Research Column
Author: Marc Kaufman

 

英語版公開:2017年12月21日)

 

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三島良直東京工業大学学長は、6年間の在任期間を通じ、地球生命研究所を強力に支援してきた。

2012年10月、三島学長がその職に就任して間もなく、文部科学省による世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に、東京工業大学から申請した「地球と生命の起源を探る専門研究機関」――地球生命研究所(ELSI)――の設置が採択された。

採択のための最終審査において(WPI)プログラム委員会に対して三島学長は、この専門研究機関こそ、東工大が支援すべき先進的研究拠点にほかならない、とWPI委員らにアピールした。

三島学長は先ごろ、次のように語った。「(WPI)プログラム委員会での公式な決意表明が、学長としての私の初仕事となりました。私はELSIの設立を100パーセント支持していましたから、これは私にとってもうれしい仕事でした。」

それ以来三島学長は、ELSIの支援と推進において、前面に出ることはなくとも、常に中心的な役割を果たしてきた。WPIに対し、一貫してELSIを強力に支持し、その結果例えば、ELSIの新しい研究棟(設計は東工大・塚本由晴研究室)の建設も実現させた。そして5年が経過した今、学長としての最後の責務のひとつとして、後任者に、ELSIへの積極的な支援こそ東工大最大の利益だと、熱意を持って語っている。

三島学長の取り組みの大部分で共に尽力してきた、ELSIの副所長John Hernlundは、三島学長の存在はELSIの存続と成長に不可欠だったと言う。

「彼は、設立直後の困難な時期、私たちを導いてくれました。彼には皆敬服しました。打開策の見えない事態に何度も見舞われましたが、その都度彼は私たちを救ってくれたのです。」

一見したところ、地球と生命の起源を探る国際研究機関が、三島学長の最優先事項になるとは考えにくい。彼は元々、最も応用が進んだ科学分野と呼ぶべき、材料科学の出身だ。ちなみに、学長就任前、最後に発表した論文は、『Electron Diffraction Study on the Crystal Structure of a Ternary Inter Metallic Compound Co3AlCx(電子回折法による三元系合金Co3AlCxの結晶構造に関する研究)』というタイトルである。

ELSIでの研究が今後何らかの形で実用化される可能性がないわけではないが、それが研究所の目指すところではない。

一方で三島学長は、学際的科学においてはかなりの経験を積んでいる。東工大の学長に就任する前は、学内に設置された、従来とはかなり異なる2つの組織(フロンティア研究機構、ソリューション研究機構)の長を兼任していたし、大学院の総合理工学研究科の長も務めた。

加えて彼は、カリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得しており、新しいスタイルの教育を青年期から体験していたのである。

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ELSIは、異なる科学分野のコラボレーションを奨励する。写真は、分析化学の本郷やよい、有機化学の蟻瑞欽、地球化学のJames Cleaves、複雑系科学の青野真士が、ELSIのコミュニケーションスペース、アゴラで、化学の問題に熱い議論を交わしているところ(写真:Nerissa Escanlar)。


そんな彼にとって、科学への日本的アプローチの改革がなぜ求められているのか、そして、どの方向に改革すべきかは、常に念頭にあった。

「日本の科学の水準は極めて高く、とりわけ、材料科学、物理学、数学、などの分野では傑出しています。」と三島学長。

「100年前から、日本の教育制度はかなり質が高く、研究者が自分の専門分野に没頭できる環境を提供してきました。常に、物事をより深く追究することが目指されてきたのです。狭くていいから深く、というわけです。」

「ところが、異分野の融合や学際的研究となると、日本の科学者はあまり成果を上げていません。彼らはできるだけ自分の専門から出ないようにと懸命になる。たとえば、地球科学、化学、そして生物学を融合して、宇宙生物学を作ろうという提案に、日本人はなかなか馴染めません。」

「しかし、それは国際的レベルの科学にとって、非常に重要な方向性です――より学際的になることが求められています。これは、21世紀において不可欠な科学基盤と呼ぶべきものです。もうかなり以前から、新しいことが――物理学者と技術者、そしてできれば生命科学者も、力を合わせてイノベーションを起こすことが――必要だったのです。」

三島学長はまた、東工大をはじめ日本の大学はみな、過去100年以上にわたり基本的には同じルールで運営されてきたと指摘する。

今こそ変革の時であり、ELSIは、新しい未来を実現するための手段であると同時にモデルになり得る存在で、また、そうならねばならないと三島学長は考える。

彼が見て機能していないと思える慣習のひとつが、部局の人事裁量権を各部局長が握っているという伝統だ。「改革に消極的な教授たちもいて、私の学長在任期間を通していろいろな反対意見がありました。しかし、私たちは前進しつつあります。彼らも論理的な思考ができる人たちですし、われわれが、何を、なぜ、やっているか説明すれば、それが理に適うことは理解してもらえます」。三島学長は、固い決意で、人事裁量権の学長への移譲を実現し、ELSIを含む学内の重点拠点に対する人事権での積極的なサポートも開始した。


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ELSI副所長で地球物理モデリングの専門家のJohn Hernlundは、東工大の教授であるELSIメンバーのひとり。写真は、ELSIのポスターセッションでの訪問者への応対。


それはまさに、三島学長が2017年9月、学長としての最後のWPIプログラム委員会に出席した際に語ったメッセージそのものだ。東工大に不可欠な存在として成長する機会が、ELSIにはぜひとも必要だ――こう訴えたのである。

WPIの規定では、これまでに選ばれた9ヶ所の研究拠点は、それぞれ10年間の大規模な補助金を保証され、その延長を求める機会を1度提供される。これまでのところ、審査を受けた5拠点のうち、補助金の延長を認められたのは1ヶ所――東京大学のカブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)――のみだ。それ以外の研究拠点は、将来の資金を、主にホスト機関である各大学に頼らざるを得ない。

三島学長は、ELSIと東工大は、今から2年後(当初の補助金が残り2.5年となる頃)に、支援延長の申請をする予定だと言う。他のWPI研究拠点の実績もかなりのものだが、それでも彼は、ELSIが5年の延長を獲得する可能性はあると見る。

東大のカブリIPMUがWPI支援の延長を勝ち取った要因のひとつがまさに、米国を拠点とするカブリ財団から寄付金を得て、そのパートナーとなったことだった。外部からの支援の確保が、WPIが自ら選んだ研究機関への補助金継続を決定する、判断基準のひとつとなったのだ。

ELSIの未来は、三島学長の後任がどれだけの熱意で支持してくれるかにも左右される。三島学長は3月に退任することになっており、すでに2017年秋に、益一哉教授が後任に選出されている。

ELSIへの基本的な支持は学内にすでに存在しており、誰が後任になろうとも、それを維持したいと考えるはずだという三島学長の期待どおり、益新学長も協力的だ。しかし三島学長の望みは、ELSIがWPIの必要条件としての存続を続けることに留まらない。ELSIの成長と拡大こそ彼が切に望むところだ。

これまでに多くのミーティングを三島学長と行ってきた、ELSIの所長、廣瀬敬も、三島学長は常に力強い味方だったと認める。

「三島さんは、バークレー(カリフォルニア大学)で大学院生だった当時、非常にいい経験をされており、東工大をバークレーのようにしようと努力を続けておられます。」と廣瀬は言う。「東工大はグローバル化せねばならない、さもなければ、世界における東工大の存在感は、次第に希薄化せざるを得ない、というのが彼の信念です。」


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ELSIでの会合に出席する三島学長

三島学長は、グローバル化への自らのビジョンの実現に向け、日本政府が打ち出したスーパーグローバル大学創成支援プログラムに採択されている。この政府プログラムは、海外の傑出した大学との共同研究事業に補助金を支給し、グローバル化を担う日本の学生を育成することを目指している。


三島学長は、間違いなくグローバル化支持者である一方で、東工大キャンパス内の既存の才能と専門知識を非常に重視していると述べ、それを「守りたい」と言う。

「自分が関心を抱いているテーマを深く研究することに真剣に打ち込む科学者たちは、本学にずっと留まってもらいたい。それに、私は何も、基礎研究よりもグローバル化のほうが重要だなどとは言っていません。私たちは、基礎科学に取り組む人々を守ると同時に、より革新的な研究を行う素地を作らねばならないのです。」

「しかし、ELSIは成功を続けていますし、おかげで私たちは、国内でも、また、世界的にも、傑出した存在となっています。」と三島学長は語る。「ここでは、海外からの科学者たちが大勢研究を行っており、また、数百人の科学者が、客員研究者として海外から来ているのです。」

「ELSIは、私が本学全体に導入しようと努力してきたものの、モデルだと言えるでしょう。」