月は地球に生命が存在する上で重要な役割を担っています。ELSIの研究者らは、月の形成条件の解明につながる重要な発見をし、Nature Communications誌でその成果を発表しました。この研究成果は、地球以外の惑星が地球にとっての月のような大きな衛星を持つための条件を規定し、生命が存在する惑星を探索するための重要な手掛かりにつながります。

 

 

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図1. 約45億年前の原始地球に火星サイズの大きな衝突体が衝突し、地球の周囲に部分的に蒸発した円盤が形成され、それが月になったと考えられています。Credit: NASA/JPL-Caltech

 

 

 

月は、地球の1日の長さと海の潮の満ち引きをコントロールし、地球で暮らす生物の生命活動に大きな影響を与えています。また、地球の自転軸を安定させることで、気候の安定化にも貢献し、生命の誕生と進化に理想的な環境を提供しています。このように、月が地球の生命にとって非常に重要な役割を担っていることから、生命が存在する惑星を探すときには月のような大きな衛星を持つかどうかを手掛かりにすることが有用であると科学者たちは考えています。

 

太陽系では多くの惑星は衛星を持っていますが、惑星に対する衛星のサイズは、地球に対する月ほどには大きくありません。月の半径は地球の半径の4分の1以上あり、これは例外的な大きさです。

 

月は、約45億年前に、原始地球に火星サイズの大きな天体が衝突することで形成されたと考えられています。衝突の衝撃で地球の一部と衝突天体が融解し、地球の周りに融解した岩石と部分的に蒸発した岩石が混合した円盤が形成され、この円盤から最終的に月が形成されたというメカニズムが提唱されています。

 

ロチェスター大学の中島美紀助教、アリゾナ大学のエリック・アスフォーグ教授、および東京工業大学地球生命研究所(ELSI)の玄田英典准教授と井田茂教授からなる研究チームは、月のような大きな衛星が形成される条件を調べるために、質量の異なる地球に似た岩石惑星と氷の惑星をいくつか設定し、コンピュータ上で衝突シミュレーションを行いました。

 

シミュレーションの結果、地球の6倍以上の質量を持つ岩石惑星と、地球の1倍以上の質量を持つ氷の惑星は、衝突時に完全に蒸発した円盤を形成してしまうため、大きな衛星をつくることができないことがわかりました。

 

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図2. 太陽系の惑星とその衛星。大きさが地球より60%以上大きい、または質量が地球の6倍以上の岩石惑星(左上の惑星)、および地球より30%以上大きい、または地球1個分の質量の氷の惑星(右上2つの惑星)では、巨大衝突による大きな衛星の形成は不可能であることが明らかになりました。Credit: Nakajima et al., Nature Communications

 

 

一般的に、巨大な惑星同士の衝突は、小さな惑星同士の衝突よりもエネルギーが高いため、衝突によって完全に蒸発した円盤が形成されます。時間とともに冷却された円盤には、衛星の元となる液体の小衛星が出現しますが、この小衛星は蒸発した気体による強いガス抵抗を受けて、あっという間に惑星に落下してしまいます。

 

このような衝突時に完全に蒸発した円盤が生じる惑星では、月のような大きな衛星を形成することはできないと研究チームは結論づけました。大きな衛星を持つためには、惑星の質量は、本研究で設定された閾値よりもさらに小さく設定される必要があります。

 

これまでのところ、太陽系外惑星の探査は、地球の質量の6倍以上の大きさの惑星が対象とされてきましたが、より小さな惑星に注目することを研究チームは提案します。なぜなら、小さな惑星の方が、大きな衛星を持つ候補として有力だからです。本研究により、何千もの太陽系外惑星を探索する際の条件を狭めることができるようになりました。現在のところ、太陽系外衛星は発見されていませんが、研究チームは、いたるところにあるだろうと期待しています。

 

 

 

掲載誌 Nature Communications 
論文タイトル  Large planets may not form fractionally large moons 
著者  Miki Nakajima1,2*, Hidenori Genda3, Erik Asphaug4 & Shigeru Ida3 
所属  1. Department of Earth and Environmental Sciences, University of Rochester, P.O. Box 270221, Rochester, NY 14627, USA.
2. Department of Physics and Astronomy, University of Rochester, P.O. Box 270171, Rochester, NY 14627, USA.
3. Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology, 2-12-1, Ookayama, Meguro-ku, Tokyo 152-8550, Japan.
4. University of Arizona, Lunar and Planetary Laboratory, 1629 E. University Blvd, Tucson, AZ 85721, USA. 
DOI  10.1038/s41467-022-28063-8
出版日  202221