SUMMARY
エンケラドスは内部海を持つ可能性が高い衛星である。
3種類の塩生植物がエンケラドスの海をモデルにした水環境で栽培された。
すべての種の苗は、塩水で育つことができた。

 

エンケラドスタンクと純水タンクの植物。Credit: Daigo Shoji


エンケラドスは、土星を周回する衛星である。探査機カッシーニの観測により、エンケラドスの亀裂から、ナトリウム塩やナノシリカを含む水蒸気が、宇宙空間に向かって吹き出していることが明らかになっており、内部海を持つ可能性が極めて高いことが暗示されている。
宇宙工学の分野では、月や火星の土壌で植物を育てることができるかどうかの実験が行われている。将来の宇宙ミッションにおける重要な問題は、人類が月や火星に長期滞在する際に、いかに食料を確保するかである。月や火星の土壌で植物を育てることができれば、それは一つの解決策かもしれない。月や火星の模擬土壌での栽培実験は行われているが、エンケラドスの水で植物を育てるという研究は、今のところ見当たらない。エンケラドスは、月や火星に比べると、人間が長期間居住するには不便な環境だからかもしれない。


栽培に使用した食塩(塩化ナトリウム)と重曹(炭酸水素ナトリウム)。Credit: Daigo Shoji 


しかし、エンケラドスの水は、地球上の植物栽培に参考になる可能性がある。地球では、土壌の塩分が増加すると普通の植物は生育できないため、土壌中の塩は農業と生態系にとって深刻な問題である。この問題を解決するために、耐塩性植物の栽培が提案されている。塩分が高いにも関わらず、いくつかの種の植物は成長することが可能であり、耐塩性植物そのものは収穫することもできる。エンケラドスの水にはNaClやNaHCO3などのナトリウム塩が含まれており、エンケラドスの水環境下で耐塩性植物の特性を知ることができれば、陸上環境における栽培を比較する情報を得ることができる。これは、農業だけでなく植物学にとっても重要かもしれない。


塩水の水槽に植えた塩生植物の苗。Credit: Daigo Shoji

 

 約一月半塩水で育てた植物。チャードは茎の根元が変色したため、栽培期間中の二週間だけ真水に移した。Credit: Daigo Shoji


こうしたことから、第一段階のテストとして、水耕栽培により、エンケラドスの海の化学組成をモデルとして3種の耐塩性植物(アイスプラント、スイスチャード、アッケシソウ)を育てた。純粋で発芽させた芽をエンケラドスの海の塩分と同様の3.3%の塩化ナトリウムと4%の炭酸水素ナトリウムの塩水に移動させた場合、どの植物も塩水で成長することが明らかになった。しかし、アイスプラントの成長率は、純粋で栽培した植物に比べて低く抑えられていた。塩水に移すとスイスチャード の茎の根元は茶色く変色した。今回のテストでは、大雑把な条件(たとえば、エンケラドスの海(pH8.5-10.5)よりも低いpH(~8)の条件や純粋による発芽)で行われた。今後は、異なる塩分濃度や化学組成での栽培を試す必要がある。

エンケラドスファームの最新情報はこちら:https://twitter.com/Enceladusfarm
参照:Shoji, Daigo (2020) "Enceladus Farm: Can plants grow with Enceladus' water?" https://arxiv.org/abs/2003.14131


著者:氷衛星や火星の内部、表層のダイナミクスを研究している惑星科学者。ELSIならびにJAXA所属。