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2021年2月28日(日)に、地球生命研究所(ELSI)と東京大学 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)、東京大学 ニューロインテリジェンス国際研究機構(IRCN)による第6回合同一般講演会「起源への問い」が開催されました。

宇川彰 WPIプログラム・ディレクターによる、開会の辞のあと、
まず、宇宙生物学・合成生物学(藤島皓介ELSI准教授)、神経科学・神経生理学(宮本浩行IRCN特任准教授)、理論物理(渡利泰山Kavli IPMU准教授)、の専門家による講演が行われました。
藤島皓介准教授は、「 生命とは何か?どこから来たのか?」について、講演をしました。

藤島准教授の講演動画は、以下からご覧になれます。

 

 

 講演の後は科学技術創成研究院 未来の人類研究センターの中島岳志教授をモデレーターに迎えて鼎談(座談会)「起源を問うとはどういうことか」を実施しました。
まずは、中島教授から、基礎科学と人文科学が共通に探究する「イデア」について、アプローチが異なるのではというテーマ設定が行われました。
藤島准教授からは、生命科学を探求する立場からは、生命の起源を問うためのセンスという点で、人文科学から好影響を受けているといった、科学者としての感性についての話題が挙がり、各研究者からも意見がありました、その後、偶然性や、必然性のとらえ方などについて、三人の自然科学者と中島教授との活発な意見交換が行わました。

今回は初めてのオンラインでの開催となりました。ご参加いただきました皆様、ありがとうございました。
 
当日のプログラムにつきましてはこちらをご参照ください。

東京大学 ニューロインテリジェンス国際研究機構(IRCN)での紹介はこちらをご参照ください。 

 

【質問と回答】

◆藤島先生への質問で、講演会中に回答できなかったものについて、こちらで回答しています。

Q1 原始の地球環境を完全に明らかにすることは出来ないので、合成生物学を用いてどのように議論しても、それが本当に現実に起こったかは確かめようがないのではないでしょうか?そのような議論に意味があるのでしょうか?

A1 そうですね、本当に起きたのかどうかを証明することは不可能だと思います。一方で起きやすい現象か、非常に起きにくい現象だったのかは実験的にある程度確認できるはずですので、その積み重ねによってどのような原始環境が有機分子の連続的な進化に取って有利だったのかを絞っていくことができると考えています。

 

Q2 適応度地形の機能の数や配列空間はどのように数えるのですか?

A2 配列空間は様々な配列の距離を空間的に示した"場"のような概念なので、一つ一つの配列は1,2…のように数えることができますが基本的に1つの空間として扱います。縦軸も機能に対する適応度の度合いを表しているので、機能によってその尺度や値は異なります。

 

Q3 最後のほうのスライドにあった「平均衡」とはどのような意味でしょうか?

A3 おそらく「非平衡」の事だと思いますが、これは例えば化学反応や物質の移動がみかけ状は動いていない状態(平衡状態)に達していないという意味で使いました。地球環境には例えば湖や温泉、あるいは深海熱水噴出孔のように水を伴う活発な物質循環によって非平衡系が維持される環境が少なからず存在しますので、こういう場所で化学反応が絶えず進行し、生命の基礎となる化合物を生み出した可能性が議論されています。

 

Q4 適応度を高めるタンパク質の機能とは、具体的にどのようなものでしょうか?

A4 機能は特に制限はないと思います。例えば"何らかの分子に特異的に結合する"という機能であれば、結合力が高いほど適応度が高いといえますし、酵素のように化学反応を触媒する機能であれば、1秒間に処理できる基質の数が多いほど適応度が高いと言えます。

 

Q5 ウィルスは生物ですか?

A5 生命の定義が厳密にできていない以上、ウイルスを生物と捉えるかどうかは未解決な問題と言えますが、条件さえ整えば生命と同じ振る舞いをするのは確かだと思います。例えば細胞内環境においてはウイルスは化学反応を介して自己維持・複製しますし、ダーウィン進化も受けますので、一般的な生物の定義に十分当てはまると思います。

 

Q6 生命の定義は、NASA以外にも有力なものはありますか?

A6 有力かは分かりませんが、これまでに100を超える定義が様々な研究者によって提案され、それだけで一冊の本になりました笑。ぜひBetween Necessity and Probability: Searching for the Definition and Origin of Life (Popa 2004, Springer社) を手に取っていただければと。

 

Q7 アミノ酸を20種類用いない生命はこれまで見つかっていますか。

A7 実際には翻訳とは別の機構で20種類以外のアミノ酸を使ってタンパク質を合成するNon ribosomal Protein Synthesis(NPRS)という機構があり、20種類以外のアミノ酸も利用しています。遺伝子にコードされているタンパク質としては20種類以外にも例外的にセレノシステインやピロリシンと呼ばれるアミノ酸がいくつかの異なる種において利用されていますが、逆に20種類よりも少ないアミノ酸を利用している生物は見つかっていません。今後見つかる可能性はあるかもしれませんね。

 

Q8 ウィルスは生命ではないと聞きますが、どういうことですか?

A8 上の回答でも説明していますが、ウイルスが生命かどうかの議論は現在進行形です。ただし生命の起源研究が進むにつれて、より重要なトピックとなりそうです。例えば細胞外に出た時に、自立して増えれないので声明ではないという論点がありますが、例えば共生菌は共生相手の細胞がなければ自己複製できないわけで、初期の生命の描像がそのような相互共生関係にある群集だった場合、ウイルスもある意味、"生命"として捉えても良いかもしれないわけです。詳しくは同僚の望月智弘さん(tomo.mochiviridae [at] elsi.jp)までコンタクトしていただければと。

 

Q9 ウイルスは生命の発生の中にどのように位置づけられるのでしょうか。

A9 少なくとも生命の最終共通祖先までウイルスの存在が遡れそうだという話を同僚の望月さんから聞いています。生命におけるウイルスの重要な役目として、宿主の遺伝子を外に持ち出したり、外来の別の遺伝子を宿主のゲノムに組み込んだりすることで遺伝子の水平伝搬を活発化させる、またウイルス自身が宿主のゲノムに入り込むことによって、周辺の遺伝子をON/OFFにする調節役となることが知られています。従ってウイルスの起源はまだわかりませんが、少なくともその存在は生命の遺伝情報の多様性、そして遺伝子発現パターンの多様性などに貢献してきたと考えられます。詳しくは同僚の望月智弘さん(tomo.mochiviridae@elsi.jp)までコンタクトしていただければと。

 

Q10 藤島先生へ質問です.先程実験室では生命の誕生が再現できていないとお話しされていましたが,生命誕生の条件さえ揃えば自動的に生命が誕生すると現在お考えでしょうか.

A10 人工細胞のような、既存の生体関連分子を使ったものであれば合成生物学の分野で人間が条件を整えてあげることで、自ら増殖して進化する細胞っぽいものができると思います。人為的に条件を整えてあげるのは恣意的ですが、さまざまな条件下で人工細胞ができてくれば、環境要因に関する重要な知見が蓄積され流と思います。

 

Q11 藤島先生にお伺いしたいです。お話しを聞く中で生命が発生、維持される中でゆらぎが重要なのかと感じました。多くの生命が維持されてゆくなかでゆらぎが失われることはないのでしょうか

A11 どの階層でのゆらぎかわからないのですが、ゆらぐということは絶えず変化しているということなので、それは生命の本質そのものような気がいたします。例えば培養中の微生物群一つとっても、その個体数は実に多いですが、それぞれの細胞は少しずつ異なる遺伝子発現や代謝のプロファイルを示しています。環境の変化が起きた時に、その中のごく一部が速やかに適応するためかはわかりませんが、少なくとも分子レベルでの"ゆらぎ"は現在でも重要な要素かと思います。

 

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質問をお寄せくださった皆様、ありがとうございました!