ELSIを含む複数の研究機関で構成された国際研究チームは、23億年前の地球大酸素化イベントの前に酸素の「whiff(気配)」があったとする地球化学的証拠が、その数億年後に起きた出来事によってもたらされたものである可能性を示唆し、その成果を「Science Advances」に発表しました。

 

 

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図1. 数十億年前の地球の姿を描いたイラスト。地球の大酸化イベント(Great Oxidation Event: GOE)以前の酸素の「whiff(気配)」を調べるために、後期始生代(GOEより少し前)に堆積した岩石標本を用いた。Credit: Ozark Museum of Natural History

 

 

何十年もの間、科学者たちは、測定可能なレベルの酸素がいつ頃から地球の大気中に出現したかを議論してきました。現在のところ、23億年以上前に起きた地球大酸化イベント(Great Oxidation Event: GOE)が、酸素濃度の上昇し始め、複雑な細胞・動物・そして人類の誕生のきっかけとなったと考えられています。しかし、最近の酸素に関する地球化学的研究により、GEOが起こる以前にも「whiff(気配)」という一過性の酸素の出現があったことが示唆されました。

 

2004年、NASAアストロバイオロジー掘削プログラムによって、西オーストラリア州で25億年前のマウント・マクレー頁岩が採取されました。その岩石試料をもとに、2007年、酸素の「whiffを示す証拠をみつけたという2本の論文が発表されました。モリブデンと硫黄の特徴的な痕跡に基づいたこれらの論文は広く受け入れられ、過去14年間にわたる他の研究論文の基礎となりました。

 

そして2009年に、カリフォルニア工科大学が主導し、東京工業大学地球生命研究所(ELSI)を含めた研究機関が参加した国際的研究チームは、2007年に発表された論文の追加分析の取り組みを開始しました。2007年の研究では、採取したマウント・マクレー頁岩の粉末サンプルを用いたバルク分析技術が使用されていましたが、今回の研究チームは、粉末の化学分析ではなく、頁岩標本を一連の高解像度技術で検証しました。

 

まず、2004年に採取されたボーリングコアの画像をフラットベッド光学スキャナーで記録し、その画像をもとに標本から薄く採取した試料に、放射光蛍光X線分析などの追加分析を行いました。その結果、モリブデンと硫黄の特徴的な痕跡が示すイベントの時期・標本の堆積構造・地球化学的な洞察を得ることができました。

 

 

また、電子顕微鏡による観察から、マウント・マクレー頁岩は火山ガラスの破片(図2左の写真の薄い灰色部分)からできていることがわかりました。これにより、このガラス破片に検出されたモリブデンの源は、火山の“流体の流れ”によって蓄積したものである可能性があることがわかりました。「whiff」間隔中にモリブデンが蓄積された可能性を示すことがわかりました。スキャンした画像(図2右)の上部にある光が散乱したような円盤状の節と丸い小節は、初期に形成されたものであり、平行に並んでいる小さな結晶は、後の“流体の流れ”によって蓄積されたものであることを示しています。

 

 

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図2. マウント・マクレー頁岩の電子顕微鏡写真(左)とスキャン画像(右)。Credit: Science Advances, Slotznick et al.

 

 

本研究により、マウント・マクレー頁岩は有機炭素と火山灰から形成されたことが明らかになりました。また、モリブデンは酸素の「whiff期間と考えられている時期に、火山“流体の流れ”によって濃縮され、微量酸素のシグナルの源が、堆積物が海底に堆積した後の一連の変化によるものである可能性が高いことを突き止めました。一連の地球・化学・物理的変化の間に、割れ目ができていくつかの異なる流体が酸化のシグナルを運んだと研究チームは考えています。

 

モリブデンの存在は、陸上の岩石の酸素による風化や海中の濃縮によるものでなければ、初期の大気中の酸素の証拠とはなりません。2007年の研究で用いられた方法とは全く異なる手法を採用したことで、GOE以前に大気中の酸素が存在していたというこれまでの研究結果を覆し、酸素の「whiffについて異なる結論を導いた本研究は、同様のバルク技術を用いた他の研究に疑問を投げかけました。

 

さらに、GOE前の大気中酸素濃度レベルは非常に低く、酸素濃度急変前のおよそ15千万年の期間では“無視”出来るほどの“極僅か“であったことも確認しました。

 

今回の発表は、酸素を発生させる光合成が進化した時期はGOEの直前であり、25億年前のシアノバクテリア存在説にも疑問を投げかけました。

 

 

掲載誌  Science Advances 
論文タイトル  Reexamination of 2.5-Ga “whiff” of oxygen interval points to anoxic ocean before GOE 
著者  Sarah P. Slotznick1*, Jena E. Johnson2, Birger Rasmussen3,4, Timothy D. Raub5,6, Samuel M. Webb7, Jian-Wei Zi4, Joseph L. Kirschvink8,9, Woodward W. Fischer8 
所属  1. Department of Earth Sciences, Dartmouth College, Hanover, NH 03755, USA.
2. Department of Earth and Environmental Sciences, University of Michigan, Ann Arbor, MI 48103, USA.
3. School of Earth Sciences, The University of Western Australia, Perth, WA 6009, Australia.
4. State Key Laboratory of Geological Processes and Mineral Resources, China University of Geosciences, Wuhan, Hubei 430074, China.
5. School of Earth and Environmental Sciences, University of St Andrews, St Andrews, Fife, KY16 9AL, Scotland, UK.
6. Geoheritage Research Institute, Arlington Heights, IL 60005, USA.
7. Stanford Synchrotron Radiation Lightsource, Stanford University, Menlo Park, CA 94025, USA.
8. Division of Geological and Planetary Sciences, California Institute of Technology, Pasadena, CA 91125, USA.
9. Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology, Tokyo 152-8550, Japan. 
DOI  10.1126/sciadv.abj7190
出版日  202215