マグマオーシャンが原始地球を覆った状態を想定し、巨大衝突仮説に基づく月形成シミュレーションをおこない、原始地球のマグマオーシャンから月が形成された可能性を示した。


 

アニメーション:原始地球に小天体がぶつかり、表面物質が飛び散る様子。クレジット:細野七月、中山弘敬、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

 

地球の衛星である月の起源は分かっていない。これまで様々な月形成シナリオが提案されてきたが、その中でも特に有力視されているのは巨大衝突説である。このシナリオでは、月の誕生は、原始地球に火星サイズ(地球質量の1/10程度)の天体が衝突したからだと説明している。もし、巨大衝突によって地球から分離した物質が月を形成したとすると、月と地球の元素同位体比が非常によく似ているという事実に整合的である。しかし、従来の巨大衝突シミュレーションでは、原始地球に衝突した火星サイズの天体が月の主要な起源物質となり、月と地球の元素同位体比の類似性をうまく説明することができない。これは同位体比問題と呼ばれる、よく知られた問題である。

 

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図1 巨大衝突の数値計算結果。赤が原始地球のマグマオーシャン由来の成分、オレンジがマグマオーシャンの下の固体岩石由来の成分、青は衝突した天体由来の成分。グレーのものは原始地球及び衝突した天体の金属のコアの成分である。Credit: Hosono et al.

 

今回我々は、原始地球がマグマオーシャンと呼ばれる液体状の物質に表面を覆われた状態を想定し、世界で初めてコンピュータシミュレーションに組み込んだ(図1、アニメーション)。加えて、マグマオーシャン、マントル、コアの三層からなる原始地球をより正確にシミュレーションする DISPH法、超並列計算用粒子系シミュレーションフレームワークFDPSを用いた。その結果、マグマオーシャン存在下で巨大衝突が起きると、マグマオーシャン物質が効率的に地球から飛び出し、月が形成され得ることを明らかにした(図2、3)。

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図2 月の材料になる物質の質量及び起源の時間進化。色は成分に対応していて図1と同じ。Credit: Hosono et al.

 

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図3 様々な衝突角度及び衝突速度の計算を行い、その結果から得られた月形成円盤の質量及び原始地球からの物質の割合を示したもの。赤はマグマオーシャンが存在する場合の計算結果で、青がマグマオーシャンの存在しない場合の計算結果。マグマオーシャンが存在する場合、どの場合でも円盤質量のおよそ70%以上が原始地球起源であるが、マグマオーシャンが存在しない場合は、円盤の質量が重くなるにつれ原始地球起源の物質の割合が低下する。Credit: Hosono et al.

 

マグマオーシャンの存在は、巨大衝突シナリオにおける同位体比問題を解決に導く可能性のある重要な要素といえるだろう。

 

掲載誌 Nature Geoscience
論文タイトル Terrestrial magma ocean origin of the Moon
著者 Natsuki Hosono1,2, Shun-ichiro Karato3, Junichiro Makino4,2 & Takayuki R. Saitoh4,5
所属 1 Yokohama Institute for Earth Sciences, Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology, Yokohama, Kanagawa, Japan.
2 RIKEN Center for Computational Science, Kobe, Hyogo, Japan.
3 Department of Geology and Geophysics, Yale University, New Haven, CT, USA.
4 Department of Planetology, Kobe University, Kobe, Hyogo, Japan.
5 Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology, Meguro-ku, Tokyo, Japan.
DOI 10.1038/s41561-019-0354-2
出版日 2019年4月29日