研究者らは、遺伝に関わる何百万もの高分子有機化合物の分子構造を計算し、生物の在り方を記した情報をなぜ記号化するのかという背景を説明しました。そして、新薬開発に向けた大きな可能性と、地球外生物学の研究への指針を与えました。

 

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研究者らは、生物学的な情報を記録する方法は何百通りもあることを発見しました。しかし、どうしてそんな風になっているのでしょうか? Credit: Used under CC0 1.0 license

 

核酸の最初の発見は19世紀でした。しかし、その組成や生物学的役割あるいは機能を科学者らが理解できるようになったのは20世紀になってからでした。1953年にワトソンとクリックが発見したDNAの二重らせん構造は、生物や進化の機能を簡単に説明してみせました。地球におけるすべての生物は、その情報をDNAに記録しています。高分子化合物からなるDNAはお互いに抱き合うような2本のらせん状の形状を作っています。そして、1本のらせん構造は、もう片方のらせん構造を補うようになっています。これは、単純なバクテリアから大型生物のトラまで、私たちの周りで見ることのできる生物の形態の多様性を説明する根拠であり、核酸に保存された情報は、生物の「記憶」となります。しかし、DNAやRNAだけが情報を保存する唯一の方法なのでしょうか?あるいは、何百万年という進化の複雑な過程の結果発見された最適な方法がDNAやRNAなのでしょうか?

 

ELSIのJim Cleaves研究員は次のように話しています。「生物学では2種類の核酸があり、核酸が結合した核酸に似た物質は、おそらく、20~30種類に及びます。私たちが知りたかったのは、まだ発見されていないのは、あと1つなのか、それとも、まだ何百もあるのかということでした。その答えは、私たちが思うよりもっとはるかに多く存在するだろうということです。」

 

生物の核酸の重要性は、化学者らが長年行ってきた薬剤標的の研究にありました。生物やウィルスが子孫に情報伝達する能力が、もし薬剤によって阻害されると、生物やウィルスは死に至ります。つまり、生物やウィルスがもつ遺伝機能を破壊してしまえば、それらを死滅させてしまえるといことです。幸いなことに、核酸を複製する細胞機構は、生物ごとに少しずつ異なっており、ウィルスの場合は大きな違いがあります。

 

人間のように大量のゲノム情報をもつ生物は遺伝情報の複製を十分正確に行う必要があります。したがって核酸を複製する際には、間違った材料物質を使わないようにきちんと物質を選択しなければなりません。逆に、ウィルスの場合、ゲノム情報は一般的に非常に少ないので、自己複製した分子がもとの分子とは若干異なっていたとしても、あまり大きな問題にはなりません。このことは、ヌクレオチドと呼ばれるDNAやRNAの最小単位である化学物質は、ある生物における生化学反応を別の生物よりも悪化させることがあるということです。今日、使用されている重要な抗ウィルス薬のほとんどは、ヌクレオチド(あるいはヌクレオチドからリン酸基を除いてできるヌクレオシド)の類似物質であり、HIV、ヘルペス、ウィルス性肝炎に使用されるものも同様です。重要ながん治療薬の多くも、ヌクレオチドやヌクレオシド類似物質であり、時としてがん細胞は突然変異を起こし、核酸の複製方法が変わることがあります。

 

どの分子が先にできたのか、RNAやDNAの何が特別なのかという基本的な疑問を、実験室で物理的に生成し一度に調べるということは困難です。しかし、そうした生成実験をする前にコンピューターで分子を計算すれば、化学者が必要とする時間を節約することが可能かもしれません。論文の共著者であるMarkus Meringer博士は次のように述べています。「我々は、計算結果に驚きました。梯子状につながる百万以上の核酸を事前に推定することは極めて難しかったはずです。しかし計算機の発展により、それらを推定することができたので、これからはそのいくつかに関して実験室で分析をはじめることができます。」

 

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研究者らは、生物学的な情報を記録する方法は何百通りもあることを発見しました。しかし、どうしてそんな風になっているのでしょうか? Credit: Vitaliy Smolygin, CC0 1.0 license

 

掲載誌  Journal of Chemical Information and Modeling
論文タイトル  One Among Millions: The Chemical Space of Nucleic Acid-Like Molecules
著者  Henderson James Cleaves, II*1,2,3, Christopher Butch1,3,4, Pieter Buys Burger4, Jay Goodwin4, and Markus Meringer5 
所属
  1. Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology, 2-12-IE-1 Ookayama, Meguro-ku, Tokyo 152-8551, Japan
  2. Institute for Advanced Study, Princeton, New Jersey 08540, United States
  3. Blue Marble Space Institute for Science, 1515 Gallatin St. NW, Washington, DC 20011, United States
  4. Department of Chemistry, Emory University, 1515 Dickey Dr., Atlanta, Georgia 30322, United States
  5. German Aerospace Center (DLR), Earth Observation Center (EOC), Münchner Straße 20, 82234 Oberpfaffenhofen-Wessling, Germany
DOI  10.1021/acs.jcim.9b00632
出版日   2019年9月9日