不可能に近いと考えられます。ケイ素を原料とする生物は現在の生物の延長上にはなく、現在の生物から産まれることは考えにくいです。
- 松浦友亮 教授、ELSI
Q: 地球外生命体がいた場合、地球人の先祖だったり、進化した形だったりする可能性はありますか?
A: 生命の仕組みも進化も非常に多様で、偶然性にも支配されると思います。たとえ、地球と全く同じ条件で同じ共通祖先から生命が進化したとしてもヒトと同じようなものは生まれないと考えるほうが合理的だと思います。ですので、地球外生命が地球のヒトの系列で考えることができる可能性は極めて低いと思います。
- 井田茂 教授、ELSI
Q: 1000年後、地球に生命は存在すると思いますか?
A: 私も若い頃は1000年というのはとても長い時間だと思っていましたが、世紀をまたいで生きてきますと意外と短い時間のようにも感じてきます。。というのは置いておいて、地球の歴史からすると1000年はとても短いです。また地球上には色々なところに色々な生き物がたくさんいます。なので1000年やそこらでこれがすべていなくなるということはおおよそ何があっても考えにくいです。
- 辻村太郎 特定講師、ASHBi
Q: 地球では生命が繁栄をしていますが、他の惑星で地球以上の文明を持つ生命は存在すると思いますか。
A: まずは知性とは何か、知能とは何か、意識とは何かという問題を考える必要があります。まずは意識の起源を考えることですが、脳科学、神経科学に加えて、現在ではAI, ゲノム編集、記憶編集、脳とネットや機械との接続による意識と身体の分離などのテクノロジーの進展により、意識の起源の研究が進んで行こうとしています。
- 井田茂 教授、ELSI
Q: この先、惑星移住など、地球外での生活においてどのような環境が必要になりますか。
A: 初期段階では、人間が生きていくために必要なものをすべて地球から供給する必要があります。例えば、水とか食料とか酸素など。次の段階では、それら必要なものを現地(例えば火星とか)で調達することになると思います。その意味で、現地に利用できる資源としてどのようなものがあるのかをあらかじめ調査しておく必要があるかと思います。
- 玄田英典 准教授、ELSI
Q: 地球の環境問題を解決するのに役立つは、科学技術か、それとも協定/法律などのルールか、先生方のご意見をお聞きしたいです。
A: 両方とも大事です。地球の環境問題解決の鍵は脱炭酸ガス(CO2)です。これには、自然エネルギーの活用(風力発電など)と新電池開発が重要です。後者では、「水をエネルギーとする”水素社会”」の構築が挙げられます。水素と酸素(空気)の化学反応でエネルギーを生み出し、車を走らせる燃料電池車やエネファームは実用化されていますよね。この水素は、化石燃料の改質や水の電気分解で作ります。しかし地球環境を考えると後者でなくてはなりませんが、まだコストが高いのです。今、後者の方法で、水素を安価に作る新触媒の研究が、世界中で競争になっています。ここ九大のI²CNERでもこの研究を行い、世界に発信しています。実現できれば「水を用いたエネルギー社会」が実現します。一方、政治/政策では、COP21で、2016年にパリ協定が発効、持続可能な開発目標(SDGs)のゴール13は「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる。」と策定しています。
- 中嶋直敏 特任教授、I²CNER
Q: 「自己複製する」「代謝をする」といった、生物の定義は聞いたことはありますが、では生命の定義とは一体何なのでしょうか?
A: 生の定義は千差万別で、我々が現存する生命を見た時に共通だと思われる特徴をもとに様々な生命の定義が提唱されており、それだけで1冊の本になるくらいです。興味があればぜひ読んでみてください(Searching for the Definition and Origin of Life, Springer社, Popa 2014)
- 藤島皓介 准教授、ELSI
Q: 惑星や銀河系がたくさんあるように、宇宙も一つではなくいくつもあると思いますか?
A: 現在、もっとも有力な説の一つは多次元宇宙論(マルチバース)と呼ばれているものです。かつて、太陽や地球は唯一無二と思われていましたが、太陽は天の川銀河を構成する2000億の星のひとつ、惑星も数千個見つかってきました。さらに系外銀河も数千億以上あると考えられています。現在の宇宙論では、初期条件が我々の住む宇宙である必然性は見つけられていないので、たくさんいろんな宇宙があってもおかしくないはずで、むしろその方が自然なのかもしれません。
- 鈴木尚孝 助教、Kavli IPMU
「研究者のキャリア」に関する質問
Q: 留学はしたほうがいいですか?
A: 自分のやりたい研究分野によると思います。日本が世界をリードしている研究もたくさんあります。その一方、世界は広く、日本ではやっていない萌芽的な研究をしている研究機関が世界にはたくさんあります。情報を広く集め、日本を含め世界のどこが自分に一番合っているか、探してみるのがよいと思います。
- 鈴木尚孝 助教、Kavli IPMU
Q: 研究を進める中、仮説の検証に失敗した場合、責められたり責任を負わされたりしませんか?また、どのような心構えで乗り越えますか?
A: 仮説の検証に失敗することはよくあります。そもそも誰もやったことの無いことを対象にしているので、仮説通りに行くことの方が少ないでしょう。一つの仮説が間違っていたとして、そこから新しい仮説を導き出すのが科学の作法なので、検証に失敗したこと自体を責められることはありませんし、あってはならないと思います。むしろ、失敗したものを放置してしまい、そこで思考停止してしまう事が最も忌避すべき事であると思います。
但し、昨今選択と集中で大きなプロジェクトが行われるようになり、失敗が許されないような雰囲気に危惧を覚えています。研究不正が生じる温床の一つにこういった過度な選択と集中があると思います。
- 藪浩 准教授、AIMR
Q: 僕は今、高校2年生です。僕は研究する内容や自分がこれから新たなことを解決することに自信がありません。まず初めに解決する内容を見つけるために、今から出来ることや普段からするべきことはありますか?
A: 高校生の時点でこれからすべきことが具体的に見えてこないのは、無理も無いことかと思います。まずは高校と大学で自らの考える力と教養を身につけることに努めて、大学院に入る頃までに自らが解決したい分野や方向性について考えておくことが重要かと思います。大学院では、研究室の教官の方が研究テーマについて指導してくださいますので、さほど心配しなくても大丈夫かと思います。実際に自分でテーマを設定して自立的に研究することが求められるのは、大学院の後期か、博士号を取ってからになります。
- 谷口雄一 教授、iCeMS
Q: 私は研究者になりたいのですが、中学生である今、できることは何ですか。
A: 夢を追いかけて、やりたいことに挑戦する姿勢を大事にしてください。常にポジティブに考え、挑戦すれば人生でやりたいことは何でも達成できます。 誰でも1日24時間は同じです。不可能を可能にするチャンスを掴んでください。そして、科学が好きな人や科学者になりたいという夢を持っている人は、ぜひチャレンジしてみてください。
- Janyerkye Tulyeu 特任研究員、IFReC
Q: 現在大学2年生です。研究者を目指す場合、大学生活でやっておくべきことは何でしょうか。
A: まずは、専門分野を深く、しっかり勉強することが1番大事です。また専門分野以外の本を、なんでも良いから、図書館でたくさん読んでください。「研究者」は、実は「体力」も「集中力」も要りますよ。スポーツなどで楽しんで鍛えてはどうでしょうか。
- 中嶋 直敏 特任教授、I²CNER
Q: 先生方が高校生の時に研究者について持っていたイメージと、現在を比べてみて違うところはどこですか?
A: 理知的なイメージで、白衣を着て実験し研究に没頭する姿は格好いいと思っていました。でも実際に大学の研究者になってからの現実は、研究費を獲得するために、申請書作りに追われています。また、学部学生や大学院生のときは、英文科に進学したのかと思うほど、英語を勉強しなければなりませんでした。英語で論文を発表しなければならないことは、高校生のとき、頭になかったです。
- 木村昌由美 教授、IIIS
Q: 研究する期間はとても長いと思うのですが、そのときのモチベーションを維持する方法を教えていただきたいです。
A: 研究では考えていた通りに進まないことの方が多いです。そのような時、目の前にある問題に集中しすぎると、ふだんは見えていることも見落とすことがあります。そんな時、私はスポーツや読書をしたり、他の研究をやったりして気分転換をしています。
研究を進める中では、失敗の中から成功へつながる(と思われる)情報を、実験での観察、結果の考察から抽出し新たな仮定を作ります。「これをすればうまくいくかも」と閃き、その閃きが導いた手法がうまく行ったときのなんとも言えない興奮と感動は病みつきになります。
ここまで言ってきましたが、「なんとかなるさ」という楽観的に考えながら、気分転換を適度に織り交ぜて真摯に科学に向き合って研究を進めています。
- 佐藤綾人 特任准教授/研究推進主事、ITbM
Q: 英語で論文を書くとき、どんなことに注意していますか。
A: 研究者が本当に重要だと思う研究結果を、「他の研究者」に正しく理解してもらいたい。そのために、何が面白いのか、何故重要なのか、そして、結論に至る道筋を論理的に示す「読み物」が論文です。英語か日本語かとは関係なく、論理的で明快であること、ここに最も気を遣います。英語が得意な日本人ほど洒落た言い回しを使い、読みにくく冗長な論文を仕上げます。簡単・単純、初歩的と思われる英文構造や単語を使い、誤解を生まない出来るだけ短い文章を積み重ねます。もし長い文章になったら、どこかで区切って分割できないかと知恵を絞ります。他の人に読んで貰うのも良い論文を作るためには有効です。
- 中山知信、WPI-MANA副拠点長 筑波大学教授 シドニー大学名誉教授
Q: 私は将来、研究者になれればなと思っています。具体的に何かについて知りたい訳ではなく、「研究する」ことが好きです。
実際には、研究者の方々は「研究者になろう」とか「これを専門にしよう」とか思ったのは、いつどのようなきっかけなのですか?
A: 私も高校生の頃には漠然と「研究者になろう!」と思っていました。現在、化学を専門としているのですが、最初のきっかけは小学生の頃に読んだ「もしも原子が見えたなら」という本の影響です。「世界はなにゆえに存在しているのだろう?」という子供にとって大きすぎる疑問をもっていたところに、その本から「世界は原子というつぶつぶで出来ているのだ」という衝撃的な回答を得て化学に強い関心を持つようになり、大学受験の際に化学を学ぶことのできる所を選びました。きっかけはどうあれ、広く情報のアンテナを張り、自分が関心を持ち続けることのできる分野に出会うことができれば、いつかその分野が自分の専門になると思います。
- 長田裕也 特任准教授、ICReDD
Q: 今年、大学2年生になるものです。研究者を見据えたとき、学士卒論と修士卒論それぞれで要求される、もしくは、重点をおくべき部分は何でしょうか。
A: 現在は、arxiv等で論文が簡単に読める時代になりました。最先端の研究がどのように進んでいるのかを踏まえて、卒論や修論を進めるのがよいと思います。ニュースや雑誌で取り上げられている研究はおそらく何年も前から計画、実行されたもので、結果が出ているものです。本当におもしろい研究というのは、できるかどうかわからないギリギリを攻めていくもので、現在は無名のはずです。是非、そのような宝の原石を見つけられるような「目利き」のちからが重要なのだと思います。
- 鈴木尚孝 助教、Kavli IPMU
Q: 大学・高校での経験で一番役立ったものは何ですか?今の学生にどのような経験を積むことをお勧めされますか?
A: 私は大学での学生実験など、とにかく手を動かして体験したことが一番役に立っていると思います。これは実験に限らず、課外活動等でも同様と思います。
一方で様々な本を読むことは大事であると思います。異なる物の見方を養う為に、教科書以外の本を多く読むことをおすすめします。
- 藪浩 准教授、AIMR
Q: 科学を本当に好きになったきっかけはありますか?またいつ頃のことでしたか?
A: 私の場合は小学校の時に、自分を含む世界がどのような法則の下で成り立っているのかに興味を持ち、科学者になることを志すようになりました。また、大学院を卒業したあたりの頃には、現在の科学でできることとできないことの現実が見えてくる一方で、科学を学ぶ立場から自ら追求する立場に変わったことが実感できるようになり、科学者として働くことの喜びがさらに深く感じられるようになりました。
- 谷口雄一 教授、iCeMS
Q: 好きなことを仕事にすると嫌いになってしまったりしませんか?
A: 人にもよると思いますが、趣味の好きと仕事の好きは少々違うと考えています。日々、同じ実験(仕事)の繰り返しの生活がずっと続いても全く苦にならない、あるいは成果が出るとそれで相殺されるのが好きな仕事だと思います。ノルマで動かされる面も多少はありますが、ほとんどは「これを知りたい」という欲求からの活動なので、身体的にはきつい時もありますが気持ちは疲れません。
- 准教授、NanoLSI
A: 仕事なので辛いことや嫌なこともありますが、私の場合は好きなことを仕事にしていることが強いモチベーションになっています。もし好きだと思って始めた仕事が嫌になっても良いと思います。その時にもっと好きなことに転身するか、続けるか考えれば良いと思います。
- 酒井克也 准教授、NanoLSI
A: 嫌になるフェーズはあります。そのときは、少し離れると良いと思います。離れていても研究が気になるようであれば、本物です。このとき、本当に研究が気になっているのか、進路変更による周囲の評価の変化が気になるのか、切り分けることが大切です。研究以外のことが気になればそちらの方に進路を決めれば良いと思います。悪いことではないと思います。
- 中山隆宏 准教授、NanoLSI
A: 苦手な実験や作業はありますが、それを越える楽しい事があるので続けられるのだと思います。今まで分からなかった事が実験によって紙に書いて説明できるようになるのは、とても面白いですし、それが人の役にたつ新しい発見なら尚更です。
- 西村達也 准教授、NanoLSI
Q: 中高生時代に読んで影響を受けた本(科学の)はありますか?
A: 私は、筒井康隆、阿部公房など、少し不思議な世界を描いたSFや小説が大好きで、科学本を強いて挙げるなら、「ご冗談でしょう、ファインマンさん」という本は何度も読みました。ただ、これはノーベル賞科学者の自伝本で科学解説本ではありません。私は教科書を読むのも大好きでした。読んで道筋を理解するのが楽しくて、理科だけでなく社会の教科書や資料集も好きでした。今は、それらすべてに影響を受けたと感じます。科学の目的は、発明や発見を通じて、人々の心や生活を豊かにすることです。その基礎となる知識は、教科書から得られます。しかし本当に科学を志すなら、色々な本を読み、様々な体験をして、多くの人と話をするべきです。科学を牽引する好奇心や創造力はそう言う経験から生まれる力だと思うのです。
- 中山知信、WPI-MANA副拠点長 筑波大学教授 シドニー大学名誉教授
Q: 研究者の1週間を知りたいです!(勤務時間、休み、朝からの流れ、など)
A: 研究室の学生さんの1日は、学士/修士/博士論文の研究です。関連論文(全て英語です)を探す、じっくり読む、実験計画を立てる、教授や先輩と相談/discussion、実験を行う、得られたデータを整理、教授とdiscussion、検討会の準備、良いデータが得られたときは学会で発表(時には英語で)、国際研究雑誌に投稿するための論文草案を作成、教授とdiscussionなどなどです。合間を見つけてスポーツも楽しんでいますよ。朝からの流れは、日々異なりますが、朝から夕方までの実験の日々が多いですね。昼休みはもちろんありますよ。
- 中嶋 直敏 特任教授、I²CNER
Q: 研究は目標を達成するまでの道のりが長いと思うのですが、モチベーションはどのように保っていますか
A: いつでも、研究者を目指したときの自分が思っていた”不思議”を解明したのか、と自問していました。これが解決しない限りは、研究を続けようと思っています。
- 木村昌由美 教授、IIIS
Q: 女性研究者の方はプライベート(結婚や出産)と両立できますか
A: プライベートとの両立は可能だと思います。博士号取得や仕事に没頭してしまうために、婚期が遅れることは考えられますが、他の業種でも同様ではないでしょうか。私は結婚も出産もしたかったので、その年齢を考えて婚活はしました。近年は女性研究者の出産で研究を中断しなくてはならなくても、再開を支援する制度がいくつかあります。保育施設や子育てを支援する部署も各大学や研究機関には備わってきています。私は現在妊娠中なので、それらの制度を利用して子育てと両立して研究を続けたいと思っています。
- 中川麻悠子 特任助教、ELSI
Q: 私は今大学に通っていて、幅広い分野について学んでいます。面白いと思う分野はいくつかあるのですが、4年生から研究室配属されるので、専攻するものを一つに絞らなければなりません。皆さんはどのように決めましたか?
A: 面白いと思う分野がいくつかあるとは、素晴らしいですね。その中で、ついつい気になってしまうものや多少苦労があってもやってみたいと思えるものを選ぶことをお勧めします。その方が力を発揮できると思うからです。1つを選んだら、他を捨てるというのではなく、いつかチャンスがあったらそちらにも挑戦するつもりで、情報を集めるなど、準備をしておくと良いと思います。
- 三宅恵子 特任講師、ITbM
Q: 自分が、地球以外の星に行くとしたら、どこに行きたいですか。
A: 古代ギリシャの時代から、どんな冒険物語、SF小説も、必ず最後は故郷に帰っていくものが多いです。宇宙には行ってみたいですが、必ず帰ってきたいので、美しい地球を眺められる月くらいがよいですね。もし、ワープが可能なら、たくさんの星があって高度な文明が発達しているだろう、銀河中心の星に行ってみたいです。
- 鈴木尚孝 助教、Kavli IPMU
Q: 女性が研究者になるにあたって、大変なこと、大変そうなことはありますか?
A: 研究の種類にもよりますが、バイオ系ではほとんどないと思います。家事や育児に関しても比較的時間に融通がきく職種ではないかと思います。
- 准教授、NanoLSI
A: 研究活動においては、女性だからといって、男性と比べて特別大変なことはありません。むしろ女性であることで、他の研究者に覚えてもらいやすいなどのメリットもあります。ただ、出産や育児は女性ならではの大変な部分ではありますが、最近ではそういったライフイベントと両立できるようなサポートが大学でも充実しています。つまり、女性であることが研究者になる上で障壁になるということはありませんので、まずは「何がしたいのか」ということを最優先に将来のことを決めてもらえれば良いのではと思います。
- 准教授、NanoLSI
Q: 研究者に向いているのはどんな人ですか?
A: 「研究者に向いている人」というのは非常に難しい質問ですね。少し見渡しても色々なタイプの研究者の方がいらっしゃるので、どのような人でも研究者になりうるのではないかとすら思えます。ひとつだけ挙げるとすれば、「失敗しても次のチャレンジを続けることができる人」だと思います。研究では当然前例の無いことに取り組むわけで、研究すればするほど失敗の山が積み上がっていきます。そのような状況でも「この失敗はこれが原因かな?こうすれば上手くいくかな?」と次のチャレンジへと繋げることのできる人が研究者に向いていると思います(自分もそうありたいと思って研究をしています)。
- 長田裕也 特任准教授、ICReDD
Q: 研究していく日々に息詰まることがあったらどうしていますか?
A: 実は同じ質問を世界的なバイオリン演奏者に聞いたことがあります。一日何時間練習したら、そんなに上手になれるんですか?と。彼女は、時間じゃないけど、練習やバイオリンが嫌いにならないように気をつけていると言っていました。私も宇宙のことが大好きで研究を志しました。研究をおもしろいと感じている時がやっぱりいちばん力が出て効率的です。なので、息がつまらないように一所懸命やっています。よって、息が詰まることはありません。
- 鈴木尚孝 助教、Kavli IPMU
Q: 研究者になってから、「中高生の時にしておいてよかったこと」「中高生のうちにしておいた方が良かったと後悔したこと」はありますでしょうか。
A: 英語に関して、苦手意識を持たなかったことは良かったと思っています。成績良し悪しよりも、英語を「嫌だな」と思わないことは重要だと思います。特にリスニングは経験に勝るものはないと思うので、授業以外、映画やドラマなんでもいいので耳を慣らしておくことは役に立つと思います。
- 准教授、NanoLSI
A: 研究者だけでなく全ての仕事で、専門性だけでなくコミュニケーション(プレゼン、申請書、論文、英語)、教養など幅広い要素があると思います。好きな勉強も嫌いな勉強も、部活も、趣味も、いろんなことにチャレンジして欲しいです。全てが将来の自分に繋がると思います。
- 酒井克也 准教授、NanoLSI
A: 良かったことは思い出せません。後悔ばかりです。特に、英語の読み書き、聞き話し不足。
- 中山隆宏 准教授、NanoLSI
A: 中高では幅広く勉強する必要があります。海外の研究者と友達になると世界史や文学・芸術の話が良く話題に上がり、中高で学んだ化学以外の知識がとても役に立っています。また、個人的には、もっと躰を鍛えておけば良かったと思っています。
- 西村達也 准教授、NanoLSI
Q: 日本の研究機関と外国の研究機関では、これは圧倒的にちがう!というのはありますか。
A: 私が日本で生活していて一番気に入っているのは、寛容さとお互いを尊重するコミュニケーション文化です。また、ここは治安が良いので、社会的なストレスを感じることなく生活できる環境が整っている点も気に入っています。
- Janyerkye Tulyeu 特任研究員、IFReC
Q: 私は最近、本格的に研究活動に取り組み始めたところで、これから問題点が見つかった時うまく対処できるかが不安です。研究者の皆さんは研究に行きづまったとき、どのようにその状況を打開されていますか?(気分転換をする、他の研究に取り組む、他の人にアイディアを尋ねてみる、とにかく自分で考えるなど)
A: 周りに聞ける人(経験豊富な先輩、先生)がいれば、頼ります。しかし多くの場合そうでない場合があるので、当たって砕けろの精神を周りが許してくれる(時間、お金など)環境であれば、なんでもやってみます。経験を積めば見極めが自然とできるようになってきますが、それも最初はなんでもやってみることから培われると思います。
- 准教授、NanoLSI
A: 研究にはうまくいかないことや失敗はつきものですので、自分なりの対処方法を身につけていくと思います。文献に当たったり、人に相談したり、自分でとことん考えて実験したり。失敗は成功のもとです!
- 酒井克也 准教授、NanoLSI
A: 行き詰まっている原因をできる限りたくさん列挙して、解決すべき順番を決めて、順に検証します。問題点や検証方法を自分で見つけることが難しい場合は、信頼できる先輩や先生に相談するのも良いと思いますが、自分でもがくのが最も勉強になると思います。
時間はかかりますが、取り組んでいるうちに様々なスキルも身につきます。
- 中山隆宏 准教授、NanoLSI
A: 学会に参加していろいろな発表や意見を聞くと解決策が見つかることがあります。また、関連する論文をたくさん読むことが大切です。多くの場所にヒントが書いてあります。
- 西村達也 准教授、NanoLSI
Q: 英語はできたほうが良いですか
A: 必須です。でも楽しく学ばないと続きませんよね。「世界にいいね!つぶやき英語 - NHK」など面白いですよ。お勧めします。SNSで、例えば"SDGs"で検索すると、この単語を含んだ、「世界の“つぶやき”」が即座に出てきます。英語で日記をつける(2〜3行でもいいから)のも良いかもしれません(歌手の武田鉄矢さんも、そうしていたみたいですよ)。僕は、若い時に、読んだ英語の論文で「使ってみたい表現」を見つけると、ノートに書き留めていました。英語に限らず「継続は金なり」です。
- 中嶋 直敏 特任教授、I²CNER
Q: 研究者になりたいと決めたのはいつぐらいですか。
A: 高校生の時です。化学と生物学に興味がありました。しかし、高校2年生の時の授業でDNAのことを初めて学んだとき、そんなに昔のことではないんだと、自分でも何か新しいことが発見できるのでは、と思いました。
- 木村昌由美 教授、IIIS
Q: 研究者になろうと思ったきっかけ、もしくは過去の自分に影響を与えた学者や書籍があれば教えていただきたいです。ちなみに自分はゾウの時間ネズミの時間です。
A: 私は修士課程まで薬学部にいました。有機化学の実習でくすりの分子を自分の手で合成し、それがマウスで効果を示したときの感動は今でも覚えています。その後、有機合成化学、天然物化学(理学部)、ケミカルバイオロジー(医学部)と研究分野を渡り歩きましたが、現在まで一貫して分子と生き物の関係を研究しています。ファーブル昆虫記、ダーウィンの種の起源はオススメです。研究の本質、研究者のあるべき姿が描かれています。あと、興味があることにはなんでも挑戦してください。知的探究に加え、その実践が大事ですね。
- 佐藤綾人 特任准教授/研究推進主事、ITbM
Q: 研究の過程で一番大切にしていることは何ですか。
A: 研究の価値は、研究対象の設定で9割決まると言われます。自分が納得して、よしこれだ!と思わない限り、質の高い研究など出来るはずがありません。私が、研究対象を決めるために大切にしているのは、「しっかりとした知識」と「質の高い無知」です。言い方を変えると、「質の高い無知」とは知られていない事が潜んでいる可能性を嗅ぎつける嗅覚のようなものです。分かった気にならず「無知」であること、調べる価値があるものだと判断するための「知識」を持って欲しいと思います。研究のあらゆる過程で、一番いけないのは、「思い込み」です。信じることは重要ですが、知識と無知を駆使して自分の目の前にある結果を素直に見ることが何よりも重要です。
- 中山知信、WPI-MANA副拠点長 筑波大学教授 シドニー大学名誉教授
Q: 研究をしていく中で、数学と理科以外に大切だと思うものは何ですか。
A: 読書(国語・英語)が大事だと思います。思考を研ぎ澄ます意味でも、論文を読んで素早く要点をつかむためにも、読書は知的な体力を上げる意味で大切と思います。
- 藪浩 准教授、AIMR
Q: 中高の学業成績がとても良くないと研究者を目指すことは難しいですか?
A: 中学校や高校の際の学業成績についてはもちろん良いに越したことはないかとは思うのですが、特別に良くなくても研究者としてやっていけると思います。中学・高校で習ってきたことと、大学・大学院で習うことは単純な積み重ねではなく、不連続な発展を伴っています(ちょうど小学校の鶴亀算と中学校の方程式のような感じです)。高校までの成績が今一つでも大学に入って大きく花開くこともありますので、ぜひ研究者を目指してみてください。(この回答は中高サボっても大丈夫という意味ではありませんので、精一杯勉強してくださいね。後で思いがけず役立つことが多々あるのも確かです。)
- 長田裕也 特任准教授、ICReDD
Q: 研究者の先生の1日に関して、ご質問させていただきます。「 先生方は、1日の内どのくらいをご自身の研究に使うことができるのでしょうか?」大学での講義と研究で大変お忙しい印象があります。それらを両立する秘訣はありますでしょうか?
A: 現在の僕の立場は、毎日自分の研究に100%時間を使えるという特別なものです。大学所属の研究者でもこのようなパターンもありますので、参考にならなくてすみません。もちろんこれはかなり特殊なもので、通常大学の先生方は講義や大学運営のための仕事に多くの時間を割いています。うまく両立をされている先生方をみると、チームを丁寧に作って手分けをして業務に当たっている方が多いのではないかと思います。もしかするとそのあたりが秘訣なのかもしれません。
- 長田裕也 特任准教授、ICReDD
Q: 自分の研究成果を発表する機会はどのくらいありますか。
A: 大抵の研究者は学会に入っており、大抵の学会は年に1~2回の学術講演会を開催します。その他世界各地で開催される国際学会でも発表の機会はあります。しかし、研究者にとって一番大切な研究成果の発表は、論文発表です。これは、様々な学術専門誌やNatureやScienceなどの商用誌上で、研究成果を公表するという発表形式です。レベルの高い雑誌に掲載されると注目が集まり、学会から招待されて講演する機会も生まれます。論文を年間に何報発表するかは、研究の内容やスタイル、さらには何人で取り組んでいるかなどによって大きく異なりますが、良い成果を出して論文発表をする機会は、自ら切り拓くものですから、その回数は自分の努力次第と言えます。
- 中山知信、WPI-MANA副拠点長 筑波大学教授 シドニー大学名誉教授
Q: 研究者の仕事に関して、ご質問させていただきます。「異なる分野同士の先生方が協力し合う時、心がけていることはありますでしょうか?」昨年帰還したはやぶさ2 を始めとして、宇宙と地球生命はきってもきれない関係にある印象があります。そこで、宇宙や天文が専門の先生方と生物が専門の先生方、ディスカッションをする際にはどんな観点から議論を始めていくのか気になります。これからの時代、分野間の協力も活発になると思いますので、大変興味深いです。
A: 現在、Astrobiologyといって、宇宙生命の起源をサイエンスで迫れる時代がやってきました。これまで以上に分野横断型の研究が求められています。他分野の先生とお話する時は、使っている用語が違うことに驚かされたり、私達が新しいと思っていた手法が既に古かったりと勉強になることが多いです。が、同じ目標に向かって協力し合えることも多いので、柔軟な姿勢でまず話を聞いてみるという観点をもつことが大切だと思います
- 鈴木尚孝 助教、Kavli IPMU
Q: 初めて論文を書いたのはいつですか。そのときは誰に、どのように学んだのでしょうか。
A: 日本語では学部4年次の卒業論文が最初です。研究室の先輩方のものを参考にして書き、指導担当の先輩と教授から指摘された部分を修正するという作業を繰り返して完成させました。英語では現在初めて作成していますが、そのためのトレーニングとして共同研究で実験を担当した部分を執筆・訂正したり、英語での学会発表を経験したりして、学術英語を身につけるように心がけています。
- 渡邊美幸 博士課程3年、IFReC
Q: 研究発表のプレゼンテーションで、心配から、ノートにスピーチ内容をすべて書いてしまいます。皆様にはそのような経験はありましたか。どのように脱却すればよいかも聞いてみたいです。
A: プレゼンのスピーチ原稿を作るなんて、素晴らしいじゃないですか!私が尊敬する偉大な科学者の一人、故外村彰博士は毎回完璧に原稿を用意していました。同じテーマで何度も講演をするのだから、使い回しだろうと思うでしょうが、そうではありません。自分が本当に伝えたい事を漏らさず確実に発表するために、聴衆に合わせた原稿を毎回作り直していました。私も昔は頑張って原稿を作っていましたが、最近は忙しいと言い訳をして、さぼってしまいます。それでも、話すべきポイントをキーワードとしてカードに書き、講演で使う順番に並べて何度も検討したり、そのキーワードを実際にスライド中に埋め込んだり、様々な工夫をして乗り切っています。でも、原稿を作るのが一番です!作ったら覚えるくらい見返して、しっかりと聴衆を見て話をして下さい。
- 中山知信、WPI-MANA副拠点長 筑波大学教授 シドニー大学名誉教授
Q: ご講義されることは、負担にもなると思うのですが、何かモチベーションがあれば伺いたいです。
A: 人に説明することは、大変難しいです。まず自分で理解できたものを噛み砕いて再構築して、という作業なので、わかっているつもりでも人にうまく説明できないと非常に落ち込みます。そういう作業を通して自分の理解具合も整理できるいい機会だと思っています。また、質問がくるということは理解しようと試みた証しなので非常に嬉しいですが、あまり質問をもらったことはありません。
- 准教授、NanoLSI
A: 自分の研究に役立てられそうなことを見つけてあらためて学習するように準備しています。
- 中山隆宏 准教授、NanoLSI
A: 講義も実習も楽しくやっており、あまり負担に感じていません。強いて言えば、学生に理解してもらうように工夫を凝らす努力は必要でしょうか。これも自分のプレゼン能力のスキルアップにも繋がるので、総じて面白おかしく準備しています。最近は慣れない遠隔授業に苦労しましたが、学生が積極的に講義へ参加してくれたおかげで、問題無く講義を進められました。
- 西村達也 准教授、NanoLSI
Q: 先生方の研究活動において、どのようなことで新型コロナウイルスによる影響を感じましたか。
A: 色々な実験に必要な試薬や道具、動物を購入しようとしても、以前のようにすぐには手に入らないことです。また、私たちは国際学会で研究発表をすることがとても重要です。これが今まったくできません。留学もできません。海外の著名な研究者の講演を、直に聴いて交流することができません。オンラインでの講演を聞けることもありますが、彼らの研究室を訪ねたり、同じようなことに興味のある若手の研究者と直に議論ができないことは、研究進展の妨げになっているとも思います。
- 木村昌由美 教授、IIIS
Q: 研究を続けていく上で中々結果が出ないという事が多々あるとおもいます。そんな時に諦めない為にしている事はなんですか?
A: そうですね。研究は思い通りに進まないことの方が多いですね。私の専門の生態学では、野外の生き物のシーズンに合わせて調査を行う必要があり、時にはまったくデータがとれないこともあります。そんな時は落ち込むのですが、タダでは転ばない!ことを心がけています。ダメならダメで、別のテーマを見つけるなど、その場所・その時間でできることを積極的に探して次に活かすようにしています。うまくいかない時にくじけず諦めずに進むには、"Look at the bright side"ものごとの明るい面をみる楽観的な思考が大事なのかもしれませんね。
- 三宅恵子 特任講師、ITbM
Q: なぜ、生物学や地学・地球科学についての研究をしていこうと思ったのですか?
A: 学部では環境問題に携わりたいと思い、化学工学を専攻しましたが、環境に優しい製品・システム開発よりも、そもそも環境が変化する仕組みの方に興味が湧くようになりました。環境がどのように変化しているかを理解するには、太古から続く地球全体の大きな物質循環と生物活動を含んだ細かい循環を対象にする必要があり、それらを調べるには地球化学や生物学を利用した研究が必要だったので、大学院に入ってから少しずつ勉強し、研究に利用するようになりました。
- 中川麻悠子 特任助教、ELSI
Q: 研究と生命倫理を両立させる上で大切にしている事は何ですか。
A: 研究倫理、すなわち倫理ガイドラインや原則に従って研究を行うことは非常に重要です。私たちは研究者として、自らの私欲や好奇心だけを満たすものでなく、社会の一員として決められた倫理規範や制限に従う中で研究活動を行う必要があります。また、私たちは自分たちの研究室、大学等だけでなく研究結果によって影響を受ける可能性のある全ての人々に対する責任を負うことを忘れてはいけません。その中で心がけていることは、良い研究成果を出すことだけでなく、倫理的に好ましく、信頼できる仕事をしていくということです。
- Cantas Alev 特定拠点准教授、ASHBi
A: 私たち生命倫理学者が研究において大切にしているのは「科学者との対話」です。それは、科学者が非専門家である生命倫理学者に科学の現状や展望を一方的に教えるのでも、生命倫理学者が科学者に倫理の考え方を一方的に教えるのでもなく、双方向的に腹を割ってじっくり議論するということです。日本では科学の研究機関に生命倫理の研究者がいるのは珍しいですが、京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点やiPS細胞研究所では、科学と生命倫理の研究者が文理融合を積極的に進めています。もしこのような研究に関心のある人はぜひホームページなどをご覧ください。
- 澤井努 特定助教、ASHBi
Q: 研究するときに、一体何を研究するのか、どのような方法でそれを研究するのかを決定されているのか教えていただきたいです。
A: 何を研究するか?についての判断基準は「好奇心」です。これまでの研究から、思いがけない現象があったとき、見逃さないことと、その対象を理解したい、あるいは今までに無いものを作りたい、という好奇心が満足できるかどうかが判断基準です。実際に私自身の研究テーマのほとんどが思いがけない発見の上に成り立っています。その上で、人類の知に貢献できる目標であればなお良いと思っています。一方でどのような方法で研究するかは対象に依って変わってくると思います。自分の知識や技術でできるものであればよいですが、できない場合は国内外の研究者と相談しながら進めます。また、どう実現するかを考える上で、研究環境や資金は重要なので、研究費を申請したり、企業を立ち上げたりなど、いろいろな方法で研究が進められる環境を整えます。
- 藪浩 准教授、AIMR
Q: 科学技術に携わる先生方が研究に加えて、私たち学生に向けたイベントを通して最先端の研究について聞けるのがとても嬉しいです。
そこで、こういったイベントで分かりやすく相手に自分の言いたいことを伝えるため、先生方が気をつけていることは何でしょうか?
A: サイエンスとは知的好奇心によって動かされています。わからないことをわかりたい、知らないことを知りたいという好奇心が人類の文明を築いたと言っても過言ではありません。ですが、知っていることを丁寧に説明されたり、わからない難しい話を延々とされたとしても時には苦痛で、退屈になってしまう経験をみなさんお持ちだと思います。大学で授業をしていた時、先輩の先生から教えてもらったことですが、みなさんの知っていることをよく理解し、知らないことはわかりやすく、知っていることでも切り口を変えてさらに理解を深めるよう、知っていることと新しい知見のよいブレンドになるよう心がけています。
- 鈴木尚孝 助教、Kavli IPMU
Q: 大学院で学んだことを教えて下さい。
A: 大学院、あるいは研究室では本当に沢山のことを学びましたので、なかなか書ききれないのですが、「学問を楽しむこと」を学ぶことができたのが最も大きな収穫だったと思います。私が所属していた研究室でのモットーは「Enjoy Chemistry」というもので、本当に自由に化学を楽しむことが出来ました。これから大学院で学ぶ学生さんにもぜひ学問を楽しんで頂ければと思っています。
- 長田裕也 特任准教授、ICReDD
その他の質問
Q: 生命の起源とかの研究は、直接は私たちの生活に役に立たないかもしれませんが、そのような研究は研究費をもらうのが大変だったり、世間や他の研究者の人から批判されたりしますか?
A: 私達の生活を支える基盤技術のもとになった研究は、どのようなものであれ最初は基礎的な研究から端を発しているはずで、それは生命の起源研究に関わる様々な基礎研究も例外ではないと私は考えています。研究費の面では確かに生命の起源研究に特化した公募となると数が限られていますが、関連した研究テーマまで広げていくとかなり幅広い学術分野から応募できるというメリットもあるので必ずしも悲観的には考えておりません。また幸いなことにこれまで他の研究者には面白いね、と言われることはあれ批判を受けたことはありません。
- 藤島皓介 准教授、ELSI
Q: 多くの科学者は「科学」か「神」かという選択肢を立てて、より合理的に物事を説明すると思われている「科学」を選びます。それは、人間が理解できていない空白を埋める説明としての神を積極的に排除する考え方からですか、それとも聖書の神すなわち人格と知性を有し、力があり、宇宙を創造した神を否定する考え方からですか。
A: これは人それぞれだと思います。科学者でも敬虔なクリスチャンの方もいらっしゃいますし、歴代の国立天文台の台長だった方の中には僧侶の資格を持ったかたもいます。ので、普遍的なお答えはできませんが、個人的には、日本的な八百万の神、生命だけでなく、物質や目に見えないエネルギーにも神が宿っているのではと考えています。研究を進めていくと、実はどんどんとわからないことの方が増えていきます。自分自身が高校生だったころよりも、断然いまの方がわからないことが多いです。世界で超一流と呼ばれる先生ほど、より謙虚で優しい方が多いと思います。勉強を重ねていくと、より大きな世界が見えてくるのではと思います。神を否定したり排除する考えからサイエンスを探求している人には私は会ったことはありません。
- 鈴木尚孝 助教、Kavli IPMU
Q: それぞれの研究者の方々の、大学受験勉強などのモチベーションを保つ最も良かった方法を教えていただきたいです。
A: 私自身は受験生時代は極めて根暗で、模試で偏差値を上げて上位に名前が載るくらいしか楽しみが無かったのですが、勉強ほどやったらやった分だけ評価される事は他にあまりないので、地道に成績を上げるゲームだと思ってやるくらいしかアドバイスはできないです。
実験でも条件をちょっとずつ変えた地道な実験でしか証明できないテーマもあるので、今になって思えば受験勉強での地道な努力は報われると思いますから、がんばってください。
- 藪浩 准教授、AIMR
Q: 研究者の方々の普段の生活での時間の使い方を教えていただきたいです。
A: 勤務時間は多くの場合基本的に自由なので、いろんな方がいらっしゃいます。きっちり定時に研究室に来られる方もいれば、夜に研究室に来て働く方、逆に夜明け前から働くなど、様々です。
- 谷口雄一 教授、iCeMS
Q: 研究に行き詰まってしまったときのリフレッシュ方法はなんですか。
A: 運動したり、サイクリングをしたり、読書をしたり、街を探索して新しい場所で食事をしたり、友達とビールを飲んだりするのが好きです。他の国に住んでいるのとあまり変わりません。
- Martin Loza 博士課程3年、IFReC
Q: 地球上にいる生き物で1番面白いなって思う生き物は何ですか。
A: 個人的には、100℃くらいの煮えたぎる熱湯に生息する微生物である超好熱古細菌(hyperthermophilic archaea)が一番面白いです。このような極限環境に生命が存在していること自体面白いですが、明確な温度帯は不明ですが、何かしらの熱水に生息する好熱菌(thermophile)が生命の起源であるとされていて、科学的にも非常に興味深い存在です。またこのような超好熱古細菌には、レモンやボトルやバネ型など奇妙な形をしたウイルスが存在していて、私はこのような超好熱古細菌ウイルスの研究をしています。
- 望月智弘 特任助教、ELSI
Q: もし宇宙に行けたら実際に見たり、調べたりしたいことはありますか。
A: 宇宙に行くと、大気のゆらぎがなくなり、星が鮮明に見えるようになります。今まで見えなかった細かいところまで遠くの銀河を観測してみたいです。また、地上からは観測できない、ガンマ線、X線、そして赤外線で細かく全宇宙を観測し、全波長域での宇宙地図を作ってみたいです。きっとまだ見つかっていない、思いもよらぬ宇宙がたくさん広がっていると思います。
- 鈴木尚孝 助教、Kavli IPMU
Q: 将来、人間と宇宙人が共存する可能性はありますか。
A: まずは知性とは何か、知能とは何か、意識とは何かという問題を考える必要があります。まずは意識の起源を考えることですが、脳科学、神経科学に加えて、現在ではAI, ゲノム編集、記憶編集、脳とネットや機械との接続による意識と身体の分離などのテクノロジーの進展により、意識の起源の研究が進んで行こうとしています。ヒト同士の場合は、多人数の脳をネットで接続して思考だけでコミュニケーションする実験は成功していますが、ヒトと他の動物ではできていません。
- 井田茂 教授、ELSI
Q: 地球外に生命が存在するとしたら、その生命は地球でも生きられるのでしょうか。
A: その生命によると思います。地球の生命でも微生物は極めて高い環境適応性を持っています。一方、動物は環境適応性は極めて低いですね。
- 井田茂 教授、ELSI