[プレスリリース]

チャールズ・ダーウィンは、1859年発行の画期的な著書『種の起源』の巻末で、「この惑星が万有引力の法則に従って円運動する間に、はじめはごく単純だったものから、非常に美しく非常にすばらしい種が限りなく進化してきており、さらに進化し続けている。」と記述しています。以来、科学者は、地球に多様な生命種が存在することから、生物が際限のなく進化を続け、新たなものを生み出し続けていると確信してきました。しかし、進化のシステムを人工的にシミュレーションしようとすると、そのシステムで生成される複雑さや新規性は限界に達してしまう傾向にあります。これは「オープンエンド(際限のない状況)問題」といわれています。この難題のため、これまで科学者は生態系に見られる豊かで多様性のある人工システムを簡単には作成できなかったのです。

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図1.このイメージは、生成された画像の1つを拡大した画像です。ここで見られる鳥のようなパターンは、批評家の「目」、すなわち、VGG19というネットワークにより生成されています。VGG19は競合させるネットワークの出力の比較に使用され、それ自体、異なる自然なイメージを分類するよう訓練するモデルになります。(Credit:Nicholas Guttenberg)

 

東京工業大学地球生命研究所のニコラス・グッテンバーグ研究員、ナサニエル・ヴァーゴ助教、英国サリー大学 (CRESS)Centre for Evaluation of Complexity Across the Nexus (CECAN)のアレクサンドラ・ペン研究員らに率いられる研究チームによる新たな研究が、科学誌「Artificial Life」に掲載されました。この研究では、生物進化において際限なく進化を続ける状況と最新の機械学習の研究とのつながりを調べました。人工生命と機械学習の概念をつなぐことで、ニューラルネットワークを人工生命の概念と接続し、際限のない新たな形を創造できると期待されています。

生物系の進化において、際限のない進化の状況が達成される原因の1つは、生き抜くための「せめぎあい」です。例えば、足の速いキツネは足の速いウサギを捕獲するために進化しますが、逆にウサギもまた、足の速いキツネから逃れるためにさらに足が速くなるよう進化します。この概念は、ネットワークを互いに競争させ、敵対的生成ネットワーク (generative adversarial networks:GANs)を利用したリアルな画像の生成や、囲碁のようなゲームにおける戦略の発見に酷似しています。後者ではすでに人間のトッププレイヤーを簡単に打ち負かすことが可能です。進化においては、せめぎあいの度合いは突然変異のような要因で制限されます。しかしニューラルネットワークの規模が拡大するにつれ、そのような制限は存在せず、ネットワークはデータがアルゴリズムに追加される限り向上し続ける、ということが可能になるのです。

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動画 1. 偽造ゲームで2つのニューラルネットワークエンジンを使用し、一方のネットワークは模倣しづらいオリジナルを作成するアーティスト、もう一方のネットワークは模倣品を作成する偽造者として競わせると、結果としてアーティストはますます複雑なスタイルを発明せざるを得なくなります。このタイプのゲームは、進化系における獲物と捕食者との共進化的なせめぎあいでも見られ、生物系が急速に複雑さを増していく1つの方法となっています。(Credit:Nicholas Guttenberg)

 

グッテンバーグ研究員は大学院在学中から、進化における際限なさ、すなわちオープンエンドの可能性について研究を続け、ここ数年は人工知能とニューラルネットワークに研究の中心を移してきました。これはちょうどGANsのような方法が発明された時期にあたり、これまで彼が研究してきたオープンエンドな共進化型のシステムと類似していることに気づきました。コミュニティ間の障壁を崩し、自身にとって重要で興味深い問題を進展し得る機会が、突如として現れたのです。

この研究チームの研究者らによれば、進化における際限ないオープンエンドの可能性の実証にスケーリング解析を利用できるものの、何か、例えば猫の絵が得意で無限に生成し続けるものと、猫の絵に飽きて、代わりに音楽を生成しようと決定するものとには、違いがあります。人工的な進化システムにおいては、このように大きな質的飛躍は、プログラマーが予測しなければなりません。そして音楽が「生命体」にとって可能なものであり、ミュージシャンになるという決定が可能な人工的世界を生成する必要があります。ニューラルネットワークのようなシステムでは、抽象化の概念はさらに簡単に捉えることができるため、相互作用するエージェントの集団が互いの間で解決すべき問題を新たに作り出す方法を考え始める可能性もあるのです。

このような研究から、いくつかの深く興味深い疑問が生まれてきます。例えば、抽象化により、コンピュータシステムの中で質的に異なる新規性への意欲が起きた場合、何が人工システムの作り出す新規性の「意味」を決定するのでしょうか。機械学習では、コンピュータエージェントの相互作用により人工言語を生成していく様子がしばしば見られます。このような言語には、エージェントが協調して解決するタスクが教え込まれています。エージェントが本当にシステム内の相互作用に依存し、出発物質として何が与えられようとも際限ないオープンエンドな進化へと向かうのだとすると、生成されたものを認識あるいは解釈することは可能なのでしょうか。あるいは、その豊かさを理解するために、誰かがシステムの中に住み着かなければならないのでしょうか。

この研究では最終的に、新たなものを自発的かつ連続的に創造し発見する人工システムを作り上げることが可能であることが示唆されています。このシステムにより、人工知能が目覚ましい発展を遂げ、生命の起源や進化の理解の助けとなる可能性があるのです。

 

Reference:

Nicholas Guttenberg1,2*, Nathaniel Virgo1, Alexandra Penn3, On the potential for open-endedness in neural, Artificial Life, DOI https://doi.org/10.1162/artl_a_00286

1. Earth-life Science Institute, Tokyo, Japan
2. Araya Inc, Tokyo, Japan
3. CECAN (The Centre for Evaluation of Complexity Across the Nexus) and CRESS (Centre for Research in Social Simulation), University of Surrey UK

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Nicholas Guttenberg
Research Scientist
Earth-Life Science Institute (ELSI),
Tokyo Institute of Technology, Japan
Email: ngutten@elsi.jp

(この記者発表は 東京工業大学の公式ホームページにも掲載されています。