硫化鉱物の触媒特性を介して進行する化学進化モデル

 

地球上における生命の起源は、一般的に代謝および複製に必要なビルディングブロック分子の非生物的な合成から始まったと考えられている。その際鍵となるのが、地球上に豊富に存在する硫化鉱物の触媒作用である。実際に、Wächtershäuserが提唱した「鉄 - 硫黄の世界」、Russell と Hallが提唱した「鉄 - 硫黄膜モデル」において、硫化鉱物の触媒特性の重要性が論じられてきた。一方でごく最近では、中村と山本が硫化鉱物の電気触媒特性に着目することで「電気化学による生命の起源モデル」の提唱を行っている。しかし、いずれの生命誕生シナリオにおいても、これまで調査の対象となった硫化鉱物は数種類に限定されており、多種多様な硫化鉱物が持つ機能の多くは未解明のままであった。

地球生命研究所のYamei Li研究員、中村龍平教授、北台紀夫研究員らは、鉱物データベースをもとに300種以上の硫化鉱物が持つ化学物性について網羅的な解析を行い、その多様性についての調査を行った。その結果、触媒特性に大きな影響を与える結晶構造や酸化価数に大きな変動があることを突き止めた。また、Li研究員らは、「電気化学による生命の起源モデル」に着目することで、硫化鉱物の触媒特性を機械学習アプローチを用いて予測することが可能であることを提唱した。

以上の成果は、膨大な種類の硫化鉱物材料から適切な触媒を見つけ出す新たな方法論を提供するものである。同時に研究グループは、pHや温度、そして塩濃度など、無数の化学パラメーターの組み合わせで決まる化学反応場を取り扱う生命の起源の研究において、①鉱物データベースからのデータマイニング、②機械学習を用いた触媒予測、そして③反応速度・選択性の予測を可能にする電子移動論の開拓、これら3つの異なる分野の融合が、今後注力すべき学際領域であると述べている。

掲載誌 Life
論文タイトル Chemical Diversity of Metal Sulfide Minerals and Its Implications for the Origin of Life
著者 Yamei LI 1*, Norio Kitadai1, Ryuhei Nakamura 1,2*
所属 1.Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology
2. Biofunctional Catalyst Research Team, RIKEN Center for Sustainable Resource Science
DOI 10.3390/life8040046
出版日 2018年10月10日