東京工業大学 地球生命研究所 特任教授の吉田尚弘名誉教授が2020年度日本地球惑星科学連合学術賞(三宅賞)を受賞しました。三宅賞は、1954年のビキニ事件をきっかけに、海域や大気の放射能汚染を調査し危険性を訴えた三宅泰雄博士(1908~1990年)が設立した「地球化学研究協会」が1972年に創設したものです。環境だけでなく、地学や海洋、宇宙など地球化学分野の研究で優れた研究者が毎年表彰されてきました。2018年からは公益社団法人日本地球惑星科学連合(JpGU)に移され、JpGUの年齢制限のない唯一の学術賞として、地球惑星科学に関わる物質科学の分野において、新しい発想によって優れた研究成果を挙げ、国際的に高い評価を受けている個人を隔年で原則1件、表彰しています。

 

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JpGUは1990年に本学で開催された第1回地球惑星科学関連学会合同大会の事務局を母体として、2005年に設立されました。地球惑星科学を構成するすべての分野及び関連分野をカバーする研究者・技術者・教育関係者・科学コミュニケータ、学生や当該分野に関心を持つ一般市民の方々からなる9000人強の個人会員、地球惑星科学関連の50ほどの学協会、賛助会員から構成される、この分野最大の学術団体です。JpGUは日本の代表として米国地球物理連合(AGU)、欧州地球科学連合(EGU)、アジアオセアニア地球科学会(AOGS)など世界の関連する連合と国際連携をしています。その一環として2020年5月に幕張(千葉市)でJpGU-AGU合同大会が開催される予定でしたが、新型コロナウイルスのパンデミックの状況を受けて、2020年7月に延期してリモート会議として開催される予定です。

 

吉田尚弘名誉教授のコメント

これまで様々な同位体分子の自然存在度を正確に計測する方法を開発し、その分子の起源を推定することで、地球環境、地球と生命の起源と進化の理解を深めてきたことが評価されて大変名誉な賞を受賞することになりました。三宅泰雄博士(1908~1990年)は、海洋における環境放射能の分野の世界的な創始者のお一人で、1954年の核実験による第五福竜丸の放射能汚染を発端にビキニ周辺海域・大気の放射能汚染を調査、研究し、高い評価を得た著名な研究者です。このように偉大な研究者の冠のついた賞を受けることは大変な栄誉です。今年は第30回、そして、JpGU-AGU合同大会という記念すべき学会での受賞の予定でした。コロナ禍のなか、授賞式の詳細はまだ明らかではありませんが、時期や場所、方式など、安全な状況の中で受けるものですので、どのような形態となっても大変な栄誉に変わりはありません。

もちろん、与えられましたこの大きな栄誉は私一人でのみなせるものでなく、これまでに支えてくださいました研究室の教員・スタッフ、学生の皆さん、ならびに、国内外の多数の共同研究者、そして本学の教職員の皆様のご支援があればこそです。ここに記しまして感謝申し上げます。

 

受賞理由と業績内容

JpGUが発表した受賞理由と業績内容は次の通りです。

  • 受賞理由

同位体置換分子種計測法の革新による大気化学的および生物地球化学的物質循環の研究の展開

  • 業績内容

全ての元素は同位体の集合体であるように、全ての分子は同位体置換分子種(同位体分子と略称)の集合体であるが、ほとんどの同位体分子はまだ正確に測ることができない。吉田博士の主な研究業績は、様々な同位体分子の自然存在度を正確に計測する方法を開発し、その分子の起源を推定することで、地球環境、地球と生命の起源と進化の理解を深めてきたことである。無機分子の例としては一酸化二窒素の同位体比、同位体分子比を世界に先駆けて計測し、地球温暖化とオゾン層破壊に大きく関わること、その起源と将来予測などを明らかにした。低分子有機化合物の例としては炭化水素や低分子アミノ酸などの計測法を開発し、生物の代謝、地層中の生物・非生物分解過程、無機合成などバイオマーカーの起源とプロセスについて重要な発見をしている。また、計測法の開発に当たって新規世界標準を作成し、国際校正を主導するとともに、計測法の適用に当たっては実環境の観測や模擬実験などの国際共同研究をリードしている。これらの一連の研究は地球環境化学の分野において革新的な特筆すべき優れた研究である。

 


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