Deep-Earth mineral named in honor of ELSI Director Kei Hirose

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ELSIの廣瀬 敬所長は、地球の下部マントル最下部の構成鉱物を特定するという先駆的研究で高く評価されています。彼の功績をたたえ、新しく自然界で発見された下部マントル鉱物がヒロセアイト(hiroseite)と名付けられました。(Nerissa Escanlar)

 

廣瀬 敬は、高圧下にある地球深部の解明を専門とする地球科学者です。地球の巨大なマントルの最下部は、超高温の鉄のコアの直上にあたる場所です。マントルの底から数百kmの領域に何があり、何が起こっているのかを理解するという積年の課題を彼が研究し始めたのは、20年前のことです。 

 

地球の下部マントルは地球の体積の6割を占めています。下部マントルの岩石は3種類の鉱物を含んでいるとされますが、そのうち8割がブリッジマナイトと呼ばれるものです。その主成分はMgSiO3であり「ペロブスカイト」構造と呼ばれるパッキングの良い(原子が密につまった)結晶構造を持っています。

 

ブリッジマナイトが1974年に実験室で初めて合成されて以来、この考えは十分に定着していました。しかし、地表から約2,6002,900km深部のD"層と呼ばれる領域を地震学者が調べてみると、ブリッジマナイトでは説明できない観測データが得られました。そこで、マントルの最下部は、ブリッジマナイト以外の鉱物で出来ているのではないかという考えが出されました。しかし、MgSiO3のようなABX3という組成を持つ物質の場合、「ペロブスカイト」構造よりもさらにパッキングの良い結晶構造は知られていなかったため、マントルの底までブリッジマナイトから成っているという考えが支配的でした。

 

廣瀬は、2012年から東京工業大学地球生命研究所(ELSI)の所長も務めていますが、マントル最下部の超高圧高温状態を実験室で作り出す技術を2002年の時点で開発し、この問題に挑みました。そして、ブリッジマナイトに120万気圧を超える圧力がかかると、結晶構造が変わることを発見し、変化後の結晶に「ポストペロブスカイト」と名付けました。その構造はペロブスカイトとは大きく異なる、雲母のような層状の構造でした。

 

この発見により、D"層を伝わる地震波の特徴が説明できるようになり、それまでブラックボックスのように扱われてきた、マントル最下部の実態の解明が大きく進みました。また、コアからの熱がどのようにマントルに伝わり、そして最終的にどのように地表へもたらされるか、また、地表の火山活動がマントルの底とどう関連しているかなどの理解が進みました。

 

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随州隕石は1986年に落下し、その大部分は中国科学院に保管されています。しかし、一部のサンプルは外部の博物館や研究機関に引き渡
され、そのうちの一つの研究が新たな鉱物であるヒロセアイトの発見に繋がりました。(Meteorites Australia)

 

 

 

2019年の夏、イタリアの隕石学者であるフィレンツェ大学のルカ・ビンディ(Luca Bindi)教授は、中国中部の湖北省随州市郊外に1986年に落下した隕石を研究していました。

 

隕石には、衝突時に形成される編み目のような脈(衝撃脈)がしばしば見られます。隕石衝突時には、一瞬ですが高い圧力と温度がかかるので、衝撃脈中にはマントル深部の鉱物が見られることがあります。ビンディは、以前にも、実験室でしか得ることができなかったマントル深部の鉱物を隕石中からいくつか発見していました。そして今回、「ペロブスカイト」構造を持ち、FeSiO3を主成分とする鉱物を発見しました。 それは、MgSiO3に富むブリッジマナイト中のマグネシウムを半分以上鉄に置き換えたものでした。それは自然界では今まで確認されたことのない鉱物でした。

 

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中国随州の隕石の一部から取り出され、単結晶X線回折研究に使用されたヒロセアイトの小さな結晶;これが構造の詳細を理解するのに役立ちました。黒色の棒は炭素繊維(直径5ミクロン)で、これはガラス棒 (画像では見えません) に付いています。(Luca Bindi)

 

ビンディはメールで次のように述べています。「地球内部に存在する非常に重要な鉱物の発見ですから、どのような名前を付けるか真剣に考えなければなりません。慎重に考慮した結果、ペロブスカイトおよびポストペロブスカイトの専門家である廣瀬 敬教授に敬意を表して『ヒロセアイト(hiroseite)』に決めました。」 

 

もうすぐ発表される論文の中で、ヒンディは「特にポストペロブスカイトの発見、およびマントル内ペロブスカイトの鉱物学全般への廣瀬教授の重要な貢献をたたえて」彼の名前を選択したと書いています。

 

20192月、廣瀬はビンディからメールを受け取りました。国際鉱物学連合の承認を申請する際に、鉱物の名前をヒロセアイトとして提出するつもりだと知らせるメールでした。そして20197月に、ペロブスカイト構造を持ち、鉄を多く含む鉱物が同連合によって正式に承認され、廣瀬の功績を認めて名前が付けられました。

 

 

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ブリッジマナイトは、ここでは赤色で示されている下部マントルの岩石中で8割を占める高圧鉱物です。それは地球の体積の約50%を占めています。その結晶構造はペロブスカイト構造です。それが、より高圧下でさらに密度の高い結晶になったものが、ポストペロブスカイトです。それは廣瀬らにより実験室で発見されました。それはマントルの最下部(オレンジ色の領域)の主要鉱物です。ヒロセアイトは、ブリッジマナイト中のマグネシウムが鉄に置き換わったもので、同じくマントル深部に存在しているはずです。

 

鉱物学では、重要な科学者にちなんで鉱物を命名する慣習があります。ブリッジマナイトも、高圧物理学の研究で1946年にノーベル賞を受賞したアメリカの物理学者パーシー・ウィリアムズ・ブリッジマン(Percy Williams Bridgman)の功績を讃えて2014年に名付けられたものです。

 

地球上には約3,800個の命名された鉱物が存在し、毎年約40~50個の新鉱物が正式に承認、命名されています。例えば、「マルヤマアイト」は、ELSIの主任研究者である丸山茂徳に因んで2013年に命名されたものです。

 

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ブリッジマナイトは地球内部で最も豊富な鉱物であり、1946年にノーベル物理学賞を受賞したパーシー・W・ブリッジマン(Percy W. Bridgman)にちなんで2014年に命名されました。(パブリックドメイン)

 

ブリッジマナイトは下部マントルの主要鉱物であり、地球内部で最も(群を抜いて)豊富な鉱物です。上述したように、地球内部の体積の半分はブリッジマナイトであり、ヒロセアイトはそれに比べるとかなり少ないと言えます。しかし、ブリッジマナイトは鉄分(ヒロセアイトの成分)を8%程度含んでいます。つまり、地球内部の4%はヒロセアイト成分で出来ているとも言えます。

 

ブリッジマナイトを合成するのに必要な圧力は24万気圧以上です(ダイヤモンドの形成に必要な5万気圧よりもかなり高い)。一方、驚くべきことに、ヒロセアイトの合成には60万気圧も必要です。これまで、それほどまでに高い圧力を必要とする鉱物は隕石中でも(もちろん地球の物質でも)見つかったことがありませんでした。隕石が元々形づくっていた母天体の衝突に関する新しい知見がここから生まれるかもしれません。

 

日本学士院賞を含む数々の賞を受賞している廣瀬は、今回の命名は「特別な名誉」であると述べています。その理由は、地球深部鉱物が自然界で発見され、新鉱物として新たに命名されるのはヒロセアイトがおそらく最後になるからです。

 

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東京工業大学地球生命研究所(ELSI)の廣瀬 敬所長。(Nerissa Escanlar)

 

廣瀬自身が発見した「ポストペロブスカイト」は、高圧下でしかその結晶構造を維持することができず、圧力を抜くと壊れてしまいます。したがって、マントル深部以外の自然界で見つけることはできないだろう、と廣瀬は言います。ヒロセアイトのあとは、地球深部の重要な鉱物が新たに命名されるということはないかもしれません。

 

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マーク・カウフマン(Marc Kaufman)は、宇宙生物学および火星に関する本を執筆し、ワシントンポスト紙とフィラデルフィア・インクワイアラー紙にて長年レポーターを務め、NASAが支援するオンラインコラムのMany Worldsを執筆中(www.manyworlds.space)。彼はまた、ELSIを幾度となく訪れており、2017年には「ELSI RISING -ことのはじまり-」を執筆した。